KID FRESINO、Tohji、Dos Monos、Smerz……国内外アーティストが自然の中でパフォーマンス 『FFKT』をイラストでレポート

 小休止を挟み、次はアンディー・ストットのステージへ足を運ぶ。オリジナリティに富んだロービートがだんだんと大きくなる。個人的にはテクノに対して金太郎飴のような一辺倒な印象を抱くことも少なくないが、彼のプレイには表情を感じることができた。それは誰よりも彼自身の身体が気持ちよさそうにビートを刻んでいるからかもしれない。フロアを湧かせるという意志よりも、一人で夢中に楽しく踊っているところに人が自然と集まっていく感覚。その中動態の姿勢に多くの人が魅せられ、この日一番と思える動員を記録していた。

 アンディー・ストットを見終わったところでキャンプ地に近い会場「Steel」を離れ、目の前の森の中の坂道を25mほど登った「Cabaret」に向かう。高い木が鬱蒼と立ち並び暗いため、辺りが道標を兼ねたストリングライトで彩られている。そんな童話の中のような風景を背にしながら、空を見れば星が見えたり、息が白んだり、5月に服を着こんだりすることにいちいち気持ちが高まる。

 「Cabaret」ステージに着いて観たのはSmerz。初来日したデンマークの2人組ユニットで、トランス系のビートと二人の神聖なボーカルが乗ったサウンドが特徴的だ。北欧の伝統文化やクラシックが織り交ぜられた音像は、ホラー映画『ミッドサマー』の魅力を脳裏から引きずり出す。様々な文脈がある中で「北欧」でひとくくりにする行為は危険かもしれないが、やわらかい彼女らの揺れる美しい髪やうつむく視線をじっと見ていると、いつの間にか現世には戻れなくなるような禁忌性を感じるのだ。「Cabaret」ステージは両脇に焚火が鎮座しており、その情景も一役買っていたように思う。

 0時を過ぎて眠気がやって来る。横になって音楽を聴く、申し訳なさと贅沢さが共存する最高の時間だ。D.A.N.が終わったところで2時を回り、染み入る寒さと疲労がピークを迎えたためテントに戻った。テントのすぐ真横にステージがあるため、重低音が夢の中まで侵入していた。

 朝8時に目が覚める。青葉市子を観に行くためだ。会場の「ONGAKUdo」はその名の通り、半ドーム型のステージの前に半円状に段差が広がっている(日比谷野音を想像していただきたい)。周りは木に囲まれ、風にそよぐ葉や虫や鳥の鳴き声が響き渡っている。そんな中でしばらく待っていると、朝の陽ざしを浴びて薄紫色のワンピースを着た青葉市子が現れる。歌声とギターは音楽堂にこだまして、周囲の自然音はハーモニーとなって耳に届く。〈いくつもの迷いが 僕を大人にした〉〈いくつもの手のひらが 僕をみちびいてくれた〉(「水辺の妖精」)。イヤホンやヘッドホンではノイズキャンセリング機能がその精度を増しているが、一方でそれぞれの環境ごとに聴こえてくるアンビエントサウンドを曲の一部として楽しむ可能性も伸びているのかもしれない。そんなことを陽の光に包まれながらぼんやりと考える、温かいひとときだった。

 『FFKT』は国内外の多様なアーティストが自然の中で開放的にパフォーマンスできる至極のフェスの一つだ(ミッドナイトの暗闇が後押しして、出番のないアーティストが他のステージを楽しめるという意味でも)。きっと来年はあの夜の寒さを忘れているだろうが、それもまた私を高揚させるに違いない。 

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる