ザ・クロマニヨンズのロックンロールはなぜ“最強”なのか 最新ライブ映像が捉えた、今日を生きることを全肯定するエネルギー

 ザ・クロマニヨンズのライブを観るというのは、即ち本能的なロックンロールを浴びることと同義であり、楽しくないはずがない。日常を生きていく中で感じる様々なモヤモヤを振り切り、衝動に満ちたその音に全ての感情を委ねる。一見すると究極の現実逃避がそこにあるように思える。

 だが、無邪気に楽しんでいる中で、様々な「言葉」がスッと頭の中へと入ってくる。轟音のロックサウンドの中でも、甲本の歌は決して埋もれることなく、小学生でも理解できるであろう平易な言葉と、童謡に匹敵するかのようにキャッチーなメロディと共に、こちらへと真っ直ぐに向かってくる。

〈生きてるからやるだけ 今 この場所で/ここにある〉(「ここにある」)

〈息をころす 心かくす/透明の影は行く/サイレンサー もう届かない 届かない〉(「爆音サイレンサー」)

 その時、ふと現実の自分の姿が頭の中をよぎる。それは何か新しいことをやろうとする姿だったり、あるいは何の変哲もない日々を過ごす姿だったり、失敗して反省する姿だったり、成功して喜びを感じる姿だったり、いずれにせよ今の自分自身の姿がそこにはある。そして、その中にある感情を、ポジティブであればさらにポジティブになるように、ネガティブであれば寄り添ったり、あるいは鼓舞するように、その言葉とメロディが刺激するのだ。不思議なのは、同じ言葉・メロディでも、そこから引き出される感情が異なる場合があるということ。「なんて都合が良いのか」と思ってしまうが、そこにはちゃんとした理由があると思っている。

 ザ・クロマニヨンズの音楽は、ロックンロールの持つ本能的な魅力をそのまま削り出したかのような、混じりっけのない、極めて純度の高いものだ。言い換えるならば、「生きる」という行為の持つエネルギーの具現化なのではないだろうか。できるだけ大きな音を鳴らし、できるだけ大きな声で歌う。そんな極端な性質を持つロックを純度高くやるためには、自分が生きる力、この生命そのものと向き合う必要がある。そして、そのためには、奇を衒うのではなく、今日という一日を生きようとした中で抱いた感情を、ただそのまま歌にする必要があるのだ。明確であれば明確に、抽象的であれば抽象的なままに。時には言葉にする必要すらなく、「イエー!」という叫びでもいい。

〈絶望の壁も 地獄の門も/どうでもいいぜ 千円くれ〉(「千円ボウズ」)

〈嵐の晩に 稲妻と 俺は泣くだろ/悪魔の夢をみる 天使のベッドで〉(「ごくつぶし」)

 そうしてできた歌は、元々のシチュエーションは関係なく、そこにあるエネルギー自体が聴いた人へと伝わり、その人が持つ生命そのものを刺激する。だからこそ、それは「少なくとも生きている」私たちにとっての歌になるのだ。ニュースを見て感じた政治への怒りも、机の角に足をぶつけた時の辛さも、美味しい/美味しくないご飯を食べた時の感情も、その全ての根っこにある「生きる」という感情を切り取っているのだから。

 そして、そのエネルギーは、(ほぼ)毎年アルバムを出してツアーをするほどの精力的な活動を通して、常にアップデートされていく。過去を美化したノスタルジーに浸るような現実逃避ではなく、今日、この日を生き抜こうとするフレッシュな感情が、新たな楽曲へと繋がり、また新しいアルバムが生まれ、新たなツアーが始まり、たくさんの新曲がライブで披露される。だからこそ、ザ・クロマニヨンズは最強のロックバンドなのだ。

 また、この映像作品には、ライブの合間にやたらと『おそ松くん』の「シェー」のポーズを連発する甲本の姿や、物販のタオルを一見どうかと思うくらいに長く掲げるメンバーの姿、そんな彼らに拍手を送り、マスク着用&歓声禁止の状況でもその興奮を身体で示そうとするファンの姿など、その音楽を起点にバンド側も観客側もそれぞれが本能のままに動く姿も収められている。それはある意味では、2022年のある日に、ロックンロールに触れた人々の姿を収めたドキュメンタリーであると言えるのかもしれない。

 筆者も中学時代にザ・クロマニヨンズと出会ってから約16年が経ち、今では社会人。来月にはよく一緒にザ・クロマニヨンズを聴いた友人の結婚式でスピーチを務める予定だ。だが、それも「今日」の積み重ねの元に辿り着いた結果であり、中学生の頃は当時の自分なりに必死で生きていたし、社会人となった今も、結局、必死で生きている。筆者は「エイトビート」という曲が大好きなのだが、『ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL』のアンコールで披露された同楽曲のパフォーマンスを見た時に感じたのは、この曲を初めて聴いた高校生の頃の記憶を回想するような「懐かしい」というノスタルジックな感情ではなく、今の自分が感じている「畜生、何とか頑張らないと」というリアルな感情だった。きっと、今この曲を初めて聴いたとしても、同じ想いを抱いたのではないだろうか。そこにあるのは、未来も過去も関係ない、「今日」を生きるエネルギーだけなのだから。

〈ただ生きる 生きてやる/呼吸をとめてなるものか〉(「エイトビート」)

 そして、この圧巻のライブの最後で甲本ヒロトはこう叫ぶ。

「楽しかった。またやりたい! また絶対にやるぞ!! ロックンロール!!!」

■リリース情報
『ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL』
8月24日(水)発売
【初回生産限定盤】¥7,000(税込)
・DVD2枚組
・特製リストバンド&特製ツアーパス&『SIX KICKS ROCK&ROLL』のジャケット写真が6面にデザインされた特製サイコロ付
※デジパック仕様
【通常盤】¥5,500(税込)
・DVD2枚組

<収録曲>
DISC1 ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL
01.ドライブ GO!
02.光の魔人
03.千円ボウズ
04.大空がある
05.もぐらとボンゴ
06.ここにある
07.爆音サイレンサー
08.イエー! ロックンロール!!
09.冬のくわがた
10.ナイフの時代
11.ごくつぶし
12.縄文BABY
13.空き家
14.メタリックサマー
15.妖怪山エレキ
16.暴動チャイル(BO CHILE)
17.エルビス(仮)
18.生きる
19.紙飛行機
20.タリホー
21.エイトビート
22.ギリギリガガンガン
23.ナンバーワン野郎!

DISC2 ザ・クロマニヨンズ SIX KICKS ROCK&ROLL ~Music Video Collection~
01.ドライブ GO!
02.光の魔人
03.大空がある
04.もぐらとボンゴ
05.縄文BABY
06.ごくつぶし

ザ・クロマニヨンズ オフィシャルウェブサイト

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