古内東子×相沢友子が語り合う、作品創作における言葉へのこだわり 年齢や時代と共に変化する“恋心”の描き方
「やっぱり私も書くことしかできなかった」(相沢)
ーードラマの場合は、社会の恋愛観の変化にも影響を受けますよね。たとえば、「恋愛はオワコンだ」という人もいれば、恋愛リアリティーショーに夢中になる人もいて。
相沢:一時期、ラブストーリーが下火になった時期があったんですけど、最近はだいぶ盛り返しているように思います。「昔はこういうのがあったよね」ということが、意外と今の若い世代の間で爆発的にウケていたりする。時代が変わって、若い世代は恋愛に臆病になっているとか、あまりしないと聞いてはいたけれど、やっぱり恋愛に興味はあるし、憧れみたいなものは変わらないんだなと感じています。ただ、どうしてもツールが昔とは違うので、真っ向からぶつかり合うみたいな恋愛はなかなかしないのかな。ストーリーを書いていても、恋に限らず、人と人が激しくぶつかったり、声を荒げて言い合ったりするシーンを苦手とする方も一定数いるように感じます。そういう部分の感覚は変わってきたのかなと思いますね。喧嘩の仕方も全然違うのかな……今はあまり激しい恋はしないのかもしれない。
ーー古内さんの歌詞にはスマホとか、時代を限定しそうな単語はあえて出てこないですよね。だからこそ、スタンダードのラブソングとして歌い継がれていく強度もあるんですが。
古内:そうですね。ただ、言葉としてはあえて出してはいないだけで、〈電話の向こうで飲んでる それって何? 氷の音?〉の“電話”は当然、自分も使ってるスマホのことだし、私はLINEでの告白も全然ありだと思っています。好きな人がいたらいろんなツールで話したいと思うけど、自分自身もやっぱり、人との付き合い方でさらっとしてる部分があるのは否めないなとも思います。友子さんがおっしゃったみたいに、あまり人とぶつかったりしたくないところはある。疲れちゃうからね。
相沢:(笑)。
古内:そういうのを避けながら、人付き合いをしてるのかもしれないです。だから、ラブソングでもあまりドロドロした曲にならないのかも。
ーーでも、思いの強さみたいなものは感じます。
古内:うん、怨念みたいなものは相変わらず強いんだけど(笑)、自分の中で思っているだけで、それを相手に伝えているわけではないんです。いろんなツールでいつでも伝えられるからこそ、伝えられなくなっている部分がきっとたくさんあるんじゃないかなと思いますね。
ーーこれまでは違いという点でお話ししてきましたが、逆に作詞と脚本で似てるなと思ったところもありますか。
相沢:ここぞ! というときのセリフは歌をやっていたときの感覚に近いなと思うことがあります。あとは、セリフのやり取りのリズムがすごく大事だなと私は思っていて。それはやっぱり歌をやってたいたときの感覚が残ってるような気がします。
古内:頭の中で言ってみるんですか?
相沢:口に出して言いますね。肝のところを読みながら泣いたりもします(笑)。あと、言葉の緩急や口に出して言いやすいかどうかも確認しますね。
古内:言葉の表現方法ってたくさんあると思うんです。例えば「好き」という言葉にしても、「好き」「好きです」「好きなんだよ」「好きなんだよね」といろんな伝え方がある。選択肢がいっぱいある中で、相沢さんのこだわりはあるのかなと思って。ここはもう、「好きなんだよ」じゃなくて、「好きなんだよ“ね”」を絶対につけなきゃいけないんだ、とか。
相沢:あります。そういうことで時々監督と意見が違ったりもします。それまでタメ口で仲良く喋っていた間柄なのに、告白のときだけ「好きです」と書いたことが以前あって。「好きです。付き合ってください」と真っ向から言う、みたいな。周りから「今時、こんなこと言うの?」みたいな意見もありましたが、私は親しい関係だからこそ、きちんと言う方がトキメクなと思ったんです。そういう感覚って、人それぞれじゃないですか。「何で急に敬語なの?」と言われたんですけど、その時は感覚で書いてるし、やっぱりここは敬語じゃなきゃ嫌だなと思って。感覚的なことなんですけど、『ここは「好きだよ」じゃないんですよ、絶対に「好きです」にしてください』とお願いしたことはありますね。
古内:それは友子さんのこだわりなんですか。それともキャラクターがおりてきて?
相沢:キャラクターですね。この人たちの間で告白の場面が来たときにどう言われたらドキドキするのか考えて、やっぱり突然敬語で言われた方がキュンとくるんじゃないかなと。でも、それは好みだし、正解がないんですよ。特にラブストーリーは難しいですね。ミステリー系は答えがあるし、犯人が決まっているから、ロジカルに作れるんですけど、恋愛はプロデューサーも監督も役者さんもみんなそれぞれ好みも違う。「僕はこういうことを言わないよ」「私は言う」みたいになると、もうどれが正解かわからないので、そこはもう戦いですよね。
古内:そういうこだわりが聞けて嬉しい。
相沢:(笑)。「ごめん」と「ごめんね」も違いますからね、やっぱり。「ごめん。ごめんね」と書いたときに、「これ1回でいいんじゃない」と言われて。『いや、「ごめん」の後に「ごめんね」にしてください!』みたいな。
古内:その言葉のスピードや間までは指定できないんですよね?
相沢:私はうるさいぐらいに、「ここで相手を見る」とか、「ここで顔を上げる」とか、目の動きまで書いちゃいますね(笑)。もちろん、あとは現場で好きにしていただいて構わないですけど、私のイメージはできる限り伝えようと思っています。
古内:脚本には演出も入っているんですね。
相沢:あくまで提案の域ですが。その感覚がハモる監督さんとは、何度も一緒に仕事をするようになります。お互いに、きっとこれはこういうことだなと汲み取れるので。その感覚がうまく合わない役者さんや、監督さんもいるんですけど、それはどっちが悪いわけでもなく、好みや解釈の違いなんです。だからこそ、奇跡的にそういう感覚や好みが合う人と出会ったときはすごく嬉しいです。それこそ『恋ノチカラ』は、深津絵里さんは天才的な役者さんですけど、びっくりするぐらい汲み取って返してくれて。自分の想像を超えてくるお芝居を役者さんがしてくれることもたくさんあります。お互いに響き合って、奇跡的に合致したときは感動しますね。
古内:セッションなんですね。
相沢:まさにそうです。
古内:そのお話が聞けてよかったです。そこまでこだわっているからこそ、見ている側も感銘を受けるんだと思います。
ーー相沢さんからこの機会に古内さんに聞きたいことはありますか?
相沢:30年やってきて、やめたいとか、やめようかなと思ったことはありますか?
古内:家に帰って、電気もつけずに泣いたりしたことはいっぱいあります(笑)。ストレスで全身痒くなったり、東京駅と聞くとお腹が痛くなったりとか。
相沢:なぜ東京駅(笑)?
古内:キャンペーンがつらかった時期があったんですよね。そんなことを言ったら、バチが当たるぐらいマイペースにやらせてもらっているんですが。あと、30年とはいえ移籍もしているので、スタッフが総取り替えになって、また「はじめまして」から頑張らなきゃなみたいなタイミングが何回かあって。だから、「やめたい」「やめよう」というワードは出ないけど、「疲れたな」みたいなタイミングはありました(笑)。
ーーそれでも30年間、歌い続けてきたのはどうしてだと思いますか。
古内:友子さんが羨ましいのは、私は他に何もできないんですよ。それしかないから、転職できないっていう(笑)。
相沢:いや、それこそがすごいことですよ。最初から一番向いている仕事に出会えたということですよね。
古内:でも、気がついたらワーキングホリデーに行けない年齢になっていて、パート募集中の張り紙とかもよく見るんですよ。何歳まででもうダメなんだな、とか。自分は他に何ができるのか。20代や30代のときは、やめたいということとは別として、ぼんやりと見ていたりしてたんだけど、もう可能性がないということはわかってきて。ここまで来たらしがみつくしかもうない、という域にはきてますね(笑)。
ーー(笑)。友子さんも作詞から脚本と言葉の表現活動を30年以上続けています。
相沢:やっぱり私も書くことしかできなかったんだと思いますよね。自分にできるのは文章を書くことしかないなと思っていたし、他のことはもう考えていなかった。あとは、本当に運とご縁と人には恵まれたなっていう感じですね。
古内:アーティストの頃から、長文は書いてたんですか。
相沢:そうですね。ファンクラブ向けの冊子にショートストーリーを書いていて、当時のマネージャーさんから「ちょっと長編小説書いてみなよ」と言われてから本格的に物語を書くようになって。
古内:書くことがお好きだった?
相沢:好きですね。子供の頃から物語を書いていました。
古内:そういうのを聞くと、なるべくしてなったんですね。
ーー最後にお互いにエールを送り合っていただけますか。
相沢:一生、恋をし続けてほしいですね、古内さんには。みんなが「わかるわかる」「そうだよね」となる言葉を伝え続けてほしいし、いろんな恋の形を歌ってほしいです。
古内:ありがとうございます。私はいつもドラマを楽しませていただいているので、まずお礼を言いたいですね。そして、ラブストーリーもまた楽しみにしています。濃厚で濃密な作品というよりは、日常感のあるラブストーリーを見たいです。
相沢:私はドロドロが苦手なので、普通に書くとそういう風にならないんですよね。
古内:当人にとってはすごく大変なことだけど、側から見たら、なんてことない恋愛が見たいな。
相沢:いいですね、それ。ラブストーリー、書きたくなりました。
■リリース情報
古内東子
タイトル:『果てしないこと』
発売日:2023年3月8日(水)
初回生産限定盤:¥7,700(税込)
Disc-1(CD)
1.Soda
2.電光石火
3.素肌
4.果てしないこと
5.girl
6.Savon
7.ひとりよがり
8.1AM
Disc-2 (BD) 2022年10月11日に国際フォーラムCで行なわれた
『TOKO FURUUCHI 30th ANNIVERSARY SPECIAL LIVE』
01.SLOW DOWN
02.Distance
03.大丈夫
04.Enough is Enough
05.動く歩道
06.IN LOVE AGAIN
07.うそつき
08.Jeans
09.シャワールーム
10.銀座
11.夕暮れ
12.逢いたいから
13.キッスの手前
14.シャツのボタン
15.Lighter
16.悲しいうわさ
17.誰より好きなのに
18.魔法の手
19.はやくいそいで
20.スーパーマン
21.コートを買って
22.Strength
23.歩幅
24.あの日のふたり
25.いつかきっと
通常盤(MHCL-3022):¥3,300(税込)
(CD) 初回生産限定盤Disc-1と共通
◇古内東子30周年記念プロジェクト特設サイト
https://www.110107.com/TOKO30/
◇古内東子オフィシャルサイト
https://www.tokofuruuchi.com/
◇相沢友子 Instagram
https://www.instagram.com/aizawa_tomoko/