新たな場の誕生、大型フェス復活、VR……ageHaやVISIONの閉店を機に、変化し続けるクラブシーンの今を考察

新たなクラブ、シーンの健全化に向けた動き、大型フェスティバルの復活

 VISIONやageHaの新たな活動以外にも、都内のクラブシーンでは日々様々な動きが相次いでいる。今年に入り、渋谷では前述のBAIA Shibuyaや近年のダンスミュージックにおける最大のトレンドと言えるハウスミュージックを軸とした『BRAND SHIBUYA』といったクラブがオープンし、新たな現場として注目を集めている。もちろん、以前より愛されてきたクラブでも連日様々なパーティーが開催され、シーンを盛り上げ続けているが、個人的に取り上げたいのは、clubasiaにおけるLINEアカウントを活用した「ボタンを押すとすぐにスタッフが駆けつける」というヘルプシステムの導入だ。クラブシーン自体をさらに良いものにしていく素晴らしい取り組みであり、今後は他のクラブでも導入されていくことを期待したい。

 また、ダンスミュージックの大型フェスティバルも、パンデミックを経て続々と復活を果たしている。かつて六本木「ヴェルファーレ」から始まった『Body&SOUL Live in Japan』が入国ビザの関係で開催延期となってしまったのは残念だが、先日は『ULTRA JAPAN』が3年ぶりに開催され、来年には『EDC Japan』や『electrox』の後継イベントと言える『GMO SONIC 2023』が誕生する。このような大型フェスティバルでは海外の著名DJが話題になりがちだが、国内のクラブシーンで活躍する日本人DJが数万人規模の巨大なステージに立つ機会でもあるため、積極的に盛り上げていきたいところだ。数万人規模と言えば、今年5月に開催された大型ヒップホップフェスティバル『POP YOURS』は、普段は渋谷の「HARLEM」などで見るアーティストが大規模な会場でパフォーマンスを披露するという画期的な試みでもあり、来年の開催にも期待したい。

VRクラブがもたらすオリジナルな体験

 パンデミックでリアルな現場が失われたことによって起きた変化もある。その象徴的な例は、VRクラブだろう。2021年に開催された<TREKKIE TRAX>の9周年記念パーティー『TREKKIE TRAX 9th Anniversary VRChat WORLD TOUR』はソーシャルVRプラットフォームのVRChat上で開催され、clubasiaを含む3カ国のクラブを再現したバーチャル空間の中で、アバターとなったDJと観客が集まって楽しむ画期的なイベントとなった。

TREKKIE TRAX 9th Anniversary : VRChat World Tour (Official After Movie)

 実際に体験した身として言えるVRクラブのポイントは、それ自体が単なる現実の代替ということではなく、全くのオリジナルな体験であるということだ。そもそも2010年代後半から文化自体は根づいていた背景もあるが、パンデミックを経た今でも変わらず注目を集めており、9月末には世界的なダンスミュージックメディアである『Resident Advisor』がVRクラブシーンの特集を公開。その中では国内VRクラブシーンを代表する存在であり、既に様々なクリエイターに絶大な影響を与えている『GHOSTCLUB』も取り上げられている。これもまた、“クラブシーンの今”なのだ。

 パンデミックを経て、ageHaやVISIONという場所がなくなった今でも、それらが与えた影響は消えることなく、今のクラブシーンに受け継がれている。都内/地方、国内/海外はおろかリアル/バーチャルの垣根すらも超えてクラブシーンは止まることなく変化を続けており、毎日のように新しい何かが生まれている。もしこれを読んで少しでも興味を抱いてくれたのであれば、まずは今週末、どこかの“現場”に足を運んでみてほしい。

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