連載「lit!」第16回:Guiano、子牛、もちづき、まるらぴ、Zeeka……『無色透名祭』盛り上げたボカロの夏曲
「夏空へ、オーバー / 初音ミク」もちづき
『無色透名祭』への参加作品で8月29日に本人によるMVが投稿された本曲は、もちづきにとって1作目の投稿だという。サビ終わりの〈無色透明な夏に浮かんだまま〉という歌詞はデビューの場であった『無色透名祭』とかけているのだろうか。暑さを吹き飛ばすような高く伸びる初音ミクの歌声と固めなピアノの音色が軽やかで涼し気な様子を演出する。〈茹だるような炎天下〉〈乾いたアスファルト〉〈横切った蝉声〉とどこか不快だが懐かしさのある夏の感覚と、〈地球発快速の飛行列車〉という開放感のあるファンタジックな描写の対比も壮大。夏に投稿された夏曲だが、茹だるような暑さが懐かしく感じつつあるこの季節に聴きたい楽曲である。
「純愛の哲学」まるらぴ feat. 可不
こちらも『無色透名祭』参加作品で、まるらぴにとって1作目の投稿となる楽曲。序盤から語りパートが続くが、そのリズミカルな譜割りと裏で鳴るストリングス、続くイントロでのピアノがシームレスに繋がり、息をつく間もなく次々に展開していくような疾走感がある。語りのAメロからBメロ、そしてサビへ向かう楽曲の進み方がスムーズでありながらも、景色が変化するかのような劇的な印象もあり、そんなスリリングな構成が聴く者の心を掴む。歌詞は〈ごめんね 重過ぎる愛の 終わりはこうなんだ〉と決して明るくないが、楽器のエレガントな印象とスピード感のある展開によって歌詞の暗さが中和されており、ボカロ曲の流行のひとつでもある、ダークで病んだ楽曲の数々とは一線を画している。
「色が失くなる二分前」Zeeka feat. 星界
コロコロと変化するキーボードの音色が耳を引き、序盤から焦燥感に駆られる楽曲だが、タイトルを見るとそんなメロディ作りも意図的であることが理解できる。ビルドアップからのカウントダウンを助走にして〈走れ 走れ〉とサビに突入する勢いは、フューチャーベース的な要素を備えたトラックとともに、ダンスミュージックのコンパクトな構成を“2分間”というキーワードで刹那的にまとめた印象。スピーディーな曲調とつんのめるような歌詞がぴったりだ。
サビ前の〈無重力みたいな世界の終わりを背負ってさ 武器に〉といったSFを思わせる歌詞も聴く者を惹き込む魅力を備えている。楽曲自体も2分と短く、歌詞やサウンドの疾走感と聴き終えたあとの刹那的な後味がリンクし、何度も聴きたくなる中毒性がある。
ボーカロイド楽曲は作者のセンスあふれるサウンドメイクや歌詞、MVなど、様々なDIYが楽しめるジャンルだが、今回も様々なアイデアや遊び心が大胆に反映された楽曲が揃った。自由で刺激に満ち溢れているシーンに次はどんなルーキーが登場するのか、どんな柔軟なアイデアの楽曲が登場するのか、楽しみでならない。