伊東歌詞太郎×芦名みのる、『夜猫』を通じて考える“ペットと人間の関係性” 亡き愛猫への想いを昇華した「ひなたの国」制作秘話

 漫画家・キュルZによるコミック『夜は猫といっしょ』(略称:「夜猫」)。猫のキュルガ、飼い主のフータくんの日常を描いた本作は今夏よりアニメ化され、猫好きの間で話題を集めている。

アニメ『夜は猫といっしょ』主題歌映像(ノンクレジット)

 リアルサウンドでは、“獣医師にしてアニメーション監督”という異色のキャリアを持つ芦名みのる監督、主題歌「ひなたの国」を手がけた伊東歌詞太郎の対談を企画。猫の生態や動きをリアルに描いた「夜は猫といっしょ」、愛猫家・伊東歌詞太郎の実体験を反映した「ひなたの国」の制作、さらにペットと人間の関係などについて語り合ってもらった。(森朋之)【最終ページに読者プレゼントあり】

亡くなった愛猫“みみちゃん”を思って制作した「ひなたの国」

芦名みのる(以下、芦名):アニメ『夜は猫といっしょ』は、猫好きの田中翔プロデューサー(KADOKAWA在籍)が「猫好きオールスターによるアニメを作りましょう」というところから始まりました。猫が登場するアニメはこれまでもいっぱいあるけど、ネタをもたせるために、猫が喋るような作品も多い。それはそれで面白いけど、獣医師の立場からすると「ホンマにそんなこと言ってる?」と思うところもあって。

伊東歌詞太郎(以下、伊東):(笑)。確かにそうですよね。

芦名:「夜は猫といっしょ」はそうではなくて、キュルガは本物の猫として描かれているんですよ。当然、人間の言葉はまったく喋らないし、動きも地味なんだけど、キュルZさんはそれを見事に漫画にしていて。原作を読んでもらえばわかると思いますが、まず、観察力がすごいんですよ。

伊東:メチャクチャ猫のことを見てますよね。

芦名:そう。実際、アニメにするなら、犬のほうが描きやすいんです。犬は感情がわかりやすいし、喜ぶと尻尾をブンブン振る。動きがカートゥーン的なんです。猫の動きはそうじゃないから難しい。ただ、原作では猫の動き方や生態はきちんと描かれていて。「めちゃくちゃこの漫画好きだけど、アニメでの表現はどうしよう」と悩みましたね。主題歌に関しては、伊東さんが担当してくれることになった経緯はじつは知らなくて。

伊東:あ、そうなんですね。

芦名:うん(笑)。ただ、伊東さんとは以前から作品でご一緒していて。僕が監督・脚本を担当した『劇場版 異世界かるてっと 〜あなざーわーるど〜』の主題歌(鈴木このみ featuring 伊東歌詞太郎「メロディックロードムービー」)を歌ってもらっていたので、不安はなかったです。あのときはプロデューサーに「映画の曲は、疾走感高めでキーを高い曲にしてほしい」とお願いしたんですけど、出来上がった曲を聴いて、「高すぎやねん!」って。僕はカラオケでアニソンを歌うのが好きなんやけど、あの曲はキーが高すぎて歌えない(笑)。

伊東:オクターブ下でもいいと思いますよ(笑)。

芦名:本当にいい歌なんで、皆さんにも聞いてもらいたいですね。キー下げないと歌えないけど(笑)。そういう経緯もあったので今回の『夜猫』の主題歌も楽しみにしてたんですけど、先に曲名(「ひなたの国」)が送られてきて、「いやいや、“夜”やぞ!?」と思って(笑)。

伊東:(笑)。僕もずっと猫を飼っているんですけど、夜は一緒に寝るんですよ。それで腕のところに猫が来ると、太陽の匂いがするんですよね。「ああ、今日も日向ぼっこしてたんだな」と。

芦名:その話を聞いてやっと納得しました(笑)。

伊東:よかった。「ひなたの国」は、僕が飼っていた“みみちゃん”に向けて書いた曲でもあり、みみちゃんがくれたような曲でもあって。ちょうどこのお話をいただいた時期に亡くなってしまったんですけど、飼い主冥利に尽きると言いますか、手の中で看取ることができたんです。その1〜2時間後くらいに、サビのメロディが思い浮かんで。ミュージシャンとしては正しいんだけど、人として、愛した飼い猫が亡くなって時間が経たないうちに曲を作るのはどうなんだろう? という葛藤もありましたが、結局形にしたんですよね。

芦名:いいと思うよ。一緒に過ごした日々だったり、亡くなったときの喪失感、ありがとうという気持ちもそうだけど、すべてが作品になっていくので。病院でも、ペットを亡くした飼い主さんに「これでよかったんですかね?」って聞かれるんですよ。それはもう気の持ちようだし、よかったかどうかは証明できないじゃないですか。でも、伊東さんのみみちゃんに対する思いが楽曲として昇華されたことは、本当にいいことだと思います。

猫を飼い始めてから看取るまでのすべてが描かれている歌(芦名)

伊東:ありがとうございます。飼っている動物に対してもそうだし、おそらく人生全部がそうだと思うんですけど、いちばん忌むべきものは“後悔”じゃないかなと。

芦名:後悔はときに呪いになってしまうからね。反省はいいんだけど、悔いが後悔につながると、なかなか先に進めなくなるんですよ。その経験を活かして、次に行けるのがいちばんいいんだけど。僕も猫を飼っていて、慢性腎臓病で、もう長くはもたない。獣医師でさえ、「もう少し早めに処置しておけば」と思ってしまうことがあるけど、この経験で得たものを次に活かさないとと思うんです。「ひなたの国」は、猫を飼い始めてから看取るまでのすべてが描かれている歌ですよね。〈君が隣で眠るから 愛してる もう大丈夫だよ〉という歌詞が最高によかったです。このアニメは柔らかい気持ちで観終わってほしいし、エンディングはフータくんがキュルガと眠る絵で終わりたいと決めてたので。

伊東:一緒に眠る静かなシーンにしたいという話は、プロデューサーの方からも聞いていて。みみちゃんを看取ったことと、フータくんとキュルガが眠るシーンは僕のなかで乖離はないんです。あと、曲のアレンジに関しても“距離感”を意識していて。僕が猫を飼い始めたときは、ワンルームに“1人と2匹”という状況で。そのときの近さを音でも表現したかったんですよね。メロディ、歌詞、ボーカル、ドラムの音色までいろいろな要素があるんだけど、視聴者の方のコメントを見ると「歌い方がやさしい」という感想がけっこうあって、「ちゃんと伝わってるんだな」と。

芦名:病院に来られる方も、「いい歌ですね」と言ってますよ。

伊東:ホントですか?

芦名:病院では僕がアニメを作っていることは言わないようにしてるんですけど、『夜猫』のポスターを貼ってるんですよ(笑)。なので飼い主さんが帰り際に「先生、観てますよ。歌もいいですね」と言われるんです。

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