連載『lit!』第56回:米津玄師、Foo Fighters、ずっと真夜中でいいのに。……自らの王道をアップデートした渾身の新作

Foo Fighters『But Here We Are』

 2022年3月、ドラマーのテイラー・ホーキンスが急逝したことは、残されたメンバーたちにあまりにも大きな喪失感をもたらした。その後、フロントマンのデイヴ・グロールは同年8月に最愛の母との死別も経験した。彼らは、ゆっくりと時間をかけながら深い悲しみを乗り越え、渾身の新作を携えて堂々たる帰還を果たした。

 まず、4月にリリースされた先行シングル「Rescued」を聴いて、何度も繰り返される〈I'm just waiting to be rescued〉という切実な歌詞に胸を締めつけられた。しかし、同曲のサウンドは彼らの王道ロックを今一度アップデートするような、果てしない気概を感じさせるもので、絶望の淵から再び立ち上がろうとするメンバーの姿を想像せずにはいられなかった。そして、“それでも俺たちはここにいる”という鮮烈な存在証明を打ち出したタイトルを冠したアルバムを聴いて、今作は過去を振り返るためではなく、新章を開幕させるために作られた作品であることを確信した。『But Here We Are』のエネルギッシュなサウンドには、大切な人の死を経験したからこそ浮かび上がる鮮烈な生の実感が滲んでいる。デイヴは、〈I'll take care of everything from now on〉(「Show Me How」)とすべてを引き受けて前へ進んでいく決意を歌っている。絶望を乗り越えた先にこそ、新しく掴み取ることのできる希望がある。Foo Fightersは、その眩い真実を長いキャリアを通して何度も伝え続けてくれたバンドであり、それはきっと今回も同じだ。彼らの闘いは、これからもたくましく続いていく。

Foo Fighters - Rescued (From Preparing Music for Concerts)

Noel Gallagher's High Flying Birds『Council Skies』

 意欲的な挑戦に満ちた前作『Who Built The Moon?』以来となる、約5年半ぶりの新作である。前作がまさにそうであったように、ノエル・ギャラガーはソロに転向して以降、さまざまな音楽性を取り入れながら自身の新たな可能性を追求し続けてきた。しかし驚くべきことに、ノエル節が炸裂したメロディが今作で大々的な復活を果たしている。「Easy Now」に顕著なように、Oasis時代を想起させるメロディとコードワークの楽曲も多く、歌声とアコースティックギターを基調としたシンプル極まりないアレンジによって、そのふたつの要素が深くまっすぐ心に沁みる仕上がりとなっている。

 他にも、「Dead To The World」や「Open The Door, See What You Find」をはじめ、彼自身のルーツを色濃く反映した楽曲も多く収録されていて、うち3曲は古くからの盟友であるジョニー・マーが参加し、彼のギターを大胆にフィーチャーしている。ノエルは青春時代にThe Smithsから強い影響を受けており、そうした背景もあって、今回自身の原点回帰作を作るうえでジョニーとのコラボレーションが実現した意義は深い。今後、彼のソロ活動がどのような形に展開されるかはわからないが、今作の制作を通してノエルが自分自身のルーツを見つめ直したことは、これからのクリエイティブ活動に間違いなくポジティブな影響を与えていくはずだ。

Noel Gallagher's High Flying Birds - Council Skies (Official Video)

Sigur Rós『ÁTTA』

 まず一聴して、この星の起源を辿るような悠久の美しさに触れて、強く心を震わされた。月並みな言葉にはなってしまうが、あらためて唯一無二の音楽表現である。また、言葉にならない思いを託したヨンシーの歌唱は、彼らの過去作と比べても、より切実な響きを放っているように思えてならない。今作について、ベースのゲオルグ・ホルムは、「戦争、経済的混乱、文化戦争、そして残酷なまでに分断された言説によって引き裂かれたパンデミック後の世界において、『ÁTTA』は癒しと団結の絆のように感じられます。それは音楽が求めるものであり、自ら語るものです」と述べている。美しく切実なヨンシーの歌声が、時にシリアスな戦慄や気迫を感じさせるのは、今作の背景に現行の社会情勢に対するシビアな認識があるからなのかもしれない。そうした歌声が鮮烈に押し出されている点も、今作の独自性のひとつであるように思う。ほとんどの楽曲がドラムレスで、その意味で言えばビートの力で牽引していくタイプの音楽ではまったくないにもかかわらず、眩い輝きを放つ歌の力によって、結果としてバンド史上最もエモーショナルな作品になっている。

 言うまでもなく、今作の豊かなダイナミズムは、各曲単体ではなくアルバム全編を通して聴いてこそ味わえるものである。56分半、決して短い時間ではないかもしれないが、ぜひ目を閉じて、破格のスケールと深度を誇る今作に耳を澄ませてみてほしい。言語を超えて伝わる願いや祈りがあることを、きっと温かな実感をもって確信できるはずだ。

Sigur Rós - Blóðberg (Official Video)

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