BTS、ファンと共に歩んだ10年史 世界的グループへの発展を楽曲の歴史から紐解く

 2015年の一次的なブレイクから各国のファンダムも拡大し、この「花様年華」シリーズのアルバムがアメリカのメインアルバムチャートである「Billboard 200」に初めてランクインしたのは2016年のことだ。この年には、SNS上のファンダムの投票で決まるBillboard ソーシャルチャート「Social 50」で初めて首位を獲得し、翌2017年以降、同チャートが廃止されるまでのあいだ、年間ランキングのトップを守った。2017年には「花様年華」シリーズの外伝としてリリースされた『WINGS』『YOU NEVER WALK ALONE』をベースにした『2017 BTS LIVE TRILOGY EPISODE III THE WINGS TOUR』では、全世界12カ国40公演で約55万人を動員。その中には6万人を動員したアメリカでのアリーナ3公演も含まれている。「WINGS」シリーズの楽曲「피 땀 눈물 (Blood Sweat & Tears)」「봄날 (Spring Day)」「Not Today」も、やはり韓国内でのアイドルトレンドとHIPHOPテイストを併せ持った曲その後もこの傾向は続くことになる。

BTS (방탄소년단) 'IDOL' Official MV

 2017年の「Billboard Music Award」ソーシャルアワード受賞以降、注目度の上昇と共に世界的に人気が拡大していく中で、アルバムコンセプトの内容は「自分を愛そう」という内面的なメッセージになっていく。3番目のコンセプトとなる「LOVE YOURSELF」シリーズの楽曲は、愛のメッセージを含んだEDMをベースとした明るいポップスである「DNA」や偽りの愛をエモーショナルにパフォーマンスする「Fake Love」、アンチへの強烈なアンサーソング「MIC Drop」と、アルバムタイトルに冠されたメッセージよりも、もっと大衆的でエンターテインメントなサウンドを前面に押し出した楽曲を多くリリースするようになる。一方、この時期の大きな変化としては、韓国内でブレイクした『花様年華 Pt.1』の次の『Pt.2』から『LOVE YOURSELF 承 'Her'』までは、すべて韓国のチャート集計に合わせた月曜日発売だったが、同作が初めて「Billboard 200」のトップ10位内に入った後にリリースされた『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』以降は、今のところすべての作品がBillboardチャートの集計の周期に合わせた金曜日発売に変更されている。この動きは、韓国国内でのトップアイドルとしての動きから、“アメリカで最も注目される韓国のボーイズグループ”という自覚が伴った結果とも言えるだろう。「LOVE YOURSELF」シリーズのラストを飾ったアルバム『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』に収録されている「IDOL」は、韓国の伝統音楽や文化を取り入れ、海外のリスナーに対しても“韓国のアイドル”という自らのアイデンティティと共に韓国カルチャーをアピールするという、「ノブレス・オブリージュ」的な姿勢が感じられる楽曲だった。

BTS (방탄소년단) '작은 것들을 위한 시 (Boy With Luv) (feat. Halsey)' Official MV

 世界的なポップスターとしての地位を築いたとも言える「MAP OF THE SOUL」シリーズ以降は、ホールジーとコラボした「작은 것들을 위한 시 (Boy With Luv) (feat. Halsey)」のような、やはりポップなアプローチをタイトル曲には取り入れながらも、ユング派の心理学者 マレイ・スタインによる『Jung's Map of the Soul: An Introduction』(『ユング 心の地図』)をタイトルに掲げるとおり、メンバー自身が感じる成長への内面的な葛藤やファンダムへの感謝が収録曲のテーマの多くを占めるようになっていく。特に『MAP OF THE SOUL : 7』は、ファンとの対話とも言えるような楽曲が多く、この時期のBTSのアイデンティティは、まさに“ファンダム”に直接紐づいていたということだったのかもしれない。トラックに関しても、K-POP的なある意味でジャンル的特性のあるアプローチはかなり薄れ、エド・シーラン、シーア、トロイ・シヴァンといったアーティストとのコラボや、エモラップ、ラテンポプ、アフロポップなどを取り入れ、音楽性はメイン市場のアメリカに受け入れられやすいポップスに近くなっていった。

 「MAP OF THE SOUL」シリーズを経て、2020年以降のコロナ禍にリリースされたのが、完全英語詞の「Dynamite」「Butter」「Permission to Dance」だ。

BTS (방탄소년단) 'Dynamite' Official MV

 オフラインでのパフォーマンスが難しかったコロナ禍の2020年にリリースされたアルバム『BE』は、リアルでの公演の開催が困難になったことで改めて感じたファンダムへの感謝に溢れた内容となった。『BE』以降は、アンソロジーアルバム『Proof』をリリースし、メンバーも課せられた兵役によって順に入隊。他アーティストとのコラボやソロなどの活動に専念し、現在に至っている。

 JINの入隊前最後にリリースされた『Proof』のリード曲「Yet To Come (The Most Beautiful Moment)」は、過去の道のりを振り返りながら「まだ最盛期はきていない」と未来への展望を綴った曲だったが、今回10周年を記念してリリースされた「Take Two」は、ファンと共にした日々を振り返りながら、この先訪れるであろう共に過ごす第2幕=「Take Two」について思いを馳せる歌だ。SUGAがプロデュースに参加したこの曲は、甘いボーカルと優しいラップ、アコースティックサウンドが理想的な調和を感じさせ、メンバー全員が揃うことのできない状況の中で、「元気?」「今何してる?」とファンへ贈る挨拶のような楽曲だ。

BTS (방탄소년단) 'Take Two' MV

 これまでのシーンに比べ、メンバー全員が兵役を終えてもなお10年、15年と歩みを止めずにキャリアを重ねていく姿は珍しくなくなった。「Take Two」は、デビューから10年という大きな節目も通過点に過ぎず、「ファンとBTSの関係はこれから先も当たり前のように続いていくのだ」という、泰然として落ち着いた人気を持つグループの今を表現しているのかもしれない。

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