Kitriの歌う物語に身を委ねた夜 “ふたり”だけで届けた『キトリの音楽会#5』

 手拍子が起こった「雨上がり」辺りから、徐々にクライマックスへと向かっていく。凛としたMonaの声が印象的な「小さな決心」から、Kitriの代表曲「矛盾律」へと繋がっていく。Monaが弾くドラマチックな鍵盤、ビートを鳴らしカスタネットを叩くHina、想像力を掻き立てるような歌はいつ聴いても心が弾む楽曲である。

 最新作『Bitter』の中でも一際実験的だった「左耳にメロディー」は、サンプリングされたパーカッシブな音が、他の曲にはない能動性を生み出している。身体が縦に揺れるような楽曲であり、ふたりが交互に発声するリーディング調のパートを含め、ライブの中でフックになるような1曲だ。一方静謐なイントロで始まり、途中からビートが入ってくる「実りの唄」は、Kitriの中でも一際美しいボーカルが聴ける楽曲である。先に演奏された「踊る踊る夜」、「悲しみの秒針」を含めて、改めて『Bitter』が Kitriの音楽性を広げた作品であったことを実感した。今回はふたり編成でのライブだが、どの曲もサポートメンバーによってアレンジが変わりそうなところも今後楽しみである。

 「羅針鳥」を連弾で演奏して本編を終えると、アンコールで再び登場したふたりは、新曲「透明な」を披露。劇伴と主題歌を担当しているという映画『凪の島』への楽曲で、「心とか言葉とか、目に見えないものを大事にしたい」という思いで書いた曲だという。ハモるのではなく、それぞれのパートを歌うように進んでいく歌が気持ち良く、清らかなボーカルとメロディに惹きつけられる。『Kitrist II』のリリース以降、ポップな作風の楽曲が増えてきている印象だが、「透明な」もそうした流れにある新曲という印象を受けた。

 最後に「ヒカレイノチ」を演奏し、ライブは終演。アンコールではKitriのポップサイドを堪能するような、晴れやかなエンディングである。「パワーアップしてこれからも東京でライブができるようにがんばります」という決意も頼もしく、これからの活動も期待したい。

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