君島大空、ポップしなないで、Nulbarichら手掛ける映像ディレクター 平牧和彦 MVで追求する実験的な表現
平牧和彦が影響を受けた“実験的な表現”に富んだMV
ーーこういったさまざまなアーティストのMVを手がける中で、今のトレンドについて、どういったことを感じていますか?
平牧:そうですね……僕はあまりそういったトレンドを意識したことがないのですが、傾向としてはアーティスト自身がMVもDIYすることは増えている印象です。海外アーティストでいうと、個人的にはルイス・コールの作品がすごく好きです。本当にDIYというのが伝わってきますし、編集の技術も高いです。
ーー今、日本の音楽シーンで伸びているリリックビデオについての印象はいかがでしょうか。
平牧:元を辿ると、2000年代にニコニコ動画等で歌詞を組み込んだ映像が流行っていた気がします。いつの時代も歌詞を訴求する映像は一定数存在するというか。とにかく、MVそのもののバリエーションが増え、選択肢も増えているのではないかという印象です。
ーーなるほど、MVの流行も、周期的に繰り返しているところがあるかもしれませんね。ちなみに、平牧さんが影響を受けた映像はどういった作品でしょうか?
平牧:アイデアと手法に富んでいて、実験的な表現を追求しているものが好きですね。
ーー“実験的な表現”というとどういった作品か気になりますか?
平牧:昔から橋本麦さんの映像が好きで、特にgroup_inou/imaiの 「Fly feat.79,中村佳穂」には衝撃を受けました。この映像は、コマ撮りという手法を使っているのですが、並行してカメラも動いているんです。僕はコマ撮りという手法が好きで自分でも取り入れている作品がありますが、橋本さんのMVは特にすごいと思っている作品の一つです。簡単に言うとカメラに位置センサーを付けてマッピングできるようにしていて、専用ツール上でカメラの動きをグラフで確認しながら人力で三脚を動かし撮影しています。すごく労力がかかる作業を橋本さんはたったひとりでやられているんです。しかも、この技術に対して、“お餅を動かす”というそもそものアイデアや作家性も素晴らしく、圧倒されます。橋本さんは、WebサイトでもMVに限らず、日本語と英語でメイキングを細かく書いているんです(※1)。そういった点も、非常にオープンソースの人で、スケールが大きいなと感じます。
ーー着想時点から制作プロセスが一つひとつ開示されていて、とても臨場感がありますね。ちなみに、最近SNSでMax Cooper(マックス・クーパー)のMVについて触れていましたが、彼のMVで映像技術的なすごさを感じる作品はありますか?
平牧:2019年に公開された「Circular」という作品です。この映像のすごさは、一言でいうとスケール感だと思います。こちらもコマ撮りの手法を用いていますが、同じコマ撮りでも橋本さんの作品とは違い、被写体を動かすのではなく、画面の中のある一点だけが連続してアニメーションになっているというもので、このMVのディレクターのPáraic McGloughlinが得意としている手法です。人間の目が勝手に映像のコマとコマの間を補間するというのは有名な話ですが、彼の作る映像はその人間の錯覚をギリギリまで信じることでできる作り方をしているなと思います。
ーー人間の視覚にそのような習性があったとは知りませんでした。
平牧:これは「仮現運動」と言われるもので、アニメーションの世界では時々目にする言葉ですね。「Circular」では白線の円だけではなく、人物や筆をいれてスケール感を表現しているのが面白いです。筆がモチーフになっていることで、「アナログで描いてるぞ!」という強い意志を感じられるところも個人的に好きです。
ーー最後に、平牧さんの直近の映像のお仕事について聞かせてください。
平牧:千葉市で開催された写真芸術展「CHIBA FOTO」のドキュメンタリームービーを手がけました。このドキュメンタリーには「記録映画」というテーマがあったので、すぐに音楽が必要だなと思い、君島大空さんにお願いしました。当初、ざっくりとしたテーマで依頼したところ、本当に素晴らしい楽曲が送られてきて。20分ほどある映像ですが、エンドロールに君島さんの音楽があることで、すごく締まるというか。改めて音楽の力の偉大さを感じますね。
※:https://baku89.com/making-of/fly