花譜、『不可解参(狂)』で掲げた“MAD”の真意とは? 日本武道館で観測者に届けた狂おしいほどの愛

 8月24日、日本武道館にて花譜『不可解参(狂)』が開催された。花譜の記念すべき武道館初ライブ。特設サイトで 「8月24日、不可解(狂)!!!!なんてったって!!狂ですから!何が起こるのか、私たちは果たしてどうなってしまうのか」と花譜自身がコメントしていた通り、息つく暇もないほどの“(狂)騒の祭り”であり、狂おしいほどの愛の詰まった夜となった。

 今回のライブは、実は会場自体がかなりMADな挑戦だ。というのも、日本武道館はアリーナ、1階、2階席と段々の作りになっており、バーチャルアーティストのライブの性質上、高い位置から見られることは相性が悪い。実際に会場に足を運ぶと、座席の一部を潰して「正面」を作り、階段状のステージを組むことで立体感を出すものになっていた。

 そんな独特のステージの上に設置されたスクリーンでオープニングムービーが始まる。夜の東京の街のそこここにひっそりと佇む花譜の姿が映し出されたあと、ライブは「魔女」でスタート。ステージには、ギター、ベース、ドラム、シンセサイザー、ピアノ、ストリングス、DJとこれまでにないほど大規模なサポートバンドを背負う花譜。「ついにこの日がやってきました!みなさん一緒に楽しみましょう!」と叫ぶ花譜の声は、今までになく明るい。今日に向けた花譜自身の自信ややる気、はちきれんばかりの楽しさが詰まっているようだ。

 「畢生よ」、「夜が降り止む前に」とシームレスに歌い継ぎ、「ニヒル」、厚みのあるストリングスアレンジにより、より壮大になった「アンサー」。ハイテンポな曲では激しく、バラードではゆっくりとペンライトが振られ、観客が花譜の歌に呼応していることが視覚化される。これまでの花譜のライブではペンライトの使用が禁止だったため、この光景も初だ。

 そして、ボカロ曲の金字塔とも言えるカンザキイオリの代表曲「命に嫌われている」のカバー。生きることへの切実な想いを綴ったメッセージ性の強い曲だからこそ、曲のポテンシャルをどれほど発揮できるか歌い手の腕が試される曲だが、サビの絶叫で、花譜の持つ「訴えかける」声の力が炸裂していた。曲の途中では「武道館ー!」と嬉しそうに手を振ったのも印象的だ。

 その後のMCでも、興奮気味の口調で花譜は語った。

「『不可解参(狂)』ついに始まりました! いやー! 武道館盛り上がっていますか? さっきからペンライトが綺麗です。こっちからも顔が見えてます。この武道館という日本を代表するアーティストの方々が代々築き上げてきた大舞台に立っていることがまだ信じられないです。ただ夢の中にいるようですがこれは現実ですね? 夢のような現実を今日みなさんと迎えられたことが本当に嬉しいです。今日こうやって直接ありがとうって言えてよかったです!」

 やはりいつになくテンションが高い。武道館と言えばアーティストが一度は目指す場所だが、花譜にとっても例外ではなく、今日この場がいかに特別なものであったかが感じられた。

 レーザーポインターが飛び交い武道館の空間の広さを際立たせる「私論理」、「戸惑いテレパシー」とハイテンポに進む。次の曲「糸」ではイントロ時点から拍手が湧いた。花譜自身がセットリストに入れることを強く希望した(※1)というこの曲は、アーティスト花譜の初めてのオリジナルソングだ。曲が公開されたのが2018年12月。それから4年の月日が経とうとしている。

 真っ白な髪をした花譜の音楽的同位体・可不が登場。花譜は「AI可不ちゃんが駆けつけてくれました! こうして並ぶと私たちよく似てますね」と冗談を飛ばし、「化孵化」、「流線型形メーデー」とデュエットを披露。自分の声を元にしたAIとバーチャルな姿で共演するという光景は、現状、花譜のライブでないと目撃できないものではないだろうか。

 可不を皮切りにサプライズゲストが怒涛のように登場し、ライブは一気に加速していく。ステージ上に設置された箱の中にまず登場したのは、たなか。リアルのアーティスト&コンポーザーとコラボする『組曲』シリーズに提供した「飛翔するmeme」を一緒に歌う。続けて、同じく『組曲』で楽曲提供した大森靖子が「2人で歌いたくて来ました」と真っ白なピンクのドレスで現れた。ステージと全身を余すところなく使った迫真のパフォーマンスで、花譜と共に「イマジナリーフレンド」を歌う。「イマジナリーフレンド」は、空想上の友人を支えにしてきた主人公が、その「友達」との決別を描いた歌だ。それをバーチャルの花譜と実体の大森がデュエットしていると、現実で出会うはずのなかったイマジナリーフレンドが直接顔を合わせたかのような不思議な感慨が湧く。

 次いで、スクリーンに映し出されるのは、今年4月に開催された花譜の高校卒業記念公演『僕らため息ひとつで大人になれるんだ。』の映像だ。歌われるのは、卒業ライブの最後に歌った「裏表ガール」のゆったりとしたストリングスアレンジ。スクリーンの中では、卒業式を再現するように、光のような花びらが花譜に降り注ぐ。

 花譜の始まりの曲である「糸」、バーチャルな存在についての問いと足掻きを歌った「魔女」、新たな展開を見せた可不、リアルとコラボしていく『組曲』シリーズ、そして花譜自身の人生の節目を刻んだ卒業ライブ。花譜のこれまでの道のりが脳裏に浮かぶような選曲が続く。

 だが、『(狂)』に感傷に浸っている暇はない。一旦ステージからはけた花譜の「みんな一緒に踊ってくれませんか、間違ってもいいから」という声に合わせて、会場はDJタイムに突入。今回のサポートメンバーの中でも特に珍しいDJだが、楽曲のライブアレンジという面においてもスクラッチや効果音でスパイスを足し、このDJパートでも「マーシャル・マキシマイザー」、「フォニイ」、「シル・ヴ・プレジデント」など有名曲を繋ぎ合わせて目まぐるしく会場を掻きまわしていくなど、“お祭りムード”の本公演をより盛り上げる要素として一役買っていた。

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