w.o.d. サイトウタクヤが掴んだ、“本当に歌いたいこと”への確信 曲作りやレコーディングの進化で広がったバンドの可能性

 9月21日にリリースされたw.o.d.の4thアルバム『感情』が会心の出来だ。グランジ/ストーナー、シューゲイザー、マッドチェスターなど、90’sオルタナティブロックの要素を独自の感性で織り交ぜてかき鳴らす持ち味は変わらず発揮されているが、とにかく今回はメロディやサウンド(録音&演奏)、歌詞が素晴らしい。前作『LIFE IS TOO LONG』で確立したw.o.d.らしさと、展開やフレーズに散りばめられた飛躍の可能性を研ぎ澄ませた結果、楽曲そのもののスケールが一段と高まったと言えるだろう。「バニラ・スカイ」「白昼夢」「Sunflower」「オレンジ」などはその最たる例だ。

 そして、それは彼らが単に無邪気に爆音を鳴らすバンドではなく、生きる上で抱くさまざまな感情ーー絶望も希望も、苦悩も歓喜も、喪失も存在も正直に受け止め、ありのまま音楽にしていくために、ロックの根幹と共振していることを意味する。従来のオルタナティブロックにはなかったグルーヴとギターリフの融合、失ったものや大切な人を想いながら“今ここにいること”を歌い上げた歌詞も相まって、これから何度も聴き返したくなるだろう、かけがえのない作品に仕上がった。そんな『感情』の制作過程について、サイトウタクヤ(Vo/Gt)にじっくり話を聞いた。(編集部)

w.o.d. - バニラ・スカイ [OFFICIAL MUSIC VIDEO]

新たなレコーディングスタジオで出会った“求めていた音”

ーー『感情』、素晴らしいアルバムだと思いました。演奏の重心がグッと低くなって、その上で歌い込んでいく力が強くなった作品ですよね。前作『LIFE IS TOO LONG』は静から動への展開や、ビート感の新しさなどが特徴でしたけど、今回はとにかくメロディ、グルーヴ、歌の良さで引っ張っていく作品になっていて、曲本来の良さの引き上げを意識したように感じたのですが、いかがですか。

サイトウタクヤ(以下、サイトウ):言ってくれたままですね。前作まではトシさん(吉岡俊一)がエンジニア兼プロデューサーでしたけど、今回はメンバー3人と、ずっと一緒にやっているディレクターの外村さん(外村壮太)でデモ作りからアレンジまでやっているので、プロデューサーを入れてないんですよ。それぞれが「ホンマにこのコード進行でいいんかな?」とか話し合いながら、自分たちで試行錯誤してアレンジまでやれたことで、曲自体がちゃんと良くなったと思います。

ーーセルフプロデュースでの制作スタイルの変化は大きいですよね。

サイトウ:そうするにあたって、今回新しくレコーディングスタジオやエンジニアを探したんですけど、ずっと3人の一発録りでやってきたバンドなので、ライブに近い感覚で録れないと、最終的な曲の完成度に影響してくることがだんだんわかってきて。特にw.o.d.の曲ってベースの音がかなりデカいじゃないですか。探していく中でいろんなエンジニアと一緒にやらせてもらったんですけど、「録り音のベースを上げてください」と伝えても、なぜかうまく音が上がらないことが多かったし、エンジニアごとにその塩梅もこんなに違うんやっていうことを実感して。後からモニタールームで聴く音よりも、とにかく録り音の時点で、ライブで演奏してる時のサウンドにどれだけ近づけるかを重視しながらもう一度調べてみて、吉祥寺のGOK SOUNDを見つけました。アナログレコーディングのスタジオなんですけど。

ーー目に止まったきっかけは何だったんでしょう?

サイトウ:Discogsで検索すると、エンジニアがどんな楽曲を担当したのかまで一覧で調べられるんですけど、GOK SOUNDの近藤(祥昭)さんが手がけてきたアーティストがすごく面白くて。灰野敬二さんから初期のゆらゆら帝国、最近だと踊ってばかりの国とか。しかも俺らが今回のアルバムを録ったテープは昔、外道がレコーディングに使ってたやつらしくて!

ーーそれは相当すごい話ですね。隔世遺伝的にw.o.d.まで届いたような。

サイトウ:ヤバいでしょ。アルバムに外道の遺伝子も入ったんちゃうかなって(笑)。他にも謎の機材がいっぱい置いてあったり、ホンマにここでレコーディングするんかっていうくらい乱雑な部屋やったんですけど、いつも通りドラム、ベースアンプ、ギターアンプを置いて、マイク立ててレコーディングしたら、録り音だけでめちゃくちゃいい音になって。俺らが求めていた音やったし、「これで行くしかない!」と決めて、ほぼリリース順通りに全曲GOK SOUNDで録りました。そんな感じでサウンドはかなり満足したんですけど、アナログすぎてあらゆる処理に時間がかかりすぎたっていう難点もありました(笑)。アナログレコーディングとはいえ、本来ならテープもパソコンで制御できるらしいんですけど、近藤さんが「パソコン壊れたからしばらく使ってない」とか言ってて。

ーー(笑)。アルバムの全体像は、サウンドの延長上で見えてきたんですか?

サイトウ:そうですね。「アルバムタイトルはなんとなく漢字2文字やな」と作ってる途中から思ってたんですけど、そういうフワッとしたイメージを、1曲ずつ仕上げて固めていく感覚なんですよ。『感情』っていうタイトルが決まってからはグッと全体像が見えてきたんですけど、“衝動”っていうタイトルもいいんじゃないかと思って悩んでいて。

サイトウタクヤ

ーーその衝動と感情の違い、タクヤさんは最終的にどう捉えましたか?

サイトウ:衝動は生々しくて、深いけれど視野は狭まるイメージなんですよね。でも、それだとw.o.d.らしさを考えた時にポップさが足りへんというか。Nirvanaもそうですけど、ちゃんと大衆性があるバンドが好きだし、“衝動”だけで今回の10曲を言い表すのは難しいなと思って。『感情』はもうちょっとフワッとしていて、聴く人によっていろんなイメージを持ってもらえるやろうなっていう気がしたんです。

「歌いたいことのために曲調が広がっていった」

ーーそれは解釈の余地を与えたり、衝動だけじゃないこともw.o.d.で鳴らしていくということですよね。どうして今回そう思えたんだと思います?

サイトウ:……遡ってみると、1stアルバム(『webbing off duckling』)を出した時って「自分たちがアルバム出せるんや」っていう憧れの実現が大きかったし、2ndアルバム(『1994』)も「ライブでもっとこういう曲やりたいな」って思いながら作ったから、1st〜2ndって自分たちのアイデンティティを模索する期間になってたと思うんですね。特に2ndを作ってた時期は、あまりロックバンドだと言われたくなくて。確かに鳴らしている音のジャンルはロックだけど、自分としては音楽が大好きで、ただ“音楽をやっている”っていう感覚やったんです。(周囲からは)グランジだねって言われていたし、バンドを押し出すためにそういうラベリングが必要なのもわかるんですけど、まだ自分でアイデンティティが定まっていない時期に、そう言われるのは少し抵抗があって。でも、3rdアルバム(『LIFE IS TOO LONG』)に入っている「楽園」ができた時、「w.o.d.ってこういうバンドなんやな」っていうのがなんとなく見えてきたんです。

w.o.d. - 楽園 [OFFICIAL MUSIC VIDEO]

ーー具体的に言葉にするとどういうものですか?

サイトウ:いろんな人の影響を受けているけど、音像や言葉の面で「楽園」は自分らにしかできない音楽やなって感じたんですよね。みんなクセの強いプレーヤーなので、(中島)元良くんのいなたいドラムと、Ken(Mackay)のベースピッキング、そして俺のリフが生み出す3ピースのグルーヴで、一発録りのライブ感が強いこと。あとは、ようやく自分の声に自信を持てるようになってきたので、変にカッコつけすぎず、心の叫びをちゃんと歌詞にすること。BUMP OF CHICKENにも感じるんですけど、歌詞がすごく正直で、1つの物事に対して良い面も悪い面もどっちも歌うというか。そういうルールが自分の中に無意識にあったんやなって気づいて。

ーー強靭でグルーヴィな演奏、爆発力の強いサビ、〈音のない絶望〉と〈鳴り響いた あのファンファーレ〉を同時に歌った歌詞も含め、確かにそれらが1つにまとまった曲だったのかもしれないですね。

サイトウ:そうやって「楽園」を作っていろんなことに納得できたから、以降は「モーニング・グローリー」でサンプリングっぽい音像にしたり、「sodalite」でギターにディレイをかけたりとか、『LIFE IS TOO LONG』全体でいろいろ試せるようになったんです。

中島元良、Ken Mackay

ーーw.o.d.らしさを確立したことで、逆に今までやっていなかったこともw.o.d.らしさになり得るんじゃないかと思えたわけですよね。その発想をソングライティングの時点から組み込むことで、『感情』という解釈の広いタイトルと音楽性を受け入れられたのが今作、という流れでしょうか。

サイトウ:そうですね。もともと自分はいろんな音楽を聴くし、ロックだけが自分の人間性じゃないよなと思っていて。小学生の頃からRIP SLYMEとかAqua Timezもずっと好きやし、最近のヒップホップも聴くし、家ではエリオット・スミスとかニック・ドレイクをよく聴いてるんですけど、w.o.d.としてのアイデンティティが確立されていくとともに、そういう自分との乖離がどんどん深くなっていった気がして。特にシンガーソングライターとかラッパーは、身近なことや目の前で起きていることを歌詞にするじゃないですか。それに感動してきたからこそ、自分もちゃんと生活のこと、身近なことを歌えるようにしたいなって思うようになりました。歌いたいことのために曲調が広がっていった部分もあるかもしれないです。

 あと、よくよく紐解いてみたらめっちゃシンプルなことを歌ってる曲っていっぱいあるじゃないですか。いろんな考察をされる名曲だけど実は飼ってる犬のことを歌ってたみたいな(笑)。そういう曲に目を向けた時、捉え方は聴き手によって自由でいいけど、本人としては身近なことだからこそ、リアリティを持って歌えるんやろうなと思って。飾らない生きた言葉になるし、その気持ちを組み込んだ音像やアレンジになれば、聴いた時にも嘘っぽくならない。w.o.d.でも曲作りの方法論として、そういうことをやってみたらいいんじゃないかと思いました。

ーー今の話はきっと「オレンジ」ができ上がることに直結していますよね。音像的にはThe Stone Rosesみたいな甘酸っぱさがありますけど、グルーヴの抜けがいいから、いわゆるマッドチェスターとも違う仕上がりになっていて。それも曲調の広がりと言える気がします。

サイトウ:The Stone Rosesの1stアルバム(『The Stone Roses』)の感じですよね。Ashの『Free All Angels』を聴いて「こういうキュンキュンする感じ、いいな」と思ったところから、弾き語りで作っていきました。w.o.d.で演奏することを考えて、1回Oasisみたいに大陸的なアレンジにしていたんですけど、やっぱりThe 1975っぽいグルーヴを出したくなって試してみたら、こっちじゃないかなって。

w.o.d. - オレンジ [OFFICIAL MUSIC VIDEO]

ーーそこで歌われる歌詞ですけど、〈間違いや 裏切りで 世界が敵になっても/大丈夫 分かってるさ 君のこと/そばにいるから〉というパート、シンプルだけど素晴らしいなと思いました。ここまでストレートな歌詞はどうして出てきたんでしょうか?

サイトウ:「そばにいるよ」と相手に言っている曲でありながら、「俺のそばにいてくれ」と思っている曲でもあって。片方の気持ちだけ書くのは違和感があって、「そばにいるから大丈夫やで」って言える人も、「誰かそばにいてほしい」と思うことってあると思うので、どちらもちゃんと曲にしたかったんです。バンドをやっていると、話した言葉が意図とは全然違う受け取られ方で広がったり、簡単に誤解されるんやなと思うことがあって。それでも心が大丈夫であるためには、友達とか家族とか恋人とか、身近な存在がそばにいてくれることが大事やなと。RCサクセションの「君が僕を知っている」がめちゃくちゃいい曲やなと思ってるんですけど、そういう「お前がわかってくれているから大丈夫や」って思える幸せについて歌いたくて、自分なりの言葉にしました。

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