GUMI×kemu=堀江晶太、IA×じん(自然の敵P)、v flower×バルーン=須田景凪……特定ソフトで“らしさ”示してきたボカロP
その後シーンは低迷期へと突入するが、それでも初音ミク以外のソフト使用をひとつの個性としたボカロPの存在が残った点は興味深い事象でもある。この期間を支えた代表的な存在であるOrangestarは、「アスノヨゾラ哨戒班」「DAYBREAK FRONTLINE」などでIAの魅力を遺憾なく発揮。また「WAVE」「ELECT」などを代表曲とするnikiも、Lilyの調声に長けたボカロPとして今なお支持され続けている。
多彩なソフトの活用で個性を示した面々の活動を土台とし、その後徐々にVOCALOIDカルチャーは復興を遂げる。そのきっかけのひとつが、v flower(flower)ブームの到来だ。2010年代後半~2020年はこのv flowerの使い手たちの活躍で、シーン全体が再評価されたと言っても過言ではないだろう。「シャルル」「メーベル」で爆発的にその名を広めたバルーン(須田景凪)、「フィクサー」「命ばっかり」などのぬゆり。柊キライや煮ル果実の存在も、この頃のシーンを語る上では看過できない。
また、v flowerや初音ミク以外のソフトを看板として人気を獲得したボカロPも多数存在する。中でも強烈な印象を放つのは、以前から鏡音リン・レンへの偏愛が話題となっていたギガP(Giga)、そして数々の人気GUMI曲を生み出したユリイ・カノンら。両名ともVOCALOIDシーンの垣根を越え、幅広い場所で活躍を続けている。
その後2021年に登場したCeVIO AI 音楽的同位体・可不(KAFU)のブームにより、多様性に富んだ音声合成ソフトが用いられる潮流が本格的に出来上がった。しかし現在のトレンドである可不や初音ミク以外のソフトを使用するボカロPがニューカマーに多い点は、今のシーンの特異な点でもあるだろう。「KING」「酔いどれ知らず」などの人気曲をGUMIで制作するKanaria、「グッバイ宣言」「シェーマ」などでv flowerを用いるChinozo。また「エゴロック」「ラヴィ」などのヒット曲ですりぃが一貫して鏡音レンを使用する点も、これまで意外と焦点を当てて語られていないように思う。
上記に追随するのは、歌愛ユキの魅力を粛々とリスナーへ届け続ける稲葉曇、ディープなリスナーからの注目を集めるv flowerの使い手・Azari。また同じく歌愛ユキを用いる青栗鼠、ずんだもん曲に定評のある、なみぐるなど、シーンの一大祭典『The VOCALOID Collection』でも爪痕を残す面々も控えている。ラインナップの多彩さ故に、依然として“顔”と呼べるボカロPが不在の音声合成ソフトも多い。特定のソフトへの偏愛を貫き、未だ空席のままの彼・彼女の魅力を発信する先駆者となることが、時代を切り開くボカロPとしての独自性を獲得するひとつのチャンスかもしれない。
連載「lit!」第40回:ピノキオピー、ユギカ、GESO×rinri、⌘ハイノミ……ボカロ文化の“心臓”を感じさせる楽曲4選
いまでは音楽シーンにおいてメジャーな存在となったボカロ楽曲は、もともとはアンダーグラウンドな文化として存在していた。当時のメジャ…
連載「lit!」第35回:ぬゆり×和田たけあき、DECO*27×ピノキオピー、MI8k×星街すいせい……様々なスタイル展開するボカロPたち
ボカロPはボカロPとして曲を作る。歌い手は歌い手としてボカロ曲を歌う。昔はそうだった。しかし、今はできることが何通りも広がり、誰…