「可愛くてごめん」バズの理由を続編「すきっちゅーの!」から導く ヒントはZ世代の悩み&“ちゅーたん”の生き方にある?

 近年の音楽のヒットセールス要素として、SNSでの“バズ”は欠かせないファクターでもある。カルチャーを牽引する10〜20代には必須の情報収集、コミュニケーションツールとなったSNS。なかでも、特に音楽がバズる震源地となりやすいのは、情報量の多い映像コンテンツを手軽に発信できるTikTokをはじめとしたショート動画だ。

 そんなショート動画を中心に直近で人気に火のついた曲のひとつに、HoneyWorks「可愛くてごめん feat. ちゅーたん(CV:早見沙織)」がある。YouTubeの早見沙織歌唱版の映像は、公開からまもなく1年となる現在、驚異の1億回再生も間近。そんな本作の続編として、HoneyWorks「すきっちゅーの! feat. ちゅーたん(CV:早見沙織)」が9月1日に配信開始となった。こちらもYouTubeで公開されたMV映像(早見沙織歌唱版)は、公開から約1カ月で再生回数500万回超と大きな反響を集めている。

可愛くてごめん feat. ちゅーたん(CV:早見沙織)/HoneyWorks

 若年層を中心に、最先端のカルチャーに親しむ人々から絶大な支持を得るこの2曲。しかし、音楽単体の印象が先行し、作品のバックボーンにまで踏み込むリスナーは意外と少数派なのかもしれない。なぜなら、その背景を知る人間からすれば、本来この曲はここまでポジティブに注目されるはずの楽曲ではないからだ。

 本作の元々の位置づけは、VOCALOID曲を制作する音楽サークル・HoneyWorksによる楽曲をモチーフとしたプロジェクト「告白実行委員会」シリーズの一環となる。シリーズ中には、主人公を変えた複数のエピソードストーリーがあり、楽曲名義の“ちゅーたん”が登場するのは、女子高生・涼海ひよりを主人公とするアニメ『ヒロインたるもの!〜嫌われヒロインと内緒のお仕事〜』。要するに先述2曲は、言わば同アニメに登場するキャラクター・ちゅーたんの“キャラソン”的楽曲でもある。

 さらに、本物語におけるちゅーたんはエピソード内最大の事件の黒幕的存在であり、あらすじを知るファンにとっては本来印象のいいキャラクターとは言いがたい。従来のコンテンツを知るファンにはあまり好かれていない彼女の楽曲が、コンテンツを知らない人々のあいだでここまで支持されている状況は、はたから見れば、非常に興味深い現象でもあることだろう。

 そのような背景にもかかわらず、結果として彼女にまつわるこの2曲は、間違いなく「告白実行委員会」シリーズのなかでもダントツの知名度を誇る楽曲となった。これに関しては作中の評価と世間一般における評価の不一致への問題提起ではなく、物語本筋に限らないさまざまな入口を持つクロスコンテンツプロジェクトならではの強みやユニークポイントとして捉えたい。

 では、なぜコンテンツ内の背景/評価を差し置いて、「可愛くてごめん」「すきっちゅーの!」の両作品はここまで支持されるのか。SNS、特にTikTokにおける切り抜き部分のキャッチーさや、シンプルなメッセージ性もその理由のひとつ。加えてずばり、両曲の内包するメッセージ性と時代性のマッチングが抜群だった点、SNSを活用し、時代トレンドを牽引する層が持つ“価値観”の解像度がずば抜けて高かった点が、より本質的な要因として考えられる。

 先述の通り、この2曲は「告白実行委員会」の登場人物・ちゅーたんのキャラソン的側面も持つ。そのため音楽には、該当キャラの内面が非常に色濃く反映されている。

 楽曲の主役・ちゅーたんは、とあるアイドルの“推し活”に情熱を燃やす女子高生だ。推しを全力で推すことを至上の喜びとし、そのための資金を稼ぐバイトに励みつつ、“推しの女”として誇れる存在になるための自分磨きも怠らない。同時に自らのファッション性や行動(=推し活)に対する他者からのネガティブな評価を意に介することなく、“自分の好き”を貫く圧倒的な確固たる自己を持つ。そんな側面が、楽曲には前面に押し出されている。

 このキャラ特性のなかで注目すべきは、“推し活”と“自分磨き”のふたつの要素だ。この両ワードは10~20代、いわゆるZ世代を語るうえで欠かせない価値観であることが、さまざまな意識調査(※1)でも明らかであり、加えてSNS、特にTikTokの使用も同世代にとって同様に大きなファクターになっている。

すきっちゅーの!feat. ちゅーたん(CV:早見沙織)/HoneyWorks

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