Phoenix、最新アルバム『Alpha Zulu』美術館での制作に引き出された感情と創造性 ゴダールやYMOからの影響も語る

YMOとDNAがマッチした

ーー「After Midnight」には1977年の日本製のシンセサイザーが使用されているそうですね。

ブランコ:YAMAHAのCS-80。この世で一番美しいシンセサイザーじゃないかな。同じくYAMAHAのGX-1、ドリームマシーンと呼ばれる素晴らしいシンセもあって。3段のキーボードを組み合わせることで夢のような音を出すシンセなんだ。

トーマス:熱く語っちゃうよね(笑)。

ブランコ:とにかく僕らが所有しているシンセはほとんどが日本製なんだ。シンセだけじゃなくて、ドラムマシーンから何から、いろいろな機材が好きで。本当にマニアなんだけど(笑)、「After Midnight」ではたまたまCS-80を使ったんだよね。バッハのコラール(キリスト教会で伝統的に歌われてきた4声の合唱曲)をモチーフにしていて、実はコードが複雑なんだよ。

Phoenix - After Midnight (Official Video)

ーーシンセサイザーをいち早く取り入れたバンドとしてはYMOがよく知られていますが、お二人はYMOをどう評価していますか?

トーマス:今言ったように僕らはシンセサイザーがすごく好きで。1990年代にインターネットで調べていくなかで、「このシンセはYMOも使用しました」という記述がすごく多いことに気づいたんだ。YMO、Ultravox、Tangerine Dreamは本当によく名前を目にした。で、「YMOってどんなバンドだろう?」と調べてみたら、DNAがマッチしたというか、すごく好きになったんだよね。なので僕にとってYMOは、シンセのおかげで発見したアーティストかな。

ブランコ:僕はYMOよりも、坂本龍一さんの名前を知ったのが先だったんだよね。おそらく最初は『Merry Christmas, Mr. Lawrence』(『戦場のメリークリスマス』1983年)という映画だったと思う。その後、彼の音楽を聴いていくなかで、YMOや細野晴臣さんを知って。……今思い出したんだけど、以前、日本の古本屋でYMOの1980年代のツアーパンフレットを見つけたことがあって。すべてのページにアイデアが詰まっているような本で、しばらくの間、曲作りなどの参考にしてたんだよね。

トーマス:高橋幸宏さんのソロワークもよく聴いていました。(トーマスのパートナーである、映画監督のソフィア・コッポラに)映画音楽を頼まれることがあるんだけど、高橋さんの作品を参考にしたこともあって。かなり影響を受けてると思う。

ーーそうなんですね! アルバムの収録曲「Winter Solstice」には、元Daft Punkのトーマ・バンガルテルさんが参加していますね。

トーマス:フィリップ・ゼダールという今は亡き友人がいて、以前は彼がプロデューサーとしてPhoenixを導いてくれてたんだ。彼の強力なアイデアやコンセプトは今も自分たちのなかに根強く残ってるんだけど、フィリップがいない状況でレコーディングすることになったときに、トーマに参加してもらうのはどうだろう? と。「Winter Solstice」だけではなくて、今回はトーマがアルバム全体を通して良き案内人になってくれたし、方向性を示してくれた。レコーディング中は自分たち以外の誰かの反応を見るのも大事なんだけど、彼はまさに適任だったと思う。亡き友人の穴埋めというわけではないけど、曲の良し悪しを判断できる人が必要だったんだよね。実際、トーマは何かを分解して再構築する才能がすごくあるし、新しい視点ややり方をもたらせてくれた。彼の頭の回転の良さは、ただミュージシャンというだけではなくて、たとえばNASAやSONYといった企業でも成功すると思うような感覚なんだよ。

Phoenix - Winter Solstice (Official Video)

ーーPhoenixとDaft Punkの関係も興味深いです。

ブランコ:僕は以前、トーマ、(元Daft Punkの)ギ=マニュエル・ド・オメン=クリストと一緒にバンド(Darlin’)をやっていたんだ。やがてトーマとはレイヴカルチャーに向かっていき、その先にDaft Punkがあった。僕はPhoenixに参加したけど、あの二人とは仲違いしたわけではなく、違う方向に成長しただけなんだよね。17、18歳くらいからの付き合いだし、それこそ好きなレコードを交換したり。そのときの友情がいまだに続いている感覚なんだよ。

ーーPhoenixには30年以上のキャリアがあります。トレンドの変化が大きいポップミュージックの世界で、これだけ長く第一線で活動できている理由は何だと思いますか?

ブランコ:秘訣があるとしたら、常に“流行りじゃないもの”をやっていることかな。流行りは、きたと思ったらすぐに去ってしまう。それだけを追いかけているのはつまらないし、むしろ流行りにこだわらず、自分たちが信じている星を眺めながら進むほうがいいんだと思う。

トーマス:レコーディングに入る時は「この世に存在してないものを作りたい」という気持ちなんだよね。でも、レコードが完成すると、それはすでに存在している音楽なので、あまり聴き返すことがなくなってしまう。で、しばらくすると「自分たちが聴きたい音楽を作りたい」と思う。結局はその繰り返しなんだろうね。「僕たちは音楽を生み出しているのか、それとも探しているのか」というジレンマに陥ったりもするんだけど。もう一つの捉え方としては、「すべてのアルバムは、その瞬間のポラロイド写真」という感覚。大きなプランを持っているわけではないんだけど、その瞬間の自分たちを焼き付けながら成長を続けて、“次”に向かっているんじゃないかな。

■リリース情報
『Alpha Zulu』
配信:https://wearephoenix.lnk.to/Alpha-Zulu

オフィシャルサイト
https://wearephoenix.com/

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