米津玄師、新曲「LADY」で描いた淡々とした日常 凡庸さを抜け出させた2つの強み
しかし、凡庸の一言で片付けるには惜しい曲でもある。それに、そもそも米津玄師というアーティストは、インパクトのある一行で人を惹きつけるようなタイプではなかったのではないか。
たとえば、2番めのAメロで〈二度と会えなくなったら〉の直後に、淡々と進むリズムをかき乱すように半小節カットされる展開に注意してみよう。この乱れは、描かれている関係のかけがえのなさを、言葉にならない場所から浮かび上がらせるどきっとするような仕掛けになっている。
また、個人的に気に入っているのが、ぽつ、ぽつと音を置く一行となめらかなメロディが登場する一行が交互にあらわれるBメロだ。スムースなビートもあいまってとても自然に、優雅に響く。
そこから一転してサビに入ると、今度はむしろちょっとちぐはぐになる。サビに登場する16分三連の性急さ(たとえば、〈レディー 何も言わないで〉の〈何も〉の唐突で畳み掛けるようなスピード感。これがサビで反復されるのだ)が、あたかも強い思いがあふれるかのように感じられる。Bメロのなめらかさもあいまって、対比的にサビの説得力が増している。
楽曲全体の構成を考えても、後半に向けて次第に日常から遊離するかのようにスケール感を増す展開は、曲が持つ弱みを補っているといえるだろう。
このような構成やアレンジの巧みさ、いわば歌詞という台本を舞台に仕立てる演出の上手さ。それに加えてパフォーマーとしての力量。その2点が、米津玄師の強みなのだと思う。そのおかげで、「LADY」は凡庸さを抜け出している。とはいえ、もし米津玄師の描く淡々とした日常が、より言葉のレベルで魅力的だったならば……と感じてしまうのも確かなのだ。
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