劇場で体感したい“ジョージ・ハリスンの人生” クラプトン、ポール、リンゴ……盟友たちが彩る『コンサート・フォー・ジョージ』
ビートルズの一員として、またソロアーティストとして今も多くの人に愛されるジョージ・ハリスン。彼が亡くなって22年になるが、存命なら今年は80歳。そんな生誕80周年を記念して、彼の没後1年目に行われた追悼コンサートの記録映画『コンサート・フォー・ジョージ』が、日本で初めて劇場公開される。コンサート開催20周年を記念して昨年リマスターされた高音質・高画質の作品に生まれ変わってのスクリーン上映だ。
『コンサート・フォー・ジョージ』は、最期の時間を共に過ごした妻・オリヴィアと、ジョージの盟友 エリック・クラプトンが主催、愛息 ダニーをはじめとしたジョージと交流のあった多くのアーティストに参加を呼びかけ、亡くなった1年後の2002年11月29日、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われたトリビュートライブの記録だ。ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、ジェフ・リン、トム・ペティ＆ザ・ハートブレイカーズなど主だった出演者だけで30人以上。さらにジョージが師と仰いだラヴィ・シャンカールと娘のアヌーシュカ率いるインド音楽楽団、ロンドン・メトロポリタン・オーケストラ、そしてジョージが大好きだったTV番組『空飛ぶモンティ・パイソン』の出演者、その中には俳優のトム・ハンクスも加わった。こうした豪華な面々が、ジョージの曲を歌い継いでいく。ビートルズ、ソロの代表曲に、1988年にジェフ・リンらと組んだトラヴェリング・ウィルベリーズの曲、直前にダニーと共作した「ホース・トゥ・ザ・ウォーター」まで、ジョージの人生を凝縮したようなステージだ。
約20年前のことなのでクラプトンが57歳、ポールは60歳でリンゴは62歳と円熟した頃だけに、どの歌も演奏も見どころ満載だ。しかもクラプトンを囲んでジェフ・リンとトム・ペティがギターを弾くといった光景がずっと続くのである。そんな先輩たちの間で嬉しそうに父の遺品のギターを弾き歌うのがダニー。当時24歳の彼は、ステージ後方に掲げられたタペストリーに描かれた若い頃のジョージにそっくりで、その姿も胸を打つ。今回公開される劇場版に向けてオリヴィアとダニーが冒頭でコメントをしているのだが、すっかり大人になったダニーを見ると、これまた感無量である。
錚々たる面々の中には、ジョージを追ってこの20年の間にこの世を去っていった人たちもいる。ビリー・プレストンは2006年、ラヴィ・シャンカールは2012年、トム・ペティも2017年に逝去。キーボードで参加したゲイリー・ブルッカー（プロコル・ハルムを主宰）も2022年に亡くなった。彼らの演奏を今また見ることができるのも、この映画の見どころと言っていいだろう。
ビリー・プレストンが歌う「マイ・スウィート・ロード」は、ジョージのソロアルバム『オール・シングス・マスト・パス』（1971年）に収録されシングルヒットした代表曲の一つだが、そもそもはプレストンのソロ作のために書いた曲だ。トム・ペティ＆ザ・ハートブレイカーズが演奏した「ハンドル・ウィズ・ケア」は、ジョージ、ジェフ・リン、トム・ペティ、ロイ・オービソン、そしてボブ・ディランが組んだトラヴェリング・ウィルベリーズの曲。このバンドのドラムは、このコンサートにも参加しているジム・ケルトナーだ。
東洋思想に惹かれインド音楽の要素をビートルズに持ち込んだジョージの集大成と言える「ジ・インナー・ライト」は、ジェフ・リンとアヌーシュカが演奏。ジョージがインドでシタールや打楽器による演奏を録音し、その後イギリスでほぼ一人で完成させた曲だが、シングル『レディ・マドンナ』のB面に収録されたきりで、ビートルズ解散後に出たベスト盤に再収録されるまで、あまり日の目を見なかった曲。それを新たなアレンジで聴けるのもこのライブだけだ。ラヴィ・シャンカールとアヌーシュカがこの日のために作曲した「アルパン」の荘厳な演奏に、クラプトンが即興でギターを弾くシーンは、ジョージの思いを引き継ごうとしているようだ。このリハーサルでインド音楽と西洋音楽の違いを簡潔にアヌーシュカとクラプトンがやり取りするくだりは興味深い。
