アツキタケトモ×柴那典、2023年の音楽を語り尽くす 最新曲「匿名奇謀」と「#それな」に反映された信念

RIIZE、BE:FIRST、超特急……ダンスボーカルグループにハマった2023年

柴:ここからは、2023年を振り返っての話も聞かせてください。まずはアツキタケトモにとって、昨年はどういう年でしたか。

アツキ:リリースとしては、アツキタケトモとしての活動を始めてからいちばん少ない年で。「NEGATIVE STEP」、「自演奴」、「#それな」と3曲しか出してないので、そういう意味では少ないリリースだったけど、一曲の濃度が確実に高まっている感じはありますね。あと、3月にTHE SUPER FRUITに「素敵なMy Life」という曲を提供して、12月にも世が世なら!!!に「EGUI」という曲を提供したんです。つまり、オーダーに応えて作ったものがちゃんと作品として世に出たということで、しかも「EGUI」は久しぶりにアレンジから演奏まで全部自分でやって。自分のやりたいことを突き詰めながら、誰かに届くもの、誰かが求めているものに対して応えるということに対してちゃんと向き合いながら、自分の音楽的な濃度も高められた一年だったと思います。

柴:なるほど。リスナーとしてはどうでしょう? どういうシーンやトレンドに興味が向かったり、興奮したりしていましたか?

アツキ:作り手としての自分のリファレンスで言うと、2000年代初頭のR&B、それこそジャスティン・ティンバーレイクとか、TLCの『Fanmail』をめちゃめちゃ聴いていました。あとは、サンファのアルバム『Lahai』も作り手として刺激された感じがあって。構成の面白さや歌をリズムとして持ってくる感覚とか、そういう意識で聴いてましたね。純粋にリスナーとして刺激を受けたもの、興奮していたものは、ダンスボーカルグループが多かったです。

柴:ダンスボーカルグループというと、どのあたりでした?

アツキ:去年はTikTokをよく見るようになったのもあって、たとえばRIIZEの「Get A Guitar」とかは、まずドロップのところがめっちゃかっこいいなって思って、フルで聴いたら「完璧な曲だな」と思ったりして、興奮していました。ポップ性と音像のかっこよさとか、譜割りとビートの持っていき方の面白さもありましたね。テレビで観たなかでいちばん衝撃的だったのは、BE:FIRSTの「Mainstream」だったと思います。音数も少ない、サビという概念がないような曲を作って、でもあの佇まいとダンスでポップにさせてしまうという。お茶の間に向けていちばん面白いことをしている、ひっくり返してるって思います。

柴:BE:FIRSTの「Mainstream」ってすごく革新的ですよね。僕のスタンスだとヒットチャートから物事を語ることが多いんですけれど、一昨年あたりからタイアップの強さが明確になってきている、特にアニメ主題歌が影響力を持つようになっているというのがあって。音楽がドラマやアニメのストーリーとか、何かと結びついて聴かれるようになっていると思うんですよ。そのなかで、BE:FIRSTの「Mainstream」は何のタイアップでもない。彼らのクリエイティブとしか結びついていない。それでありながら、これだけ一年を代表するヒットになったという。海外では当たり前のことなんですけれど、今のJ-POPではすごく珍しいタイプのヒットになった感じがありますね。

アツキ:そういうところもオルタナティブだし、カウンターカルチャーだと思ったんですよね。作曲者とパフォーマーが違うからこそできることがあるとも思います。去年、楽曲提供したグループのライブを観させてもらった時に、「自分の曲がこんなに拡張されるんだ」みたいな驚きがあって。がっつりフォーメーションを組んで表現するからこそ、曲のかっこよさとかかわいさを引き出せるというのもあったし。音を作っている段階で「ここがブレイク」ということを意識して作っているわけじゃないですか。ダンスって、それを視覚情報として伝えることができるんです。ダンスは、音楽的な気持ちよさや面白さ、聴きどころをリスナーに伝えるガイドラインになるんだなと感じました。

柴:たとえば、三浦大知さんはそういうシンガーソングライター的な表現とダンスの表現の両方を、非常に高いレベルでやっているアーティストですよね。「能動」もとてもヤバかった。

アツキ:めちゃめちゃヤバかったです。一度聴いた段階で、もうよすぎて笑うしかないなと思いましたね。

柴:「能動」は、僕、『908 Festival』のライブで初めて体感したんですよ。なので、「何が起きたんだ!?」って思うくらいの衝撃があった。ダンスを見ると、曲のどこに力があって、それがどういうふうに広がっていくかということの作用点みたいなところを身体の動きで表現している。なので、コレオグラフとシンガーソングライターとの原理的な一体感がある。そういうアーティストは数少ないし、そのなかでは世界レベルの貴重なことをやってるなって思いました。

アツキ:まさに僕もそう思いました。音だけ聴いたら、相当難しいんですよ。でも、全部のクリエイティブ込みで、テレビのゴールデンタイムでやっても成立するようなポップスになっている。それができるということは、逆に、どれだけ音楽的に攻めてもポップスにできるということでもあって。そういう意味では、今はすごい面白い時代だなっていう興奮を与えてくれたのもこの曲でした。

柴:他にはどういう曲が気になりました?

アツキ:TikTokで見て超特急にハマったというのはありますね。TikTokは、ダンスだけじゃなく、オフショットの動画も回ってきたりするんですよ。メンバー9人が男子校のノリでワイワイしてるのがすごく親近感があって。僕自身、もともとグループYouTuberが好きなんですけど、それはなぜかと言うと、学生時代、友達の輪のなかに入りたいけど嫌われたくないからお調子者になるというポジションを取れなくて、それで居づらさとか疎外感を感じたりしていたんですけど、でも友達が会話しているのを聞くことは好きで。そういうグループYouTuberの男子校ノリを映像で見ると、その場にいても傷つかずに友達の話を聞いているということの疑似体験をしているような感じがあったんですよね。そういうところから興味が湧いて、「Call My Name」という曲を聴いたら、音はめちゃめちゃかっこいいし、曲もキャッチーだし、尖ったところもありつつ、かわいさとか人懐っこさみたいなものもあるなと思って。また全然違う形でメインストリームになってきそうな気がします。スタイリッシュな音像だし、攻めるところは攻めているんだけれど、ポップスのツボもついてくるっていう。キャッチーさとオルタナ性みたいなものの両方感じつつも、人柄としてはとっつきやすい、みたいな。その感じも含めて、年の後半は超特急にハマってました。

進化したTikTokのアルゴリズムとアメリカの“今”が表れるヒットチャートの動向

柴:TikTokの話をすると、僕自身は最近どんどんTikTokがわからなくなっているところがあって。僕自身のタイムラインには、ダンスボーカルグループは全然出てこなくて。邦ロックのバンドか、もしくはピンクパンサレスやケニヤ・グレースのようなUKのベッドルームのドラムンベースをやっている人がどんどん回ってくる。たとえば、「新しい学校のリーダーズの“首振りダンス”がTikTokでバズってヒットしました」みたいなことがメディアで言われていても、それは個人の実感には結びついていない。アルゴリズムのパーソナライズがどんどん進んできた感じがあるんです。なので、率直に言うとTikTokがわからなくなった2023年でした。

アツキ:今の話を聞いて、僕も「流行っている」というトレンド感みたいな肌感覚って、マジで人によって全然違うと思います。そういう特性がある以上、みんなそれぞれかなり違うトレンドを見ている。僕がTikTokにハマれたのは、そのおかげなのかもしれないですね。“みんなのTikTok”に乗せられてる感じがなくなってきたから見やすくなったというか、アルゴリズムが正確になってきたからこそ、その人にとって本当に見たい動画がちゃんとある状態になってきたというか。

アツキタケトモ

柴:NewJeansはどうでした?

アツキ:音源とかMVのクリエイティブも含めて好きなんですけど、いちばん大きかったのは『SUMMER SONIC 2023』の思い出でしたね。あの暑さのなかで、あれだけの人数が「絶対に目に焼きつけてやる」みたいな熱量を持っているのを目の当たりにして。そういうインパクト、スター性、カリスマ性も含めて、それが日本だけじゃなく他の国でもそういうことが起きていると考えた時に、「やっぱりスターってすごいな」って思いました。これまで、リアルタイムでそういうスターが誕生する瞬間をあんまり見てなかった感じもするので。

柴:NewJeansは完全に事件でしたね。プロデューサーのミン・ヒジンはいろんなアンテナを張っているけれど、確実に渋谷系も含めたJ-POPの潮流にもセンスのルーツのひとつがあるのを感じるし。隣の国で何かが起こっていることというよりは、東アジアが一体になった新しい何かが起こっているような感じがあります。

アツキ:たしかに。巻き込んでいる感じというか。そういうのはありますね。

柴:僕のほうからもう一曲挙げるとするならば、JUNG KOOKの「3D (Justin Timberlake Remix)」。これは「#それな」の話をするうえで選ぶべき一曲っていうふうに思っていたんですけど。

アツキ:まさに。それこそ「3D」を聴いたら、自分がジャスティン・ティンバーレイクの感じをやりたいと思ってたのをトップスターが完璧な形でやったと思って。しかも、そのあとにリミックスが出て。答え合わせみたいな感じでした。

柴:NSYNCからジャスティン・ティンバーレイク、BTSからJUNG KOOKという、グループのひとりがソロをやるという文脈もちゃんと踏襲してますよね。

アツキ:そうそう。

柴:もうひとつは、ノア・カハンの「Dial Drunk (with Post Malone)」。ノア・カハンというのはカントリーミュージックのシンガーソングライターなんですけれど、2023年後半の僕のリスナーの趣向が変わったきっかけの曲なんですね。アルバム自体は昨年に出ていたんですけれど、ポスト・マローンをフィーチャリングしたこの曲のリミックスバージョンが出たのをきっかけに、下半期はカントリーばっかり聴くようになった。ノア・カハンから、ザック・ブライアン、モーガン・ウォーレン、ルーク・コムズと、今アメリカでヒットしているアーティストって本当にカントリーばかりなんです。そういうのを聴いたり、ひたすらプレイリストを聴いて「これは個人的にアリ」か「個人的にナシ」かを腑分けするような聴き方をしていたら、なんとなくわかってきたことがあって。

アツキ:どういうことですか?

柴:カントリーって、基本的にはアメリカの田舎の音楽で、保守的なジャンルなんですけれど、今どんどん変わってきている流れがあるんですよ。かつてのアメリカンロックも吸収しつつあるし、それこそザック・ブライアンがボン・イヴェールと一緒にやっているように、インディーミュージックの領域にも侵食し始めている。そうやってカントリーがどんどん大きくなっているのって、やっぱりアメリカという国が全般的にすごく内向きになっていることの象徴だと思っていて。その一方で、NewJeansやJUNG KOOKのようにK-POPの人たちのほうがよっぽどグローバルな発想を持っていて、それが浮き彫りになっている。そういうトレンドがヒットチャートから見えてきて面白かったという感じです。

アツキ:なるほど。「なんで今こんなにカントリーがキているんだろう?」って、よくわからなかった部分があって。数年前とかって、HIPHOPばっかりだったじゃないですか。

柴:特に2023年は、アメリカにおいてはラップミュージックがヒットチャートにおいては勢いを失った年でもあると思うんですよね。そういうところでも、トレンドの変化が起こっている。そういった部分も興味深かった2023年でした。

『匿名奇謀』

■リリース情報
Digital Single『匿名奇謀』
配信中
*アニメーション映画『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』主題歌

配信URL:https://atsukitaketomo.lnk.to/tokumei-kibou

Digital Single『#それな』
配信中
*ドラマ『佐原先生と土岐くん』(MBS ドラマシャワーほか)エンディング主題歌

配信URL:https://atsukitaketomo.lnk.to/sorena

『#それな』

アツキタケトモ オフィシャルサイト:https://atsukitaketomo.com
X(旧Twitter):https://twitter.com/atsukitaketomo
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