Kroiの初日本武道館公演で味わった圧倒的な自由 「もっと高みへみんなを連れていく」歌に乗せた誓い

 ライブの最大の魅力は、“自由”を実感できることだ。などと大の大人が真剣に書くと引かれてしまいそうだが、優れたライブには、凝り固まった思考の枠を取り払うと同時に、身体的な解放感を与えてくれる力がある。90年代にクラブチッタ川崎で観たSonic Youth、2000年『FUJI ROCK FESTIVAL』でのTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT、2017年にZepp DiverCity Tokyoで行われたBelle and Sebastian、2021年に新木場 USEN STUDIO COASTで開催されたDC/PRGの解散ライブ、2023年春におけるDOMi & JD BECKのブルーノート東京公演など、筆者はこれまでのリスナー人生のなかで、生の音楽がもたらしてくれる最高の自由を何度も受け取ってきた。ジャンルや音楽性はまったく違うが、これらのアーティストに共通しているのは、自らのルーツミュージックに対する理解とリスペクト、そして、既存の価値観をひっくり返す独創的なスタイル。この相反する要素が一つになったとき、オーディエンスはそれが演奏中だけの刹那だとしても、圧倒的な自由を味わうことができるのだと思う。

 前置きが長くなってしまったが、Kroiの初めての日本武道館公演『Kroi Live at 日本武道館』は、まさに“自由そのもの”のようなライブだった。

 R&B、ファンク、ソウル、ロック、ジャズ、フュージョン、ヒップホップなどのルーツミュージックを血肉化し、その場所、その瞬間にしか生まれないグルーヴへと結びつける。そんなKroiのスタイルは、ライブの幕開けを告げるジャムセッションから完璧に体現されていた。そもそも初の武道館で“とりあえずジャムりますか”みたいな選択ができること自体がヤバいのだが、それが最適解であることは、気持ちよさそうに体を揺らすオーディエンスが証明している。そのまま音を切らすことなく「Fire Brain」に突入。ステージの中央に掲げられていたKroiのロゴが溶け出し、オイルアート的なサイケデリックな映像が映し出され、凄まじい歓声が沸き起こった。さらに「Drippin' Desert」「shift command」と楽曲をつなぎ、満員の武道館(チケットはソールドアウト)のテンションをしっかりと引き上げていく。最初のピークは「夜明け」。基本ワンコードで進行し、〈もうじき朝が来る 正直一睡もしてない〉というフレーズを繰り返し、関将典(Ba)、千葉大樹(Key)のソロ演奏を挟みながら熱量を上げていくというKroiでしかありえない構成の楽曲が響き渡り、観客のテンションは一気にピークへ。リズムと同期しながら鮮やかに切り替わるライティングも最高だ。

 「広い(会場用の)MCってあるでしょ? 益田さんだったらどうやるの?」という内田怜央(Vo/Gt)のフリに対して、益田英知(Dr)がすかさず「みなさん盛り上がってますか?!」とハイトーンでシャウト。すると「ピッチ感とかいいんだけど、(声が)細いんだよ」「いまひとつ迫力に欠けるよね」などとダメ出しが入る。MCのユルさもいつも通り。気負ったところはまったく見えない。

 「まだ全然やってないから、やろっか(笑)」(内田)という言葉から、濃密なファンクネスをたたえた「Mr. Foundation」、軽快なグルーヴが心地いい新曲「Sesame」(TVアニメ『ぶっちぎり?!』OPテーマ)、サビのフレーズで大合唱が生まれた「Monster Play」など様々な時期の楽曲をシームレスに結びつけていく。華やかさと渋みを兼ね備えた長谷部悠生(Gt)のギターソロ、バンド全体のアンサンブルを俯瞰しながら的確なフレーズを差し込む千葉、多彩にして濃密なグルーヴを生み出す益田、関のリズムセクションなど、“全員が主役”感もめちゃくちゃ楽しい。

内田怜央
長谷部悠生
関将典
益田英知
千葉大樹

 既存の曲にはアレンジが加えられ(おそらくはその場のノリで出てきたフレーズもかなり入っていたと思う)、音楽的な楽しさと強烈なダイナミズムを表現。楽器の巧さを誇示するのではなく、自分たちの音楽の自由度を確保するためにテクニックを使う。そんなスタンスもまた、Kroiのライブの解放感につながっているのだと思う。

 ライブ中盤のポイントは「Hyper」だった。TVアニメ『アンダーニンジャ』OPテーマとして制作されたこの曲は、グランジ、ヘビィロック、ヒップホップなどを融合したミクスチャーロックの進化形と称すべき楽曲。バンドの知名度をさらに引き上げた威力は初の武道館でも存分に発揮され、観客のテンションを一気に増幅させた。

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