なぜフォークシンガーがフリースタイルバトルに挑戦? 死神紫郎が明かす、呂布カルマからの影響
弾き語りや太鼓叩き語りなど、さまざまな形で音楽活動に取り組んできた死神紫郎。フォークシンガーという印象も強かったが、近年はラッパーとしてフリースタイルバトルに挑戦したり、楽曲をリリースしたりとヒップホップシーンに進出している。ライブで共演する中で呂布カルマから受けた影響、「ラップは嫌いだった」という彼がなぜラッパーとして活動するようになったのかなど、赤裸々に語ってもらった。(編集部)
呂布カルマからの“説得力のあるディス”で意識が変わった
――死神さんは、元々ラップにどんな印象を持っていましたか?
死神紫郎:実はラップは嫌いだったんです。ラッパーは、ブカブカの服を着て、お決まりの帽子を被ってバンダナを巻いて、誰かになりたがっているような人たち。ラップは、何となく悪そうな人たちが悪そうなことをやってる音楽っていう印象があったので、自分と交わることは一生ないだろうなと。
――ある種の偏見を持っていたわけですね。
死神紫郎:そうですね。元々自分は日本独自の発展を遂げたものが好きなんですよ。たとえばヴィジュアル系は日本人が作った新しいジャンルとして進化してきたし、フォークは元々海外の音楽ですが演歌や歌謡のテイストが入って進化してきました。そういう音楽こそがかっこよくて、他はイマイチだと。深く掘らずにそう思っていました。
――ラップへの印象がポジティブに変わったのはいつですか?
死神紫郎:『フリースタイルダンジョン』(2015年にテレビ朝日系で始まったラップバトル番組)を見てからですね。その番組にGOMESSさんという気になるラッパーが出ると知って見てみたんです。そうしたら自分が思っていたような“誰かになりがたってるような人”ばかりではなくて、独自の進化を遂げた人がたくさんいることに気づきました。DOTAMAさんとかもそうですね。さらにバトルシーンを掘っていくうちに、呂布カルマさんを知って、「これはすごいぞ」と。さらに、彼がリリースしている楽曲を聴いたら、日本語の語感を活かしながら抒情的でエッジの効いた、非常に独自性の高いラップをやっていたんですね。呂布さんのラップは日本語が起立してるんですよ。リズムの上に流れていかず、きちっと立っている。それらを聴いて、ラップは独自に進化できる音楽ジャンルなんだなと気づいたんです。この時点で、「自分もいつかやってみたいな」とぼんやり思っていました。
――それがラップを始めるきっかけだったんですね。
死神紫郎:音楽仲間と集まった時に、遊びでフリースタイルをやってみたことはあったんですが、一言二言で止まっちゃうので、俺にはラップは向いてないなとはじめは思ってましたね。でも2017年辺りから、呂布カルマさんを自分の企画ライブに呼んだりして毎年対バンしていたので、ライブを目の当たりにしていくうちにだんだんと自分とラップの距離が縮まっていった感触がありました。
――呂布さんのライブからどんな影響を受けましたか?
死神紫郎:2018年に下北沢THREEでやった自分の主催ライブで、呂布さんがステージ上から「アンダーグラウンドが群れてんじゃねぇ」ってディスったんですよ(笑)。でもそれも愛のある喝だったんだと思います。今考えると当時はどこか自分の中で、「アンダーグラウンドでいいんだ」っていう意識があったように思うんですけど、呂布さんはアンダーグラウンドを飛び出した世界で、トップアーティストたちと対等以上に渡り歩いている。そういう説得力のあるディスをかまされたことで、自分の意識が変わった部分はありますね。「死神も早く、アンダーグラウンドを越えてこい」みたいな。
――2021年5月には、初めてのMCバトルイベント『戦極BATTLE TOWERⅢ』に出場しています。
死神紫郎:ラップを始めてまだ3カ月で、フリースタイルの練習もしたことがなかったんですが、気づいたら申し込んでました。他のラッパーのバトルを見てるとき、野球を見ながら野次を飛ばす感覚で「もっとこう言い返せばいいのに」とか思っていたんですよね。でも俺はもともとそういう人が嫌いなので、まずは自分が出なきゃと思って予選会に応募しました。100人くらいいて、普通に予選は落ちたんですけどね(笑)。そのあとは『Red Bull 韻 Da House 2021 東京予選』というフリースタイルラップバトルに応募して、オーディション動画を見た審査員の人たちが面白がってくれて、初めて大きな大会に出られました。
――大会の中で印象に残っているラッパーはいますか?
死神紫郎:たくさんいますけど、『Red Bull 韻 Da House 2021 東京予選』でバトルしたPONEYさんは印象的でしたね。彼は今年、48時間連続フリースタイルRAPがギネスで世界記録に認定された方なんですが、映像で見るよりも生身で対峙したときのフリースタイル筋力が半端ないなと。自由に言葉が引き出せる強靭なボキャブラリーを持っていて、音楽として操るリズムやフロウが上手いので、強くしなやかなラップをする人だなと思いました。
あとは昨年出場した『真ADRENALINE-新生BATTLE 外伝編-』で対峙したMOL53さんも印象に残ってます。彼とは面識があったわけではないんですが、ずっと倒したい相手だったんです。この人は倒さないと気が済まない。不思議とそう感じていました。若手に痛烈なディスをすることも多いラッパーなので、「若者にそんな風に言ったら可哀そうだろ、俺が倒してやる」っていう気持ちでした。
――実際にバトルのステージへ立ってみてどうでしたか?
死神紫郎:バトルの後は、戦った人を好きになるなって思いました。昨今は「MCバトルはスポーツだ」と言われることもあるようですが、自分は本当に戦いのつもりで挑んでいます。本気で言葉を交えて戦うからこそ、相手の真剣な気持ちや音楽に対する情熱が感じられて、それを受け取るとなかなか嫌いにはなれないですよ。やっぱり対面して戦うと、その人のミュージシャンとしての歴史みたいなものの情報が一気に入ってくるんですよね。不良が喧嘩したあとに仲良くなるみたいな感覚に近いのかもしれません。
――死神さんのビジュアルやフロウはインパクトが強いので、バトルでも印象に残りそうですね。
死神紫郎:自分にオファーが来るときは、“他ジャンルから来た坊主の演歌兄ちゃん”みたいな枠で呼ばれていると思ってます。でもヒップホップの人たちって、よそのジャンルから来た人間を歓迎してくれる雰囲気があるんですよね。だから会場でも他のラッパーとよく交流してます。人気のあるジャンルってやっぱり懐がでかいです。