原 由子、鎌倉での思い出やおすすめスポットを熱弁 “サザンオールスターズの奥深い歴史”が感じられるエピソードも
最後に紹介されたのが、鎌倉のシンボル・鶴岡八幡宮の大銀杏にまつわるエピソードであった。3代将軍・源実朝を暗殺した公暁がこの木に隠れていたとされることから“隠れ銀杏”とも呼ばれるこの大きな銀杏は、2010年3月に強風によって倒れてしまう。そして、同じ年の夏に、桑田も大きな病によって倒れてしまった過去がある。桑田と原は、病という大きな困難に共に向き合う中で、倒れた大銀杏から新芽が出始めたという報せに励まされ、その生命力の強さに大きなエネルギーをもらったという。桑田が復活してから何年も経った今もなお、彼は枕元に大銀杏の枝のお守りを置き続けているというエピソードも明かされ、この木が2人にとっていかに重要な存在であるかが伝わってきた。
そしてこの話の流れで、“この銀杏が歌詞に出てくる楽曲をまた作っちゃいました”というパネルと共に紹介されたのが、今回リリースされたソロアルバムに収録された新曲「鎌倉 On The Beach」(作詞:原&桑田、作曲:原)だ。2人が胸の内に抱く鎌倉への情景が滲む瑞々しいポップナンバーで、何年経っても変わることのない原のイノセントな歌声に強く惹き込まれる。一方、歌詞に耳を傾けると、〈モノクロームの海辺〉〈幽玄の風〉といったワードが随所に織り込まれていて、遠く過ぎ去ってしまった〈夏の日の物語〉を巡る切ない情感が伝わってくる。そうしたテーマとポップな曲調との対比が鮮やかで、また、番組で紹介されたエピソードを踏まえて聴くと、2番Aメロの〈鶴岡八幡宮(じんじゃ)の向こうに 白い雲が沸き立ち/銀杏が天に蒼き 枝を伸ばしてる〉という描写に、鎌倉への深い思い入れが込められていることが分かる。
今回の番組は、サザンや桑田、そして原の楽曲に込められた想いにより深く迫る上での、多くの手掛かりを与えてくれた。彼女たちの鎌倉への想いの大きさに触れて、改めて、今回紹介された鎌倉ナンバーを聴き返したくなったサザンのファンは多いはず。また、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も大きな注目を集めている今だからこそ、サザンのファンに限らず、鎌倉という切り口からサザンや桑田、原の楽曲を聴いてみたいと思った人も少なくないと思う。何より、原の最新ナンバー「鎌倉 On The Beach」が地上波の番組を通して披露された意義はとても深い。サザンオールスターズの一員として、そしてソロアーティストとして現役で活動し続ける原が、今改めて、フレッシュな瑞々しさを誇る楽曲を歌う姿に、多くの人が励まされただろう。ソロアルバム『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』には、同曲を筆頭に、原が長い年月をかけて作り上げてきた多彩な楽曲が収録されている。44年のキャリアにして、全てが新曲である。今作は原のソロアーティストとしての一つの集大成であり、同時に、これからも現役のミュージシャンとして走り続けていくという気概を感じさせてくれるような作品だ。いつまでも最前線を走り続ける彼女たちの姿を、これからも追いかけ続けたい。