『メイドインアビス』や井手上漠とのコラボで注目 SNARE COVER、北海道から世界に向けて発信する理想の音楽

SNARE COVERが発信する理想の音楽

 シンガーソングライター斎藤 洸のソロプロジェクト、SNARE COVER。2017年に『エマージェンザ・ジャパン』(インディーズバンド・コンテスト)で優勝し、ドイツで開催された世界大会でベストボーカリスト賞を受賞。その後、アニメ『メイドインアビス』のサウンドプロデューサーであるケヴィン・ペンキンに見い出され、サウンドトラックにボーカルで参加。楽曲「Hanezeve Caradhina (ft.Takeshi Saito)」が世界のリスナーに支持されたことも話題を集めた。

 2019年にミニアルバム『Birth』をリリース。今年は「わすれね」(“あの子”とクリエイター、アーティストが共同で楽曲を制作し、配信するプロジェクト)に参加し、ジェンダーレスモデルの井手上漠の人生をテーマにした「私らしく、僕らしく。ー井手上漠のことー」を発表するなど、表現の幅を広げている。現在はニューアルバムの制作に取り掛かっているというSNARE COVER。これまでのキャリアと独創的な音楽観について語ってもらった(森朋之)。

Nirvanaやトム・ヨークからの影響

SNARE COVER(斎藤 洸)

ーー斎藤さんの音楽のルーツから聞きたいのですが、小さい頃から詩吟に親しんでいたそうですね。

斎藤 洸(以下、斎藤):祖母が詩吟の師範だったんですよ。母親も音楽が好きで、安全地帯とか、車の中でも常に音楽がかかっていて。いつも身近に音楽があったんですけど、自分で「やってみたい」と思ったのは、中学生のときですね。学祭で先輩がバンドをやっていたんですけど、部活動の顧問の先生がドラムを叩いてる姿を見て、「カッコいい! 自分もプレイしたい」と思ったのがきっかけでした。

ーーロックの入り口は?

斎藤:Nirvanaですね。友人の家でたまたま「Smells Like Teen Spirit」を聴いて、その瞬間に「何これ? すごい!」と衝撃を受けて。CDを借りて、ずっと聴いてましたね。メロディがすごくキレイだし、同時に歪んだところがあるというか、当時の自分が抱えていた“どこかに何かをぶつけたい”という気持ちを代弁してくれてる感じもあって。

ーーまずはメロディの良さに惹かれた?

斎藤:もちろん音楽は総合的なものですけど、メロディに納得できるかどうかが、その曲の良し悪しのキモになっている部分もありますからね。それは曲を作るときも一つの判断基準になってますね。

ーーそして2001年、高校3年のときにバンド“SNARE COVER”を結成。2008年に1stミニアルバム『シアン』をリリースします。初期の作品はグランジ、オルタナの影響もかなりありますね。

斎藤:そうですね。Nirvanaもそうだし、The Smashing Pumpkins、Red Hot Chili Peppersもそうですけど、90年代の自由な感じというか、「好きなことをやるだけ。それ以外は気にしない」という雰囲気が好きで。時代的にはメロコアが流行っていたんですよ。そういうバンドも好きでしたけど、“これは自分のものだ”と思えるのはグランジやオルタナだったので、影響は受けていたと思います。

ーー歌詞に関してはどうですか? 現実をリアルに歌うというより、どこか寓話的なイメージもあるのかなと。

斎藤:そもそも僕が音楽に惹かれるのは、曲を通して何を伝えたいかとか、何を言いたいかではなくて、音楽そのものの特別感、“理由はわからないけど、とにかくカッコいい”という感覚なんです。人間の力を離れたところで起きているすごいこと、というか。素晴らしいライブを観たときって、力が漲ったり、その後もしばらく浸れたりするじゃないですか。そういうものを求めているんですよね。

ーー人知を超えたパワーというか。

斎藤:そうですね。それは音楽をやり始めた頃から意識していて。なので歌詞も、実体験や自分の恋愛を歌うというより、ファンタジーというか、魔法的な要素が多いかもしれないです。

ーーサウンドメイクも作品を重ねるごとにスケールが大きくなって。曲を作ってる段階から、壮大な音像をイメージしていることも?

斎藤:ありましたね。以前はMTRでデモ音源を作ってたんですけど、ギターで変わった音を作ったり、逆再生の音を入れたりもしていて。ただ、バンドでそれをやろうと思ったら、簡単じゃなかったですね。

ーーなるほど。2016年からはソロプロジェクトとしてリスタート。EP『地球』からはバンドサウンドの枠を超え、トラックメイクと生楽器を軸にした音楽性に移行しました。

斎藤:いろいろな音楽からの影響もあると思います。ジェイムス・ブレイクやジャック・ガラット、あとはトム・ヨークのソロプロジェクトもそうですけど、一人でサウンドを作り上げるアーティストに興味が出てきて。たとえばキックの柔らかい音がずっと流れていて、その上でアコギと歌が鳴っているとか。理想とするサウンドが少しずつ変化して、それによって自分が作る曲も広がっていったんだと思います。

ーーメロディもエキゾチックな雰囲気が増し、ボーカルの発声もさらに独創的になって。本当にオリジナルですよね。

斎藤:確かに“この人みたいに歌いたい”というのはないですね。“このシンガーのこの部分を取り入れたい”みたいなものが細かくあるのと、“この歌い方は自分に合わない”と気付いたり、自分の得意な部分を伸ばそうという気持ちになったり……。最初はカート・コバーンのように歪んだ声の出し方が好きだったんですけど、自分に向いてないなと思って。その後は高いキーで突き抜けるような声にシフトしたり、いろいろなことを繰り返しながら、今のボーカルスタイルに辿り着いたという感じですね。根底にあるのは、気持ちよく聴いてもらえる歌を目指すということなんですが。

ーーメロディや発声には民族音楽的な雰囲気もあって。

斎藤:そうかもしれないです。賛美歌やゴスペルもそうですが、歴史のある歌い方には「私はこれでいきます」という揺るがないものがあって。自分もそれが欲しいんですよね。音楽性は時期によって変わっていくけど、「ここは変わらない」という確かなものというか。少しずつ「これは誰もやれないだろうな」という歌い方になってきていると思います。

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