さらにはヒップホップ界隈でも、高い料理の腕前を持つアーティストがいる。その代表格が、漢 a.k.a. GAMIだろう。彼はYouTubeチャンネル『漢 Kitchen』を運営し、「漢 a.k.a. GAMI の料理番組」を配信。ヒップホップを中心にさまざまなアーティストをゲストとして招き、パンケーキやパスタ、いちごタルトなど、楽曲やライブからは想像できないメニューを作りながら、アーティストの個性を引き出す会話を繰り広げている。

　番組内では調理に関して独特な表現が飛び交うことも。例えば、記念すべき初回配信では、グライムやドリルスタイルも乗りこなすralphがゲストに登場し、彼のリクエストでマヌカハニーのパンケーキを作ったのだが、材料を混ぜる際にralphが「若干の殺意があったほうがいいですね」とコメントしており、この番組ならではのおもしろさを生み出していた。

　そして、実はスヌープ・ドッグもレシピ本を出版している。スヌープ・ドッグといえば、ギャング出身のヒップホップMCとして有名だが、その経歴やいかつさに反して、邦題で『スヌープ・ドッグのお料理教室 ボス・ドッグのキッチンから60のプラチナ極上レシピ』という書籍を2022年2月に出版。チキンのライスボウルやクッキー、マフィン、パスタなど、さまざまな料理のレシピが掲載されており、アメリカの文化を楽しめる一冊としても好評だ。本人が書籍出版に際して「From Crook to Cook（監房から厨房へ）」と、自身の経歴を意識したコメントを残しているのもおもしろい。

　食は生きる上で絶対に欠かせないものであり、食事にはその人らしい生活感や人生観が表れることも多い。「料理」を切り口にアーティストへの理解が深まれば、彼らの楽曲をさらに味わい深く楽しめるかもしれない。「料理×ミュージシャン」という切り口で、書籍や動画、SNSなどを眺めてみてはいかがだろうか。

※1：https://brutus.jp/housecurry_keiichisokabe/?heading=4