原 由子、初の映像作品に収められたピュアな魅力 ベスト・オブ・ベストな選曲に現れたシンガーソングライターとしての資質

 一方で、新作『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』からの各曲も、新鮮ながらすでに定番曲的な雰囲気が感じられるのもこのライブの特徴だ。「オモタイキズナ」では男女のダンサーが登場し、中間部のラップパートは歌詞がスクリーンに映し出され、よりメッセージを強く感じられるように演出されている。ダンサーは楽しい雰囲気の「ぐでたま行進曲」など、ピンポイントで登場するのも楽しい。ジャジーなムードに乗ってハンドマイクで歌う「夜の訪問者」、アコースティックギターを抱えてノスタルジックなスタイルを見せてくれる「ヤバいね愛てえ奴は」、そして派手な照明と映像で一気にヒートアップする観客総立ちの「スローハンドに抱かれて (Oh Love!!)」など、新作もライブのレパートリーとして馴染んでいるのも見事。このバランス感とスタンダード感こそ、原 由子の魅力といっていいだろう。

原由子 – ヤバいね愛てえ奴は [Live at 鎌倉芸術館, 2023]

 盛り上がりはアンコールでさらにヒートアップする。サザンオールスターズで初めてソロで歌ったという「私はピアノ」はもちろんだが、なんといっても大団円を飾るスペシャルゲストの桑田佳祐の登場シーンに尽きるだろう。橋幸夫&吉永小百合のカバー曲「いつでも夢を」の途中で突然現れ、一緒に歌いながら花束を渡すシーンを見ると、やはりこの夫婦の絆がそのまま音楽に表れていることがよくわかる。桑田の「13年ぶり? 毎年やろう!」というリップサービスもあって、とても心地良い雰囲気で締めてくれるのだ。

 原 由子にとって初の映像作品となる本作は、ボーナストラックにMVやリハーサル風景など貴重なシーンも収められている。そういった意味では記録としても重要だが、何よりも彼女の音楽のピュアな面がしっかりとパフォーマンスに投影されていることが素晴らしい。カメラで捉えたシンプルだけれど奥深いステージングの記録からは、個々の楽曲の魅力が伝わるし、何よりも原 由子がストレートに歌の良さを伝えられるシンガーソングライターであることを、まざまざと見せつけられるのである。

『スペシャルライブ2023 「婦人の肖像 (Portrait of a Lady)」 at 鎌倉芸術館』特設サイト

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