いきものがかり 水野良樹×鷲尾天プロデューサー対談:プリキュア楽曲への起用背景、いま伝えたいメッセージを明かす
すべてが今伝わるわけではないけど、いつか自分なりの意味を見つけてくれたら
ーー「うれしくて」は、蔦谷好位置さんのアレンジが壮大で。みんなで声を合わせることでパワーが生まれる。プリキュアってチームやつながりが大事な作品なので、それも感じられる素敵な曲だったのですが、これはどんな打ち合わせをしたのですか?
鷲尾:こちらは明確にオールスターズなので、プリキュア全員が出ますと。映画としてのテーマーー20周年のテーマでもあるんですけどーーそれをずっと悩んでいたんですね。それで最終的に行き着いたのが「手をつなぐ」ということだったんです。プリキュアたちだけではなく、作品に関わる人全員で協力をしないとできないことなんだということで、それが20周年のテーマになっているんです。それを映画でもメインテーマにしてやろうと監督と話していた時期に、音楽の話もさせてもらいました。でも考えようによっては、最初の曲と真逆のことを水野さんにはお願いしているんです。ひとりで凛々しく立っていることを描いてほしいというのと、みんながいるからこその話。その両方をお願いしているから、無茶なことを言ったなという感じなんですけど(笑)。そんなことをリクエストしていましたよね?
水野:どこかのタイミングで、映画のある程度のプロットを資料としていただいていて、その中で「手をつなぐ」ということもおっしゃっていたと思います。でもそれは違う存在と結びつく、絆を作り出すという意味で、そこをすごく大事にしているということだったんです。つまり重要なのは“違う存在”だということで、みんなでひとつになる、全部同一化してしまうという考えではないんですね。オールスターズという映画で、歴代のプリキュアたちが出てくるけど、みんなそれぞれ個性があって違う魅力を持っている。それぞれが協力し合いながら、一緒に何かを成し遂げる。そういうことを描きたいんだとおっしゃっていて、僕もすごく共感したし、それをうまく表現したいと思いました。しかも映画では、キーとなるキャラクターがそこに踏み込めないんですよね。そういう問題意識とかテーマに、ちゃんとつながれる曲にしなければいけないなというのがスタートでした。
ーー同調圧力とか、みんなと同じ意見にしなければいけないというのは窮屈ですよね。
水野:ひとつになることってすごく難しいんですよ。歌詞にもそのようなことを書いているんですけど、違う存在だしバラバラだからこそ一緒に何かに立ち向かえるし、同じ景色を見ることができるんですよね。
鷲尾:まさに〈“わかりあうこと“だけじゃ拾えない “わかりあえないこと“を大事にして〉という歌詞がありますけど、実は最初のオールスターズ(2009年公開「映画プリキュアオールスターズDX1」)のとき、歴代のキャラクターが集まる理由をものすごく考えたんです。監督と考えていく中で、当時流行っていた“グローバル化”という言葉が出てきたんですね。世間はその言葉をもてはやしていたけど、それは世界中で均質なものを手に入れられるようにしましょうという、まさに世界をひとつの価値観で統一にしましょうという風に私には聞こえてしまったんです。なので、映画ではそれはいわゆる大ボス的なキャラクターがやろうとしていることで、それに対してプリキュアたちは、バラバラだからこそいいんだと言って集まってくる。あなたの言うことは間違っていると立ち向かう図式で始まったんです。違う個性が集まるからこそ意味があるんですよ。それがこの歌詞の中に全部入ってるから、ここまで言ってなかったよなぁって驚いたんです。
ーー水野さんは、ここはもうストレートに伝えようということで書いたのですか?
水野:そうですね。打ち合わせで話していたことを柔らかく書こうと思ったというか。こういうのって長い文章にしたら、堅苦しく書けてしまうんです。個性を大事にしましょうねとか。でも説教っぽくもなってしまうから、そこを上手く柔らかく伝えられたらと思いました。
ーー説教臭くならず、シンプルな言葉で伝えているところが、ものすごいことなんですよね。
鷲尾:そうなんですよ。何でできちゃうんだろうって。シンプルに伝えるのが一番難しいし、大変だと思うんです。
水野:それはプリキュアという長い歴史がある作品が醸し出している空気が、すごく大きいと思うんです。それが一つひとつの言葉の選択になる。だから「うれしくて」の〈きらきら〉や〈ひらひら〉というワードも、プリキュアという作品だからこそ持つ言葉の意味があって、作品と結びついている歌だからこそ、この言葉が持つ輝きがあるんですよね。だから作品の追い風を受けて作れたものなんです。
ーープリキュアという作品に結びついたことで、心に響く言葉が紡がれていったんですね。
鷲尾:本人がいらっしゃらないところで勝手なことを言ってしまって申し訳ないんですけど、いきものがかりさんの音楽を聴いていて、吉岡さんの歌声って、自分の悩みとか愚痴を聞いてくれている人の歌声に聴こえたんです。話を聞いてくれる人って、横で黙ってうなずいてくれているだけなのに安心するじゃないですか。そんな聞いてくれる人の安らぐ感じが、吉岡さんの声に乗っている感じがするんですね。それが「うれしくて」みたいな曲のときに、ものすごく沁みるんです。「ときめき」もそうだったんですけど、水野さんの作られている楽曲と歌詞、そして吉岡さんの歌声が合わさるって、こういうことなのか! って思ったんですよね。
水野:今聞いていてすごく嬉しかったのは、歌は聴く人のもので、カラオケでもなんでもいいけど、自分のものにしてほしいという気持ちが僕らはずっと強くあるんです。で、吉岡の声や歌というのは、“私はこう思っているんだ”と伝えるものではなく、お話を聞いてくださる方に、ちゃんと素直に置いていこうっていう歌なんです。つまり、聴く人が主人公になれる歌にしようとずっと言ってきているんですね。だから今、悩みや愚痴を聞いてくれている人の歌声だと言っていただけたのはすごく嬉しくて、そうなってほしいんです。この曲を聴いたときに、説教されていると思われるより、自分の話をしたくなるような歌になりたい。歌詞を書くとき、基本的には言葉は待つものだと思っていて。たとえば最初に〈うれしくて〉と書いているけど、ここに気持ちを入れるのは聴いている人で、どんな“うれしい”なのかはその人にしか分からないんです。たとえばお母さんとプリキュアを見て“うれしい”のかもしれない。だから、その人からこぼれてくるものを待てるような言葉でなければいけない。それをすごく考えているので、吉岡の声、つまり歌っている存在に対して、聴いてくれているような声とおっしゃっていただけたことが嬉しくて、心の中でガッツポーズをしました(笑)。吉岡もきっと喜ぶと思います。
ーープリキュアやこの楽曲についてですが、やはり子どもに伝えたいという思いも込められているのでしょうか?
鷲尾:映画はたくさんのお子さんが観ているのですが、そのときはきっとあまりメッセージなんて分からないんです。たくさんプリキュアが出てきて楽しかったとか、変身がカッコよかったとか。でもそれでいいんです。子どもの記憶力って我々の比ではなく、ずっと覚えているんですね。そしてある瞬間にパンと思い出す。主題歌の歌詞も、いつか思い出して、こういう意味だったんだって初めて分かるかもしれない。その意味も、年齢によって解釈が変わったっていいんです。だから、今目の前にいる子どもたちが分かる単語だけでやればいいわけではない。逆に、子供たちに間違ったメッセージを伝えるわけにはいけないから、それを全部考えた上で、伝えたいことはこれなんだよっていうのをさり気なく組み込んでいるんです。それでいて子どもたちが観て、面白いものにしなければいけないという。これはもう命題なんです。
ーー水野さんは、ご自身が親になったことなども歌詞に影響していると思いますか?
水野:そこは少し反映されていると思います。でも、鷲尾さんがおっしゃる通りで、歌もすべてが今伝わるわけではないけど、いつか自分なりの意味を見つけてくれたらいいなと思って書いてはいます。子どもって難しくて、思っている以上に言葉を知っているときもあるし、驚くほどフレッシュに言葉をとらえている瞬間もあるんですよ。だから「うれしくて」の冒頭も気をつけていて、長くて理屈っぽい文章にはしたくないと思って出てきたのが〈うれしくて きらきら〉なんです。これってパッと言葉が浮かんだだけで、華やかな感じがするじゃないですか。それを子どもが聴いて、口ずさんだだけで楽しい気持ちになれることを意識していました。だから、オノマトペみたいなものは入れたいなと。
鷲尾:プリキュアでは、制作する上で子どもにグループインタビューをすることがあるんですよ。で、子どもたちの単語って、やっぱりこれなんです。「どんなものが好き?」と聞くと、「キラキラしているもの」とか、「衣装がひらひらしているもの」って。「衣装が風になびく感じが素敵です」なんてことを言う3~4才児はいないので(笑)。だからここって子どもにもピタッと来るはずなんですよね。
ーー作品も主題歌も子どもの心を掴みながら、その中に大事なメッセージを入れているんですね。ちなみに映画でこの楽曲が流れているのを観ていかがでしたか? プリキュアのダンスが壮観でしたが。
水野:いやぁ圧巻でした! 素晴らしい光景で、すごく嬉しかったです(笑)。
鷲尾:これは申し訳ないことをしたのですが、エンディングにダンスがあるかどうかは曲をお願いする時点では決まっていなくて、もし可能になったら、この曲に合わせてダンスを作ろうと決意していたんです。実現して良かったです。
ーー改めて、プリキュアに関わる楽曲を2曲制作していかがでしたか?
鷲尾:まさか2曲もお願いできるとは思っていなかったのに、こんなに素晴らしい曲を書いていただけて、贅沢極まりないです。理想以上の楽曲で、本当に素晴らしかったです!
水野:自分たちも2人体制になって、前を向かなければいけないタイミングでこのお話をいただいたんです。時間を重ねてきた作品に、あとから入らせていただけるという尊さの中で曲を書かせてもらえたなと。プリキュアファンの皆さんにも喜んでいただけて、とても嬉しかったです。プリキュアに出会っていなかったら、この2曲はできなかったと思うので、チャンスをいただけて光栄に思っています。
■リリース情報
いきものがかり『うれしくて/ときめき』
各配信サイト・ストリーミングサービスで好評配信中
https://erj.lnk.to/NaMtb1
2023年9月13日(水)発売 両A面シングル
初回生産限定盤 [CD+Blu-ray]
ESCL-5850~51 ¥2,000 +税
・『プリキュア』書きおろしスリーブケース仕様
・いきものカード061封入
初回盤の購入はこちら:https://erj.lnk.to/Uresikutetokimeki1
通常盤 [CD]
ESCL-5852 ¥1,200 +税
・いきものカード061封入(初回仕様のみ)
通常盤の購入はこちら: https://erj.lnk.to/Uresikutetokimeki2
<CD収録内容>*各形態共通
1.うれしくて
2.ときめき
3.うれしくて (Instrumental)
4.ときめき (Instrumental)
<Blu-ray収録内容>
1.うれしくて Music Video
2.うれしくて Music Video -Behind The Scenes
3.ときめき プリキュア20周年PV (Vocal ver.)
■放送情報
『キボウノチカラ~オトナプリキュア'23~』
声の出演
夢原のぞみ:三瓶由布子 夏木りん:竹内順子 春日野うらら:伊瀬茉莉也
秋元こまち:永野 愛 水無月かれん:前田 愛 美々野くるみ:仙台エリ
日向 咲:樹元オリエ 美翔 舞:榎本温子
スタッフ
原作:東堂いづみ
キャラクター原案:稲上 晃 川村敏江
シリーズディレクター:浜名孝行 シリーズ構成:成田良美 キャラクターデザイン:中嶋敦子
音楽:佐藤直紀 美術監督:川上美穂 色彩設計:安住 唯 撮影監督:下崎 昭
編集:小野寺桂子 音響監督:菅原三穂
オープニングテーマ
「ときめき」
歌:いきものがかり
作詞・作曲:水野良樹 編曲:島田昌典
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
アニメーション制作:東映アニメーション・スタジオディーン
製作:2023 キボウノチカラ オトナプリキュア製作委員会
放送:NHK Eテレにて2023年10月7日 18時25分より放送開始
『キボウノチカラ~オトナプリキュア'23~』公式サイト: https://otonaprecure2023.com/
©2023 キボウノチカラ オトナプリキュア製作委員会
■公開情報
タイトル:『映画プリキュアオールスターズF』
公開日:9月15日(金)公開
声の出演:関根明良 加隈亜衣 村瀬歩 七瀬彩夏 古賀葵
菱川花菜 茅野愛衣 高森奈津美 ファイルーズあい 日高里菜
悠木碧 三森すずこ 白石晴香 小原好美 本泉莉奈 藤田咲 早見沙織 嶋村侑
坂本真綾 種﨑敦美
映画主題歌「うれしくて」 歌:いきものがかり(ソニー・ミュージックレーベルズ)
作詞・作曲:水野良樹 編曲:蔦谷好位置 (agehasprings), 長橋健一 (agehasprings Party)
OPテーマソング「For “F”」 歌:石井あみ・Machico 作詞:青木久美子 作曲・編曲:森いづみ
原作:東堂いづみ 監督:田中裕太 脚本:田中 仁 音楽:深澤恵梨香
総作画監督・キャラクターデザイン:板岡錦 美術監督:林 竜太 色彩設計:清田直美
撮影監督:大島由貴 高橋賢司 製作担当:吉田智哉 本田竜馬
映画プリキュアオールスターズF製作委員会:東映アニメーション 東映 ABCアニメーション バンダイ ADKエモーションズ マーベラス
©2023 映画プリキュアオールスターズF製作委員会
映画公式ホームページ:https://2023allstars-f.precure-movie.com/
映画Twitter:@precure_movie
プリキュアシリーズ公式ポータルサイト:https://anime-precure.com/
プリキュア20周年公式Twitter:https://twitter.com/precure_15th
©東映アニメーション©ABC-A・東映アニメーション
■ツアー情報
いきものがかり 2024 ツアー日程・会場
※全国19都市20公演
2024年02月04日(日) [神奈川]海老名市文化会館
2024年02月10日(土) [香 川]レクザムホール(香川県県民ホール)
2024年02月12日(月・祝)[広 島]広島文化学園HBGホール
2024年02月18日(日) [栃 木]栃木県総合文化センター・メインホール
2024年02月23日(金・祝)[青 森]リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
2024年02月25日(日) [新 潟]新潟県民会館
2024年03月03日(日) [北海道]札幌文化芸術劇場 hitaru
2024年03月09日(土) [愛 媛]松山市民会館・大ホール
2024年03月10日(日) [高 知]高知県立県民文化ホール・オレンジホール
2024年03月20日(水・祝)[福 岡]福岡サンパレスホテル&ホール
2024年03月24日(日) [宮 城]仙台サンプラザホール
2024年03月29日(金) [熊 本]市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
2024年03月31日(日) [島 根]島根県民会館
2024年04月06日(土) [石 川]本多の森北電ホール(旧本多の森ホール)
2024年04月13日(土) [神奈川]神奈川県民ホール
2024年04月19日(金) [静 岡]静岡市民文化会館・大ホール
2024年04月20日(土) [愛 知]名古屋国際会議場・センチュリーホール
2024年04月26日(金) [大 阪]大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)
2024年04月28日(日) [奈 良]なら100年会館
2024年05月03日(金・祝)[東 京]LINE CUBE SHIBUYA
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