神はサイコロを振らない、アルバム『心海』で描いた喜怒哀楽 新たに自覚した“人に幸せを届ける”使命を語る

藤井 風 楽曲手がけるYaffle×小森雅仁との化学反応で完成した「スピリタス・レイク」

桐木岳貢

――個人的には、今回「スピリタス・レイク」のサウンドは新境地だなと思いました。

柳田:たとえば、藤井 風さんの楽曲もそうですが、サウンドプロデューサーのYaffleさん、エンジニアの小森雅仁さんという最強コンビが手掛けている作品が好きすぎて。いつかご一緒させていただきたいとずっと思っていたのですが、今回いろんなご縁があり、とてもいいタイミングでお願いすることができました。Yaffleさんも小森さんも思っていた通りの方たちで、一つひとつの楽器の音作りはもちろん、マイキングやアウトボードのかけ方など、本当に勉強になることばかりでしたね。

黒川:僕もこの曲で、これまでになかったアプローチができたんじゃないかと思っています。Yaffleさんにはレコーディングにも参加してもらったんですけど、「とりあえずリズムを刻むという役割から一旦離れていいよ」と言われたのが新鮮でした。リズム楽器としての役割は桐木に任せ、ドラムという楽器を自由に演奏することができたんです。

 おかげでテイクごとにアプローチのし方も違っていって。最終的に使われているテイクでは、曲の途中でタンバリンを叩いているのですが、それもその場でパッと思いついたことをやってみたんです。ちなみに、この曲ではJ・ディラのドラミングに挑戦してみたり、マック・ミラーのトラックの要素を参考にしてみたりしました。

吉田:この曲や、次の「Popcorn 'n' Magic!」はちょっとネオソウルっぽいギターフレーズが多くて。アレンジャーさんからは、「デモの通りに弾かなくてもニュアンスさえ掴んでいれば大丈夫だから」と言ってもらったので、ブルーノ・マーズのサポートなどをしている日系ブラジル人のマテウス・アサトさんや、磯貝一樹(SANABAGUN.)さんのプレイを参考にさせていただきました。

柳田:ちなみに、転調する境目は、ある意味で不協和音になっているんです。というのも、転調する直前のギターはワンコードで鳴らしっぱなしになっているし、ボーカルはコードが転調する直前からすでに転調した状態のメロディを歌い始めている。Yaffleさんのアイデアなんですけど、境目が曖昧になっているところが面白いなと。逆に「僕にあって君にないもの」は、「はい、ここから転調します!」とわかりやすくコードが移り変わるので、その違いも聴き比べてもらいたいです。

――「スピリタス・レイク」の歌詞には、どんな思いを込めましたか?

柳田:ちょうどメンタルがめちゃくちゃ弱っていた最低の状態だった時に、それを曲にしようと思って書きました。当時は産みの苦しみというか。書き下ろしの仕事もたくさんいただいたなかで、でも「それで結果が出なかったら……?」というプレッシャーもあったし。曲を作っているあいだ、制作部屋にずっとこもりきりの孤独な状態で。人間って、誰かと会話をしないと、どんどんネガティブな方向へ気持ちが入ってしまうんですよね。そういう、どうしようもない精神状態をそのまま歌詞にしてみました。〈苦しくなればいつだって/バラバラに爆ぜる手榴弾〉とかは、「その気になったらいつだって人生終わらせてやる!」みたいな。今聴くと「おいおい、大丈夫か?」って感じでもあるんですけど(笑)。

黒川亮介

――「Popcorn 'n' Magic!」は、ギター2本の掛け合いが印象的です。

吉田:この曲は、レコーディング前日に柳田から全裸でテレキャスを弾いている動画が送られてきて。「あ、こういう感じで弾くなら俺はこうしようかな」みたいな感じでイメトレをしましたね。

――なんで全裸なんですか(笑)。

柳田:(笑)。この曲のリファレンスはいろいろあって、そのうちのひとつがケツメイシさんの「また君に会える」なんです。あの曲のような、緻密に計算されたギターの掛け合いをやりたくて。アレンジャーさんから上がってきたトラックを聴きつつギターを弾いているうちに、めちゃくちゃ楽しくなってきちゃったんです。で、気がついたら全裸になって、吉田から借りたままのテレキャスで大事な部分を隠しながら弾いていました。

吉田:大学生の時に、親友からもらった大事なギターなんですけどね(笑)。

黒川:ちなみにこのキックは、「マイケル・ジャクソンっぽくしたい」と話していて。それも音作りの時に意識しました。

柳田:そこは実際に踊ってみて伝えましたね。「そうじゃなくて、こう!」みたいに(笑)。マイケル・ジャクソンっぽいダンスが似合う曲だと思ったので、ドラムのショットスピードを上げるにはどうしたらいいのか、エンジニアさんと一緒に試行錯誤しながら決めていきました。

――歌詞には、柳田さんの地元(宮崎県)にある〈都井岬〉が盛り込まれていますね。

柳田:国道220号という宮崎の海岸線沿いのバイパスがあって、そこが定番のドライブコースなんです。それこそ、もしいつかこの曲でミュージックビデオが撮れるなら、ケツメイシさんの「また君に会える」みたいにしたくて、ひたすら妄想しながら書きました。あのミュージックビデオ、人気絶頂だった宮崎出身のエビちゃん(蛯原友里)が出演しています。「平成の女神か?」と思うくらいキラキラ輝いているんですよ。

吉田:しかもエビちゃん、九産大(九州産業大学)の先輩だし(笑)。

柳田:意外とつながりがあるんです(笑)。で、そこにケツメイシのメンバーが海辺で「うわあ、美しい……」という顔で彼女を眺めているっていう。そういうコメディタッチのビデオを、いつか神サイでもやりたい。ちなみに、この曲はアルバムのなかでも最後にできた曲で、それまで散々産みの苦しみを味わった末にできた、ご褒美的な位置づけなんですよね(笑)。とにかく最高に楽しいサマーソングを目指しました。

――ジャジーなギターソロも印象的です。

柳田:この曲のアレンジャーはNaoki Itaiさん(MUSIC FOR MUSIC)で。「夏、バカンス、サマー!みたいなソロがほしい」とリクエストして、ケツメイシをリファレンスとしてお渡しして考えてもらいました。ケツメイシってギターソロがめちゃくちゃかっこいいうえに、めちゃくちゃ長いんですよ(笑)。

吉田:なので、僕にとってはご褒美どころか、ギターが難しすぎてめちゃくちゃ苦労しました(笑)。アレンジャーのItaiさんからデモをいただいた当初は全然弾けなくて。1週間くらい、ほとんど毎日徹夜で練習していましたね。極限状態すぎてギターを持ったまま気絶するように寝たり、Itaiさんにボコボコにされる夢を見たりしていました(笑)。

ケツメイシ「また君に会える」

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