ano×尾崎世界観のタッグで広がる救いの連鎖 “普通”に悩む人にこそ聴いてほしい「普変」が放つ特別な輝き

 anoがメジャー2ndシングル「普変」を配信リリースした。イントロから鳴っている耳に残るギターリフはクリープハイプの小川幸慈によるもので、作詞作曲はクリープハイプの尾崎世界観。anoはかねてから尾崎を敬愛しており、ラジオ番組での共演をきっかけに楽曲提供を依頼したのだという。“普遍”と同じ読みで“普変”と書くタイトルからして、同音異義語を巧みに扱い、時にはその作品の核となる独自の単語・概念をも生み出してみせる尾崎の作家性、ソングライターとしてのすごさが表れている。

 anoは今年4月にクリープハイプの歌詞を朗読する動画企画「読むクリープハイプ」に出演。ほんのわずかな心の軋みも逃すことなく、そのまま言葉として発していくanoの朗読を聴けば、anoと尾崎が共鳴し合っていること、2人が抱えているものに何か共通の部分があることが伝わってくるだろう。インタビュー(※1)では朗読した曲「二十九、三十」について「背中を押してくれるとか応援してくれるというよりかは、暗いところで一緒に落ち込んでくれる」「それでもそこにいるだけで何か意味があるんだよって言ってくれているような気がして」と語り、そういった曲の在り方がアーティスト活動をしている時の自分の気持ちとも近いと明かしていた。

あの - 二十九、三十 / 読むクリープハイプ

 本人曰く、「めっちゃ一途だけど気分屋」なano(※2)。ソロアーティストとして活動を始めてからの約2年間で発表した曲は大きく2つに分類できる。ano自身が歌詞を書いた曲とそうではない曲。自分と社会の間に生じるズレ、彼女が普段から抱えているという“生きたいと思っているがゆえの生きづらさ”について歌っている前者には、anoの“一途”な部分が表れていると言えるだろう。一方、後者は現状すりぃ、柊キライといったボカロPからの提供曲が中心で、彼らは“anoの個性的な歌声をどう魅力的に聴かせようか”という観点からアプローチしている印象。そしてanoは「こういうのも似合うんじゃない?」といった周囲からの提案を“気分屋”として楽しんでいる。自分という人間の核を掘り下げた先にある切実な表現と、アーティストとしての振れ幅を拡張させる新しい表現。“深さ”と“広さ”の両輪で私たちを魅了しているのがソロアーティスト・anoの現在だ。

ano『デリート』MUSIC VIDEO
ano「F Wonderful World」MUSIC VIDEO
ano「アパシー」MUSIC VIDEO
ano「絶対小悪魔コーデ」MUSIC VIDEO

 先の分類で言うと、「普変」はano自身が歌詞を書いていない曲にあたる。しかし〈あたしは普通じゃないからとか いかにも健全(ありきたり)な感性/そんなのどこにでもあるから大丈夫〉と始まるこの曲は、日常生活で他の人が平然とやっていることが自分にはできないのだと語るanoの姿とぴったりと重なる。他人を指差してばかりで自分を深く省みない人に対する〈それで大丈夫?〉という指摘も、巷に溢れる多様性礼賛のフレーズに対する〈神かよ〉という皮肉も、朝井リョウ『正欲』にも通ずる〈誰かが言う変なんて せいぜいたかが普通の変だ〉も尾崎の書いた言葉だが、anoの言葉として受け取ることができる。そういう意味で、今までのどの曲とも違う立ち位置の曲だ。

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