ヒャダイン×光田康典『スーパーマリオ』対談 サントラの緻密な仕掛けからゲーム音楽の変遷まで

光田康典&ヒャダイン、「マリオ」の音楽から受けた影響

――お二人も「スーパーマリオ」シリーズや任天堂作品に触れて育ってきた世代だと思いますが、改めて「スーパーマリオ」シリーズとその音楽にまつわる思い出をお聞かせいただけますでしょうか。

光田:僕が小学生の頃はゲームセンターで『ドンキーコング』を遊んでいた時代ですが、それが家庭でも遊べるファミコン(ファミリーコンピュータ)が1983年に発売されて、僕もすごくほしかったのですが、うちでは買ってもらえず(笑)。なのでファミコンを持っている友達の家に毎日のように遊びに行っていた記憶がありますね。『マリオブラザーズ』はほぼ効果音のみでしたが、その後に登場した『スーパーマリオブラザーズ』の音楽がすごく印象的で。地上や水中、地下、どのフィールドの楽曲もメロディのインパクトが強くて、メロだけ抜き出しても成立してしまうんですよね。それがマリオの音楽のすごさで、子どもながらに耳コピして学校のピアノでメロディを弾いたりしていましたから。

ヒャダイン:そうそう、わかります。

光田:ファミコンの音楽は基本3音で構成されているので、メロディを聴き取りやすいんですよね。今のゲーム音楽は複雑すぎて、なかなかメロディだけで世界観を作るのは難しいですし、子どもが耳コピするのは無理じゃないですか。シンプルでありながらインパクトがあって、これだけ長い間愛され続けているメロディ。自分も死ぬまでに一度はそういうメロディを書いてみたいですけど、たぶん無理ですね(苦笑)。

ヒャダイン:時代もありますからね。僕も『スーパーマリオブラザーズ』の音楽はすごく記憶に残っていて。なかでも地下BGMの「ドゥドゥドゥドゥドゥドゥ」っていうのがすごいですよね。

光田:あれは思いつかないですよね(笑)。普通は書けないと思う。

ヒャダイン:ですよね。あの音楽に合うコードはないと思うし、拍も取りづらいけれど、すごく音楽的で。そこから『スーパーマリオブラザーズ2』『スーパーマリオブラザーズ3』『スーパーマリオワールド』とシリーズを重ねていって、スーパーファミコン以降は音楽的にできることもどんどん増えていきましたけど、どの作品もちゃんとトーン&マナーが同じで、愉快で楽しい感じなんですよね。「マリオカート」の音楽も、レースゲームに寄せた感じだけどやっぱりマリオのトーン&マナーになっていて。そういう安心感はありましたよね。

光田:そこはもしかしたら1人の作曲家が作られているからというのもあるのかもしれないですけど、とはいえ近藤さんは“マリオの世界観”を狙って作っていたんでしょうね。というのも初代の『ゼルダの伝説』(ディスクシステム)の音楽も近藤さんが作られていますけど、ちょっとした怖さというか独特の世界があって、マリオの音楽とは全然違うんですよね。だから近藤さんの中で「マリオの音楽はこういう世界なんだ」というイメージがしっかりとあって、その枠から出ないように作られていたんだと思います。

ヒャダイン:今回の映画ではタイラーさんと近藤さんが密にコミュニケーションして音楽の制作を進めたようなので、どんなことを話されたのか聞いてみたいですよね。近藤さんから「それはマリオではない」みたいなディレクションがあったのかなと思って。

――光田さんが『マリオパーティ』の音楽を制作したときは、近藤さんとやり取りされたのですか?

光田:いえ、直接のやり取りはなかったです。でも、メインテーマのアレンジに関しては、おそらく近藤さんがチェックされたんじゃないかと思います。デモを(任天堂サイドに)提出して、「こういう感じでいかがですか?」というお伺いは立てたので。『マリオパーティ』の音楽を作ったときは、特に細かい指示はなくて、「ビッグバンドジャズみたいな音楽にしたい」というお話だったので、そういう方向性で完全にオリジナルで作っていったんです。ただ、どうしても「ここはマリオの音楽のモチーフがあったほうが雰囲気が出ていいんじゃないか」と思う部分があったので、こちらから「モチーフを使っても大丈夫ですか?」という連絡を入れて使わせていただいて。やはりどうしてもあのメロディが欲しくなるんですよ(笑)。

ヒャダイン:わかります(笑)。僕も過去に一度、『大合奏!バンドブラザーズP』(3DS)という作品で、スター状態の楽曲のメロディを引用した「Starlight」という歌ものを任天堂公式で作ったことがあるんですけど、あれは楽しかったですね。スター状態の楽曲は2音しか使ってないのにインパクトがすごいんですよ。いい経験をさせていただきました。

――ヒャダインさんはゲーム音楽からの影響を公言されていますが、「スーパーマリオ」シリーズの音楽からも刺激を受けている部分はありますか?

ヒャダイン:マリオの世界の音楽は一つひとつが好きなので、たくさん刺激を受けていますし、そこからインスパイアされて楽曲が生まれたことも往々にしてありますね。6~7歳の頃から『スーパーマリオブラザーズ』で遊んでいたので、それが音楽の原体験になっていて。だって僕はマリオの地上BGMでシャッフルと三連符を覚えましたから(笑)。その意味では音楽的にもすごい情操教育ですよね。だから音楽家として影響を受けている部分は少なからずあると思いますし、誰しもがあるんじゃないでしょうか。

「映画『スーパーマリオ』の音楽は、ゲーム音楽における第1章の区切り」(光田)

――せっかくの機会なので、お二人が感じるゲームミュージック全体の魅力や制作において感じる醍醐味をお聞かせいただけますでしょうか。

光田:最近はゲームというよりも映画に近づいてしまっていて。本来、ゲーム音楽というのは新しいハードウェアが出るたびに、そのハードが持つ性能の中でどういった表現ができるか――つまり、他のメーカーよりも良い音で鳴らしたり、あっと驚くような要素を入れるために、“ハードウェアを完全に使いこなすために工夫する楽しさ”みたいなものがあって。でも、最近のゲーム機では好きなことができるので、その分フォーカスが甘くなって、音楽的な印象が薄くなっている感覚があるんですね。

ヒャダイン:なるほど。

光田:昔のゲーム音楽は鳴らせる音数が限られていたので、フォーカスがメロディに1点集中だったわけですよ。そうすると作曲家はみんな「良いメロディを書く」ということに力を入れるので、やはり記憶に残る音楽が多くなるんですよね。作曲家にとっては、自分の表現したいものが実現できない、容量の関係で省かなくてはいけないといったことがあるので、その意味でのストレスは半端ないのですが、音楽においてミニマムに削っていく作業がいかに大事なのかということを、僕は当時のゲーム音楽で学びました。なので今でも、仮にオーケストラを録るとしても、無駄な音は入れないですし、必要ない音は全部省いていきます。

ヒャダイン:選択肢が多いことは必ずしも良いことではないですからね。僕も昔ながらのゲームミュージック、ミニマムに削った上で伝えたいものを真っ直ぐ表現する音楽を聴いて育ってきたのですごくわかります。ミニマムだからこそ、その音色も含めて記憶に残りますし、その意味では昔のゲームのほうがストレートに表現していたんだなと思います。今のゲーム作品は、基本容量に関係なくフルオケで音楽を録ることもできますけど、チャットしながらプレイする作品も増えましたし、下手したら音楽を聴いてくれていない可能性もあるんですよね。

光田:そうそう、そうなんですよね(笑)。

ヒャダイン:とはいえ、僕も先日、有名タイトルのゲームに1曲だけ参戦したのですが、そのときにゲームクラスタの方はみんな大騒ぎしてくれましたし、やはりゲーム音楽はみんなに愛されていることを肌で感じて。あと、ゲーム音楽は世界を飛び越えますよね。どんな国に行っても知っている人がいて。

光田:世代も飛び越えますからね。小さい子どもから、ゲームで育ってきた僕らのようなオヤジ世代もみんな好きですし(笑)。そういった意味ではゲームやアニメといった文化は、世界と勝負できる日本のエンタテインメントなんだと思いますね。

――お二人ともゲームに限らず、アニメの音楽も多数手がけていらっしゃいますものね。

ヒャダイン:今はSNSがあるので、いろんな国の方に聴いていただいていることは感じますよね。マリオの音楽ほどのインパクトは残せないですけど。こんなにもユニバーサルなものはなかなか生まれないと思います。

光田:ですよね。やっぱり長い年月をかけて作られてきたコンテンツですから、その重みがあると思います。やはり今回の映画も、一緒に育ってきた時間が体に刷り込まれているからこそできたものだと思うので……ぽっと出の新しいゲームタイトルやアニメ作品では勝てないですよね(笑)。

ヒャダイン:任天堂がすごいのは、自社のIP(知的財産)をずっと古いものにさせないために、たゆまぬ努力をしていることですよね。マリオも「マリオカート」や『スーパーマリオメーカー』といった派生作品を出したり、「スマブラ」のような作品でキャラクターを全員集合させて露出することによって、いろんな世代に浸透させるっていう。なので今回の映画の成功も、40年の努力があったからこそだと思います。

――加えて今回の映画は「スーパーマリオ」シリーズだけでなく、日本から生まれたゲーム音楽の魅力と可能性を改めて伝えてくれるような作品に感じます。

光田:まさにその通りだと思います。今から約30年前、僕がゲーム音楽の仕事に就いた当時は、ゲーム音楽の地位は非常に低く見られていたんですよ。アレンジバージョンを作るときに、プロのミュージシャンをスタジオに呼んでレコーディングを行うことがあったのですが、「ただのピコピコ音でしょ?」みたいな言われ方をすることもあって。でも、こうして今、2023年に、これほどまでにゲーム音楽というものが世界的に認められた瞬間が訪れて。この映画を観て育った子たちが、この先演奏家や作曲家になることで、いずれ1つのクラシックとして扱われることになると思うんです。しかもその音楽は、8ビットサウンドを使いつつも、現代にマッチするような楽曲になっていて。なおかつ、それを音楽として評価してくださる方がたくさんいらっしゃることが、ゲーム音楽をやっている身からすると本当に嬉しいことなんですよ。そういった意味で今回の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の音楽は、ゲーム音楽というジャンルにおける第1章が終わった区切りだと思うんですよね。

ヒャダイン:おおー!

光田:じゃあここからゲーム音楽はどう進化していくのか、これからまた何十年と積み重ねていくなかで、僕らはどういう音楽を作っていかなくてはいけないのか。もう一度考えさせられる時期にやっときたんだなと思います。

ヒャダイン:素晴らしい! そういった意味でも今回の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の大ヒットはすごかったですよね。任天堂にはまだ『ゼルダの伝説』も『星のカービィ』もある。ヨッシーもまだ本格的には映画に出ていないですし。だからこれは“狼煙上げ”だと思うんですよね。下手したらもう次回作どころか3作目くらいまで作り始めているんじゃないですかね(笑)。

■リリース情報
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー サウンドトラック』
購入リンク:https://lnk.to/SMBM_OST_Japan

CD:¥3,500(税込)
商品ページ:https://www.umaa.net/what/smbm_cd.html
・CD2枚組
・歌詞、対訳、ローリング内沢による解説入りのライナーノーツと帯が付属
・豪華6枚パネルパッケージ
・クッパ役のジャック・ブラックが歌う「Peaches」
・ブライアン・タイラーによるスコア楽曲
・近藤浩治による任天堂のオリジナルテーマ曲

2LP(レッド&グリーン):¥9,976(税込)
商品ページ:https://www.umaa.net/what/smbm_lp.html
・赤&緑のカラーレコードLP2枚組
・歌詞、対訳、ローリング内沢氏による解説入りのライナーノーツと帯が付属
・クッパ役のジャック・ブラックが歌う「Peaches」
・ブライアン・タイラーによるスコア楽曲
・近藤浩治による任天堂のオリジナルテーマ曲

<収録曲(アナログレコード、CD、カセットテープ)>
Press Start
King of the Koopas
Plumbin’ Ain’t Easy
It’s a Dog Eat Plumber World
Saving Brooklyn
The Warp Pipe
A Strange New World
The Darklands
Welcome To The Mushroom Kingdom
Peaches
2 Player Game
The Mushroom Council
The Plumber and the Peach
Platforming Princess
World 1-1
The Adventure Begins
Lost and Crowned
Imprisoned
Courting the Kongs
Super Marios Bros. Opus
Drivin’ Me Bananas
Rumble in the Jungle
Karts!
Practice Makes Perfect
Buckle Up
Rainbow Road Rage
Blue Shelled
Level Complete
An Indecent Proposal
The Belly of the Beast
Fighting Tooth and Veil
Tactical Tanooki
Grapple in the Big Apple
Superstars
The Super Mario Brothers
Bonus Level

■関連商品情報
●『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(Blu-ray+DVD)
・品番:GNXF-2852
・値段:¥5,280(税込)
●『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(4K Ultra HD+Blu-ray)
・品番:GNXF-2853
・値段:¥7,260(税込)
●『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(スチールブック仕様/Blu-ray+DVD)
・品番:GNXF-2854
・値段:¥6,280(税込)
●『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(スチールブック仕様/4K Ultra HD+Blu-ray)
・品番:GNXF-2855
・値段:¥8,260(税込)

<パッケージ共通特典映像>
・キャスト紹介
・レベル別攻略法
・映画の舞台 徹底ガイド
・“PEACHES”リリック・ビデオ
・アニャが伝授するリーダーの心得

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