アヴリル・ラヴィーン、鮮烈に印象づけた“ロックプリンセスの堂々たる帰還” 8年ぶり来日公演を徹底レポート
さらに「Flames」では、楽曲で共演し、現在のアヴリルの婚約相手でもあるモッド・サンがまさかのサプライズ登場。マシン・ガン・ケリーと同様にヒップホップからポップパンクへの転身による成功で注目を集めている彼だが、突然の初来日公演が実現してしまった。どこか寄り添うように儚く歌い上げるアヴリルと、声を張り上げて大きく動きながらエモーショナルに歌声を叩きつけていくモッド・サンの対照的な佇まいが美しく、演奏の最後には二人がハグをするという微笑ましい光景も見られた。
モッド・サンがもたらしたポジティブなエネルギーは、これまでダークな雰囲気を作り上げていた流れにも変化を与える。そう、ポップで力強いアヴリルの登場だ。「Love It When You Hate Me」(2022年)、「Here’s to Never Growing Up」(2013年)、「Hello Kitty」(2013年)のバンド演奏の流れから披露された「Girlfriend」(2007年)、「Bois Lie」(2022年)と、こちらも自由に時代を行き来しながら、快活で自信に満ち溢れたパフォーマンスが披露されていく。前半の流れから生まれる高揚感も相まって、観客もアヴリルも全力でパーティーを楽しんでいた。
筆者個人として特に感慨深かったのは、アヴリルの楽曲の中でも特にアンセム性の高い「Here’s to Never Growing Up」だ。いつまで経っても成熟した大人になることができない人々に祝福のメッセージを贈る同楽曲は、当時27歳だった彼女自身の感情を投影したものだったと言えるだろう。あれから約10年が経ち、今なおアヴリルは「成熟した大人になるべき」という世間のムードに正面から中指を立て、10代の頃に抱いた感情を大切にしながら、自分らしく可愛さと格好良さを追求し続けている。そんな今の彼女が「成長しない私たちに乾杯を」と高らかに歌い上げる姿は、まさにアヴリル自身と、彼女を支持し続けるファンの勝利を証明していたように感じられた。そんなポジティブなエネルギーが会場を満たしていく中、本編の最後に披露されたのは、満を持しての代表曲「Sk8er Boi」(2002年)。景気良く銀テープも放出され、爽やかな疾走感と共にこの日最大の熱狂が会場を埋め尽くす。無邪気に飛び跳ねながら、最後まで「キュートなポップロックアイコン」であり続けたアヴリルは、「みんな大好き。I love you Japan!」と観客に惜しみない愛を伝え、軽やかにステージを去っていった。
本編を終えて、スクリーンには「Head Above Water」(2019年)のミュージックビデオが投影され、やがてステージに戻ってきたアヴリルが同楽曲を歌い出す。前述のライム病との闘病の中で感じていた想いが込められた悲痛な歌詞が、原曲以上にエモーショナルな歌声と共に会場に響き渡る。神に祈りを捧げながら「私を溺れさせないで」と願うその姿は、本編における最高のポップパンクパーティーが決して当たり前のものではないこと、苦しい戦いの果てにようやく手に入れることができた、かけがえのないものであることを伝えていた。すっかりキュートでクールなポップパンクに夢中になっていたが、もしかしたら、二度とこの光景を見ることができなかったかもしれないのだ。
最後に披露されたのは、強い孤独や不安を感じている中で、目の前に現れた名も知れない相手に手を伸ばそうとする姿を描いた「I’m With You」(2002年)。リリース当時は、アヴリル自身が名も知らぬ相手に「手を差し伸べられる」という光景を想起させた同楽曲だが、あれから20年を経た今、その印象がまるで変わったことに気づく。そっと寄り添うように“私はあなたのことを知らないけれど、あなたのそばにいる”と歌うアヴリルは、明らかに「手を差し伸べる」側にいた。それは、何よりもアヴリル自身が戦い続けてきたからこそ実現することができた変化であり、20年という年月と、彼女の音楽の持つ普遍性を強く実感する、あまりにも感動的な光景だった。
ダークな側面とポップな側面をそれぞれじっくりと見せつつ、新旧の楽曲を巧みに織り交ぜながら、これまでに自身が生み出してきた楽曲にさらに普遍性を与えてみせる。それは、様々な紆余曲折を経て20周年という節目に辿り着いたアヴリルが、改めてこれまでに築いてきたキャリアと真摯に向き合ってきた結果なのだろう。最新の楽曲で見せ場を作りつつ、過去の楽曲を単なるファンサービスではない文脈で提示する今回のセットリストと、それを見事に成立させながら、観客に愛と感謝を伝え続けるアヴリルのパフォーマンスは、「何故、アヴリル・ラヴィーンは20年間戦い続けることができたのか」という問いに対する答えを明確に示していた。「世界最強のロックプリンセス」、堂々の帰還である。
※1:https://www.bbc.co.uk/sounds/play/p0cfdl1t
※2:https://www.billboard.com/music/pop/taylor-swift-flowers-note-avril-lavigne-1235038819/
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