DYGL、最新作『Thirst』で表現した渇きから生まれるエネルギー 作品ごとに変化・成長するバンドのあり方

渇きを心に感じて、何かを欲している

――『Thirst』というタイトルはどういうところから生まれてきたんですか? 乾いているんだけど、単に渇望しているというのとも違う、それを半ば受け入れているような感じもある、不思議なニュアンスだなと思って。

秋山:今回『Thirst』にしたのは、既にできていた数曲の歌詞から受けた自分自身の印象を、この単語が一番しっくり受け止めてくれるなっていう感覚があったからなんですけど。1stから3rdまではそれなりに文章っぽい、ちょっと長めのタイトルが多かったので、今回は逆に一言でこのアルバムのムードを説明できたらいいなと。乾いている、満たされていない感じとか、あったはずのものが欠けてしまった感じ、それだけ考えるとネガティブなんですけど、渇きを心に感じて、何かを欲しているということで言えば、生きる力と同義だなとも思って。それはむしろエネルギーであって、The Rolling Stonesが「(I Can't Get No) Satisfaction」って歌っていることとも繋がる。それを音楽にして表現するのは1つのポジティブな行為だと思います。だからどちらの面もありますね。「Loaded Gun」ぐらいカラッカラに乾燥して希望を持つことを諦めているような曲もあれば、その乾きがむしろ潤ったあとみたいな「The Philosophy of the Earth」という曲は、内から外に飛び出して、周りにある自然や世界に囲まれてる自分を見つめている感じもある。曲的には両極端だけど、『Thirst』という言葉がそれを繋いでくれているみたいな感覚ですね。

――自分に対して、あるいは時代や社会に対して「渇き」みたいなものを感じる瞬間ってありますか?

秋山:そうですね。自分も感じるし、特にコロナが終わっていざ世の中にみんなが放たれ始めたときに、自分は改めて今から何をしたいんだろうっていうのは結構多くの人が考え始めるんじゃないかなと。働き方が見直されたりとか、人との距離感、世の中のいろんなことが変わったと思うんです。打ち合わせやラジオも別にZoomでいいかもしれないっていうこととか、都会を出て地方に住み始める人も多くなったような気もしてるし。いろんな面でみんな何かを求めていて、それが何かをもうわかっている人もいれば、それ自体を探している人もいる。

――まさに「Sandalwood」で〈地図はいらない 彷徨っている方がいいから〉(訳詞)と歌っていますけど、そうやって何かを探しながら彷徨っていくことを肯定するアルバムなんじゃないかなと思うんです。その「肯定」という部分にフォーカスを当てて表現しているのが「Salvation」ですよね。資料では秋山さんがクリスチャンホームで育ったということにも触れていますけど、宗教的な意味合いも帯びる「救い」という言葉には何を託したんですか?

秋山:わかりやすく救いに飢えている面もあるし、求めていることって本当は何なのかを考える作業でもある。今はたまに行くぐらいですけど、自分の中には自分が育った教会のカルチャーが根付いているし、救いについて考えることは今でもずっとあって。だから「Salvation(救い)」という言葉に何を託したかというのは難しい質問で、自分自身それを探しているのかもしれないですね。そういう心の揺れをこの曲に託した面は確かにあります。でもそれは1つの自分の中のモデルというか、考え方の1つのあり方であって。それとは別で、周りの色々な人間、そしてその人間関係を眺めていると、何かのきっかけがあって人間関係が変化したり、前の日までは普通に仲が良かった友達や親戚同士が次の日から全く会わなくなってしまったり。昨日まで信じていた人間関係や自分の生活基盤が簡単に崩れてしまうこともあるというのを目の当たりにした瞬間がここ数年で何度かあって。そういう人間と人間関係について関して考えた曲でもありますね。

――その意味ではとても切実でシリアスなテーマだと思うんですよね。でもこの曲ってこのアルバムの中でも一際ポップな曲だなと思うんですよ。こういうサウンドでシリアスなテーマを歌うというのはなぜだったんでしょう?

秋山:そうですね。ポップだからそうしたシリアスな歌詞が聴けるっていうのはありますよね。本当に暗くて辛くて苦しい曲に、暗くて辛くて苦しい歌詞を歌った方がいいときもあるけど、それだと本当に辛くて聴けないっていうときもあるし、いろんなレイヤーで聴ける曲があったほうがいい。でも自分の曲作りのモチベーションは、自分の欲求ですね、基本的に。変な話、外の人のことは曲を書くときはそれほど考えない。自分が本当に聴きたい曲、本当に読みたい歌詞を書く。自分に対して正直であればあるほど、むしろそれが他人にも届くと思えるようになったかもしれない。人を観察する時も、何かに完全に没入してる人を見るのが好きなんですけど、ライブや人のパフォーマンスを観る時もこちらをあまりに意識していると感じるとちょっと重いなって感じるんですよ。不器用でも自分の感情に正直に物を作っている人がやっぱり一番好きなので、自分もそうありたいなと思うし、正直に、全ての創作はまず自分自身のために作ってると思ってますね。

――そういう意味でもすごくイノセントだなと。ナイーブだと言ってもいいかもしれないですけど。だからこそこれほど振れ幅の大きなアルバムになったんだと思うし、最初から最後まで通して聴くと、ひとりの人間が音楽によって解放されて、あるいは救われて、どんどん音楽的に自由になっていく物語のようにも感じるし。「Euphoria」以降どんどんアルバムはアッパーになっていきますよね。

秋山:曲はどんどん元気になっていきますよね。でもアルバムの最後をそういうふうにしたいねって最初から狙ってた訳じゃなかったんです。だからさっきおっしゃっていただいたような、内面と向き合うような静かな時間があって、それが少しずつエネルギーに変わっていくみたいな解釈は言われて気づきました。いい解釈だなと思ったので使わせてもらいます(笑)。「Euphoria」とか「Salvation」あたりの曲はレコーディング中にスタジオで楽器を適当に弾いていたらものすごく大きな開放感を感じた瞬間があって、その合間にそこにあったアコギでフレーズを録りためたところからできた曲ですね。

――楽器を弾くのが楽しいよねっていうのが出ている感じの曲たちですよね。そういう曲で一番ディープで根源的なことを歌っているのもいいなと思うし、それこそがDYGLが今作をかけて辿り着いた着地点、このバンドのバランスなのかもしれない。いろんなことを考えるし悩むけど、その揺れ動く部分も受け入れながら進んでいくよっていう。「Phosphorescent / Never Wait」の〈もう待たない〉(訳詞)っていうのはそういうことなのかなって。

秋山:テレビにしても映画にしても「こう生きるべきだ」とか、かっこよく「好きなことだけやるべきだよ」「生きているだけでいいことあるよ」とかいうけど、気づいたら小さな悩みは毎日あるし、完璧じゃない自分とどうしても触れ合うことになる。直そうとすると一生それと付き合うことになるけど、受け入れれば問題じゃなくなることもあって。それもまた自分の気持ちの状態によるんですけど。The Whoのピート・タウンゼントが言ってた、「Rock 'n' Roll might not solve your problems, but it does let you dance all over them(ロックで君たちの悩みは解決しないかもしれないけど、悩んでいるまま踊らせることはできる)」って言葉がすごく好きなんです。悩んでいるままでいいっていう肯定感を、押しつけがましくない形で表現できたらいいなって思います。

――そういう部分でDYGLが何を歌うべきか、少なくとも精神的な部分での芯は今回はっきり示せたと思うし、これからどう進んでいくのかもなんとなく見えてきたんじゃないですか?

下中:でも音楽的には実際に音を出さないとこの先自分がどんなことをするかは全然わからないですけどね。

嘉本:僕も今後のことは考えてないですね。今後考えます(笑)。

秋山:僕は半々ぐらいかな。いろんなアイデアはあるし、将来的に試してみたいこともある。でもそういうのも、今までも「こうなろう」と思ってこうなってきたわけではないですし。やっぱり自分たちがやってて「素晴らしい曲をやれてるな」って思い続けられるものを作り続けたいし、さっき言った通り僕は結構飽きっぽいんで(笑)。自分自身を飽きさせないことを、この先ずっとやっていきたいなと思います。バンドとしてどうなっていきたいっていうのは、本当に考えすぎると失敗するんで、その時その時の自分たちの気持ちを見逃さないようにしたいですね。

加地:今回は自分たちにとってもすごくいい制作ができたという実感はあるんです。イメージでいうと何でも入る箱ができたみたいな感じ。今後もそこに自分たちで好きなものを入れていけば、自然と自分たちらしいものができるんじゃないかなって思えています。だけどそういういい状態を維持するにはチームとしていろんな面で努力しなきゃいけないので。ちゃんと成長しつつ、いいものを作っていけたらと思っています。

■リリース情報
4th ALBUM『Thirst』
12月9日(金)配信リリース
CD販売価格:2,750円(税込)
URL: https://DYGL.lnk.to/ThirstPR

Single 『Under My Skin』
各種配信サービスにて配信中
URL: https://DYGL.lnk.to/UnderMySKinPR

■ライブ情報
『DYGL JAPAN TOUR 2023』
東京 1月20日(金)渋谷 Spotify O-EAST
京都 1月21日(土) CLUB METRO
兵庫 1月22日(日) VARIT.
香川 1月24日(火)高松TOONICE
岡山 1月25日(水) YEBISU YA PRO
広島 1月27日(金) 広島セカンドクラッチ
熊本 1月28日(土) NAVARO
1月29日(日) BEAT STATION
宮城 2月3日(金) Rensa
北海道 2月5日(日) SPiCE
愛知 2月9日(木)名古屋Electric Lady Land
大阪 2月10日(金)梅田クラブクアトロ

『DYGL US TOUR in March』
3月15日 Wed  SXSW in Austin, TX
3月16日 Thu  SXSW in Austin, TX
3月17日 Fri  SXSW in Austin, TX
3月18日 Sat  SXSW in Austin, TX
3月21日 Tue  The Coast in Fort Collins
3月22日 Wed  The DLC in Salt Lake City, UT
3月24日 Fri  Treefort Music Fest 2023 in Boise, ID
3月25日 Sat  Vera in Seattle, WA
3月27日 Mon  Polaris Hall in Portland, OR
3月29日 Wed  Cafe Du Nord in San Francisco, CA
3月30日 Thu  Wayfarer in Costa Mesa, CA
3月31日 Fri  Lodge Room in Los Angeles, CA

■関連リンク
DYGL公式サイト
https://dayglotheband.com/

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