宅見将典、『第65回グラミー賞®』最優秀グローバル・ミュージック・アルバム受賞 10年以上に渡る過酷な挑戦の日々

グラミー賞に挑戦し続けてきた中で得た“大切な財産”

――グラミー賞のことは知っていたつもりでしたけど、会員になるとエントリーできるとか、カテゴリーがそんなにたくさんあって、カテゴリーを変えるだけで評価が変わることまでは知らなかったです。ちなみに、今後日本人がグラミー賞にノミネートされたり受賞する可能性はあると思いますか?

宅見:今回「ゲーム音楽部門(最優秀サウンドトラック・アルバム作曲賞、ゲーム、その他インタラクティヴ・メディア部門)」ができたことは、日本人にとってはすごくうれしいことだと思います。日本のゲーム音楽は世界的にも評価が高いですから。昨年お亡くなりになられた、『ドラゴンクエスト』シリーズのすぎやまこういちさんが、もし生きておられたらノミネートされていたかもしれません。ほかにも『ファイナルファンタジー』シリーズの植松伸夫さんなど。歌ものという部分では、もしアニメソングがもっと世界に広がって「アニメミュージック」みたいなカテゴリーができたら、日本人がノミネートされる可能性は高いでしょうね。もしくは、BTSのようなグループがもっと出てきたら、本家のグラミー賞とは別に、『ラテン・グラミー賞』のような、『エイジアン・グラミー賞』ができる可能性もあると思います。これはあくまで私の想像の範疇ですが。

――今回、宅見さんがノミネートされたことについては、2011年と2013年にSly & Robbieの作品でノミネートされた経緯があって、その流れで今回ノミネートされたと思っている人も多いかもしれません。もちろんそれがあって会員になれたわけですけど、その後に英語を勉強してロサンゼルスに住んで、毎年エントリーを続けてきた。その10年以上に渡る地道な活動があって、ようやくつかんだ夢の一端という感じですね。

宅見:グラミー賞のサイトには過去のノミニーとして僕の名前があるんですけど、日本人受賞者のまとめサイトみたいなところには、僕の名前が載っていないところも多くて、正直それがすごく悔しかったのも大きいです。11年前から、今回のノミネートが発表された日まで、正直ずっと悔しかったんですよ。もちろん当時は100%Sly & Robbieのおかげだったし、自分は運良くそこにいられただけでした。自分でも分かっていました。だからこそというか。

――もはや執念ですね。これまでグラミーに向けた活動に投資した額も、きっととんでもないのでは?

宅見:シャレにならないくらい使っています(笑)。自分でスタジオ代も払って、ビルボードに広告も出して。音楽のプロとしてやっているのに、音楽を必死でやればやるほどお金が出ていくので、正直「何してるんだろう?」と思った時もありました。でも自分が本当にやりたいことなら、関係ないということ。だって旅行に行ったらお土産を買うし、欲しい車があったら一生懸命働いて買うじゃないですか。それと同じなんです。

――グラミー受賞を目指すためには強い気持ちがないとやりぬくことは難しいということはわかりましたが、他にどのようなことが必要だと思いますか?

宅見:まず英語が必須。それに時間、コスト、労力、いろんな投資が必要です。グラミー賞は、僕から言わせれば「人間総合力コンテスト」です。人と知り合わなければエントリーできず、グラミー賞がどういうものか知ることができない。そのためにはアメリカに通わないといけないなど、音楽だけじゃない部分もたくさんあって、でも最後はやっぱり音楽なんですよね。それを理解するのに12年かかりました。私は会員で投票権も持っているので、毎年エントリーシートを見るんですけど、「ここにこんな人が!」という日本の有名アーティストの名前も結構あったりします。でも、そこは狭き門なので……僕はそこをどうクリアするか、12年かけて戦略を模索してきました。

 ただ思うのは、グラミー賞に向けてすごく時間と投資と労力を使ってきましたけど、振り返ると別のものをもらっていたことに気がつきました。それはたくさんの仲間たちです。日本にいたら、アメリカのミュージシャンとこんなにたくさん出会うことはなかったでしょう。釣り堀には釣り好き、ゴルフ場にはゴルフ好きが集まるように、グラミーの周辺ではグラミーフレンズたちのパーティーがたくさん開かれていて、そこに行けば「君は何やってるの?」という話から、ジャンルも楽器も違う音楽家とたくさんつながることができました。パーティーに出ることも本当に重要で、半分ロビー活動、半分仲間作りみたいな感覚です。グラミー賞などの大きなアワードのパーティーには、カリフォルニア州の人だけではなく、ニューヨークやナッシュビルなどいろんな地域から、それこそ世界中からアーティストが集まります。そこでいろんな人と出会って話をすることで、“気づき”がすごくたくさんありました。これも僕がグラミー賞に挑戦し続けてきた中で得た、大切な財産です。

――発表当日が楽しみですね。

宅見:はい。授賞式は2月5日ですけど、2月頭から至るところでパーティーがあるので、それにも顔を出しながらという感じです。ただ「楽しみ」という一言では表せないものがあります。これは自分でもびっくりしているんですけど、ここで満足すると思ったら、全然してないんです。ここからまた一人でも多く自分の音楽をアピールしたいし、どうやったら聴いてもらえるか、今はそのことで頭がいっぱいです。「楽しみです」とシンプルに言えないのは、これからの自分の行動によって結果が変わるから、という部分があると思いますね。この12年の行動で今があった。今何をするかで未来が変わることを私は知っています。1月4日に投票が締め切られるまでは、臨戦態勢でやれる限りのことをやります。

――そうまでさせるには何が?

宅見:2011年に現地で、あのエンターテインメントを観てしまったからでしょうね。

――まだ結果も出ていないうちから先のことを聞くのもあれですけど、来年、再来年も?

宅見:どうですかね。ここまで命を削ってやってきたので。ただ、音楽家として何をするのか、グラミー賞に自分の名前と曲でノミネートされた、その称号に恥ずかしくない音楽家・人間として活動していけたらと思っています。

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