鈴木蘭々、今だからこそ届けられる言葉と音楽 筒美京平や川原伸司ら様々な出会いに彩られた歌手活動

20年前だったら100%ボツだったと思います

ーー今回はその筒美さんの作品で、当時「早すぎる」という判断でお蔵入りになった「戦場のラブレター」が“新曲”として収録されていることも、大きなトピックです。改めて筒美メロディと向き合って、どんな印象を持ちましたか? そしてどんな思いで歌詞を書かれたのでしょうか?

鈴木:京平さんの全ての曲に感じるのは、とにかくメロディが濃いということ。だからメロディを聴いただけで物語が浮かんでくるというか、当時から京平さんの曲に関しては歌詞を書く時に物語が降ってくる感覚でした。

ーーメロディが言葉を連れてくる。

鈴木:そうです。今回もそうでした。この曲は、今年坂本龍一さんが亡くなって改めて「ラストエンペラー」や「戦場のメリークリスマス」を観る機会があって、当時は小学生だったのでよく理解できなかったけど、今は理解できるので、戦場をテーマに書いてもいいかもしれないと思いました。

ーー「戦場」って強いワードですよね。

鈴木:「戦場」がうっかりすると平和ボケしている日本人には馴染みのない言葉なので「洗浄」に聞こえちゃうかもって思いましたが(笑)、それでもいいかなって。京平さんのメロディを聴いた時、サビは絶対〈愛してる〉にしようってそれだけは決めていました。その時点ではアレンジはまだ大ラフだったんです。作詞とアレンジは同時進行で進めたんですけど、歌詞のテーマが戦争になりそうという話は前もって田中さんに伝えていて、ラフのものも共有しました。締め切りも迫っていて修正できる時間も限られていたので、歌詞とアレンジの世界観がマッチするか不安だったんです。でも完成音源を聴いたときに、効果音的なものも含めて、その心配は杞憂だったなと思いました。

ーー不安な世界情勢の中で生活していることも影響しているのかもしれませんね。

鈴木:ウクライナとロシアの戦争が長引いていて、ロシアの兵士が傍受される危険を冒してでも、祖国の家族にメールを送ったことが批判されたというニュースを見ました。でもそれって人間の本質というか、誰か思う人がいればどんな状況でも連絡したいと思うし、当たり前のことだと思うんです。リアルなニュース、映画、日頃の私の思いなどが歌詞に反映されています。

ーードラマティックで素晴らしい曲です。

鈴木:途中までラジオから聴こえてくるような声で、途中から生声にして欲しいとリクエストしました。20年前だったらシングルで、この歌詞とこのタイトルだと100%ボツだったと思います。今回は川原さんに提出して「これちょっと重いよ」って言われるかなと思っていたら、「いいじゃん」と言ってくれて、時代も変わったなと思いました。自分の思い描いていることやイメージを具現化できて嬉しいです。「Mother」をピアノ一本でやりたいって言ったのは今回も収録されていますが「…of you」という曲の存在が影響していて。この曲も川原(平井夏美)さんが書いてくださったのですが、最初あがってきたアレンジが全然自分がイメージしていた感じと違っていて、どうしても納得できなくて変更してもらったことがあったからです。「…of you」はタイアップが付いていたので、締め切りに間に合わない状況だったのですが、スタッフが徹夜で作り直してくれて、間に合いました。

ーーしかもアレンジを作り直してくれたのが千住明さんという豪華さ。

鈴木:私は最初「…of you」はピアノ一本で歌いたいって言ったんです。でもシングルだからダメだって言われてしまって。残念な気持ちがずっとあったので、今回せっかく川原さんに「『瑠璃色の地球』を超える名曲をお願いします」とリクエストして書いてもらったうちの一曲が「Mother」なので(笑)、ピアノ一本で歌わせていただきました。

ーー矢吹卓さんのピアノの音色がグッときます。

鈴木:「Mother」はライブで歌うためだけに作った曲なんです。だからリハーサルの時に全貌が見えた感じでした。前奏も何も決まってなくて、前奏のイメージを矢吹さんにお伝えしたら、イメージ通りの前奏を作ってくださいました。

ーー「Mother」は認知症の母親と親子の絆をテーマに書こうと思ったきっかけは?

鈴木:知り合いのお母さんが介護施設にいた時、時々一緒に会いに行かせてもらって、そのお母さんがいつも「ありがとう」と言う人で。友人は「ありがとうと言ってくれるから、気持ち的に介護が楽だ」って。すごく素敵な関係だなって思って、母親をテーマにしたものを書きたいと思いました。川原さんからいただいたデモで、ある部分がフランスの片田舎の窓辺に、老人が座ってて、外は明るいんだけど中が薄暗い、そんな光景がパッと浮かんだんです。そこと、施設にいたお母さんの横顔や、うちの母親のふとした時の横顔が重なってこういう世界観になりました。歌詞を川原さんに送ったら「蘭々がこんな歌詞を書くようになるとは」ってすごくビックリしていました。

ーー「キミとボク」は1998年の作品で、ボーナストラックには2020年にセルフカバーした同曲が“リモートバージョン”として収録されていますが、この聴き比べも面白いと思いました。変わらない瑞々しさが印象的です。

鈴木:舞台やミュージカル以外、あまり歌っていなかったことが逆によかったのかもしれない。喉が休まっていた状態が。

ーー勤続疲労していないと。

鈴木:そういうことかも(笑)。空白期間が長すぎて、休養充分だったというか、むしろ鍛えられたのかもしれませんね。

ーー今もっとこういう曲を歌いたいというのはありますか?

鈴木:自分では歌はうまいと思っていなくて、歌える曲が少ないと思います。ただ、ロックが歌いたいです。2003〜2004年頃、エイベックスでプリプロしてる時、とてつもなく激しいギターで始まるロックを一曲録ったことがあって。シャウトするような歌い方で歌って、タイトルが「ひとり」という曲で、それが結構よかったことを今でも覚えていて。当時のスタッフもそう思ってくれていて、再録候補に入っていたのですが、作曲家の方に連絡が取れず、今回実現しなかったんです。みんなでやり残していることがあるとしたらこれ。スタッフもやり残した感があるみたいで、この間もスタッフとご飯を食べている時に「あの曲なんとかならないのか」って酔っ払いながら怒ってました(笑)。

ーーそういう幻の曲、未発表曲ってまだまだありそうですね。

鈴木:当時のディレクターやスタッフがその曲を聴いて、私という存在を見いだしてくれ、ダブル・オーでやろうと決めた曲があるんです。ロビー和田さんというプロデューサーの方が書いた曲なんですけど、その曲も今回入れれば良かったなって言っていました(笑)。

ーーアルバムの最後を飾る「明日、またね、、、。」という平井夏美さん作曲のスローナンバーも名曲です。

鈴木:このアルバムのラインナップが決まった時、川原さんはどんな曲を書くか悩んだようで「今回私はプロデューサー目線で曲を書きました」と。お腹いっぱいになるだろうからと、最後にホッとする曲を入れたかったみたいです。

ーー一日の終わりに聴きたい曲という感じのとことん優しい曲です。この曲まで、蘭々さんの色々な声の表情、声を十二分に楽しめる一枚になっています。

鈴木:声優で女優の戸田恵子さんとご一緒させていただいたことがあって、戸田さんって「アンパンマン」を演じたり、老婆の役、老婆の若い時の役、色々なお芝居ができる方でとても尊敬しています。あと高泉淳子さんという舞台女優さんとミュージカルで共演させていただいたことがあるのですが、子供の役から老婆の役までをビックリするくらい見事に演じる方で、尊敬しています。だから自分も無意識にそういうところを目指したかったのかもしれません。

ーー色々な蘭々さんが次から次へと登場して、演じている感じがする作品です。

鈴木:今回も、若い頃から今に至るまでのブランクが長いし、続いているとはいえ20年くらい空いているわけで。だからこれをひとつにまとめるためのストーリーが必要だと思っていて。自分の中では舞台も経験したし、このアルバムをひとつの舞台と捉えて、私という人間が、色々な歌の中に存在するキャラを演じるという解釈で、自分を納得させることで一本筋が通るかなと思いました。

ーーこれからライブ活動は精力的にやっていこうと考えていますか?

鈴木:私って矛盾を抱えていて、人前に出る仕事をしているのに、あんまり人前に出たくないというよくわからない自分がいるんです。舞台は自分であって自分じゃないので、どこかで線引きできますが、ライブは素の自分が出るので恥ずかしい気持ちになる時があって。

ーーライブの時は演じるということはあんまり考えないですか?

鈴木:前よりは演じられるようになったと思いますが、ふとした瞬間恥ずかしいのと、演じている私より、しゃべっている私の方が好きという人が多いみたいです。でもライブの構成でMC部分がしっかりあるので、本当は安室奈美恵さんのように、しゃべらないで最後まで通すライブをやりたいです。

■リリース情報
タイトル:『鈴木蘭々 All Time Best~Yesterday&Today~』
発売日:2023年7月26日(水)
品番:MHCL 3039
価格:3,300円(税込)

<収録曲>(全16曲)
1. 泣かないぞェ 
2. なんで なんで ナンデ ?
3. kiss 
4. magic
5. ・・・of you
6. Shoobie Doobie Doing! 
7. キミとボク
8. 迷宮輪舞曲
9. MOTHER 
10. Just Do it, Do it over
11. Meet The Flintstone
12. Bye Bye Baby
13. Rain (新曲)
14. 戦場のラブレター (新曲)
15. 明日、またね、、、。 (新曲)

【ボーナストラック】
16. キミとボク (リモートバージョン) 

販売サイト:https://lgp.lnk.to/TQ2ePa
特設サイト:https://www.110107.com/LANLAN35

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