『ヒプノシスマイク』斉藤壮馬ソロインタビュー&速水奨×竹内栄治スペシャル対談 2枚のEPで切り開いたプロジェクトの新境地

“なし”と考えるよりも、どう“あり”に覆すかを考えたほうが楽しい

――ファンの方に注目して聴いていただきたいポイントなどはありますか?

斉藤:今回かなりコーラスを重ねていて、それはすべて僕が歌っているんですけど、ファルセットでも出せる成人男性はあまりいないと言われた高音や、キャラクターの発声では難しい低音も、やってみたらなんとかできて、レコーディングの時にスタジオが盛り上がったんです(笑)。よく聴くと主旋律がありながらも、高いハモリも低いハモリもあって、その無限な感じも幻太郎っぽいかなと思うので、注目してほしいですね。

――いろんな表情を見せる夢野 幻太郎というキャラクターと斉藤さんのコーラスワークがシンクロしている楽曲ですよね。歌詞もEveさんの世界観が織り込まれていて、いろいろな捉え方ができると思うんですが、気になった部分や好きなフレーズはあったりしますか?

夢野 幻太郎「夢の彼方」Trailer

斉藤:歌詞を見た時に、こういうふうに幻太郎が〈君〉に歌うことは珍しいなと思ったんですよ。パッと思いつくのは「シナリオライアー」くらいで、印象としても今までの幻太郎の歌詞にはあまりない方向性というか。でも、歌っている時の感覚としては、そこにすごく幻太郎っぽさを感じたんです。とても面白い体験でしたね。最初に聴いた時は、「新しいな」「こういう幻太郎もいるんだ」と驚いていたけど、気づくとしっくりきていて。それが不思議でした。言葉としても、すごく難しい表現を使っているわけではないぶん、より間口が広いので、いろんな想像を羽ばたかせる余地があるのも面白かったです。雨粒/雨垂れのイメージのなかで、ぽつりぽつりと降っているのがAメロ。そこからサビに展開して、ポップなテンポになって〈土砂降りにあって やるせなくなって/黙って黙って〉とシャッフルビートの跳ね感――つまり雨の跳ねる感じやスキップ感に合わせて音をハメていくEveさんの歌詞の書き方には、個人的にも「わかる!」と共感しましたね。

――ドラマトラックの流れと楽曲の関係性は、どう捉えられましたか?

斉藤:一郎が発起人となって、「ヒプノシスマイクは使えないけど、音楽は楽しいものだからフェスをやろうぜ!」という志にみんなが賛同したフェスで、この曲を歌うっていうそのマインドたるや、ですよね(笑)。いかにも幻太郎っぽい。でも、そのマインドが、僕はすごく好きだなと思いました。ドラマトラックでは幻太郎が活躍していて、最初にシナリオを読んだ時にびっくりしました。幻太郎はトンチキな部分ばかりがフィーチャーされがちですけど、常識的な感性も持っている人だと僕自身は勝手に感じているので、(活躍が)ドラマトラックで描かれたのは嬉しかったですね。

――今回のEPでさらに『ヒプノシスマイク』の世界が広がる気がしますよね。

斉藤:今回はソロでしたが、僕は帝統としか歌ったことがないので、他のキャラクターとパフォーマンスをしたらどうなるのか観てみたいですね。誰とがいいかな? シブヤ・ディビジョンのキャストたちと話す時に、「オオサカと絡んでみたい」という意見は出てきましたね。Fling Posseがふざけまくって、オオサカの人たちに突っ込んでもらう、っていうようなことをやってみたいなと思います。あと、幻太郎と(天谷奴)零はポエトリーのような形でラップをすることが多いので、黒田崇矢さんともよく話すんですけど、「ビートにバチッとハメてみんなかっこいいけど、でも俺たちがやってることはすごく難しいよな、壮馬!」「はい! そうですね、崇矢さん!」みたいな(笑)。だから、零とポエトリーでかっこいいところをとことん見せるというのもいいかもしれませんね。しかも詐欺師と小説家なので、化かし合いのような感じも面白そうですよね(笑)。

――アプローチの仕方が違うので、どんな人と絡んでも新しいものができそうですよね。

斉藤:僕も、最初の頃は幻太郎っぽさを出すことが重要だと考えていて、初期の楽曲はセリフの発声法から逸脱しないようにやっていたんですけど、実は逆なんだなと途中から思い始めて。「この曲を彼が表現したらもっといける!」と考えるようになったんです。キャラの幅を外側や我々の視点から狭めるのではなく、キャラの視点から外に広げていくことが大事だなと途中から考え方を変えたんですよ。そうしたほうがアプローチの幅も広がりますし。「幻太郎だからこの曲は合わない」と思うのではなくて、「幻太郎が歌ったらどうやってさらにかっこよくできるのか」を考えるようになった。だから、いろんなやりようがあるんじゃないかと思います。当たり前ですけど、我々はコンテンツのなかのひとつの要素でしかない。僕らの使命は、いただいたものを自分の表現でより立体的に、血の通ったものにしていくことで、それが大事だと思うので、あり/なしを考えるのではなく、どうやって“あり”にしていくのかに挑戦していくことが楽しいなと思いますね。

――まさに、今回のEPは『ヒプマイ』として当たり前にあったものを一度ゼロにして、そこから“あり”をイチから作り上げた作品ですよね。

斉藤:『ヒプマイ』を発表した当時、ラップ/ヒップホップというものとアニメカルチャー/二次元カルチャーの食い合わせはあまりよくないんじゃないかという見方もあったんですよね。ただ僕は、最初に企画を伺った時に「これは絶対に間違いなく面白い作品になる!」と思ったんです。企画書をいただいた段階から、スタッフさんたちの「僕たちはこれがやりたいんだ!」というバイブスを感じたんですよ。自分たちの好きなものを売れる/売れないではなく、「とことんやってみようぜ!」という気持ちでスタートさせようとしていることが素敵だなと思った。その情熱に共感して、ここまでご一緒させていただいて、『ヒプマイ』も数々の新しい試みをしてきて、そのたびにいろいろなご意見をいただくこともあって。でも、さっきも話したとおり、“なし”と考えるよりも、どう“あり”に覆すかを考えたほうが楽しいなと、僕は思っています。正直ラップコンテンツで、歌がメインだというのはまたしても前代未聞の挑戦で、驚かれるとは思います。でも、ドラマトラックを聴いて、なぜフェスが開催されるのかを踏まえたうえで楽曲に触れてもらえたら、ストーリーの大きな流れを感じていただけるんじゃないかと考えています。バラエティに富んだ錚々たる方々が楽曲を提供してくださっていて、ストーリーと切り離して楽曲単位で聴いても日常のいろんなシーンで体に馴染むと思うので、ぜひいろんな形で楽しんでもらいたいなと思います。

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