稲葉曇、『ウェザーステーション』を経て手にした自分らしさへの自信 全収録曲を語り尽くす

「きみに回帰線」は自分のすべてが詰まった楽曲

――新曲の「ポストシェルター」はどうでしょう? この曲は弦巻マキを使った楽曲で、ここでは「ハルノ寂寞」とは違ってAI版ではなくスタンダード版が使われています。

稲葉曇『ポストシェルター』Vo. 弦巻マキ

稲葉曇:この曲は歌わせるボーカロイドにめちゃくちゃ悩んだ曲でした。もともと大学生の卒業制作のEDで曲を使いたい、という方に向けてワンコーラスを書いた曲なんですが、その曲は人が歌うので、人が歌うことを意識して歌愛ユキで書いていきました。でも、その後フルをつくる段階で全編をユキに歌わせてみたら、どこかしっくりこなくて。ちょっと優しすぎると思ったんです。そこで弦巻マキのAI版に歌わせてみたら、「これも違うな」という話になって。最終的に弦巻マキのスタンダード版で仕上げたので、3回調声することになりました。

――結構段階を踏んで完成したんですね。

稲葉曇:弦巻マキのAI版よりももっとボカロっぽくて、なおかつ芯がある歌声を探したときに、v flowerでもミクでもないかなぁ……と思って。そのとき、「そういえば弦巻マキのスタンダード版ももらっていたな」と思い出しました。そもそもスタンダード版も触ったときに人に薦めたくなるぐらいよかったので使ったら、「これだ!」と。スタンダード版はAI版よりももっとボカロ的で、いくらリアルになるように頑張っても、どこかボカロ感が残ります。その魅力と曲の綺麗さがいいバランスになったな、と思います。この曲は自分の曲では珍しく、ピアノのリフが目立っていて、それを変化させずに繰り返すということをしています。そういうことも含めて、これまでやっていなかったような曲でもあるかな、と思います。

――アルバムのラスト曲「きみに回帰線」についても聞かせてください。

稲葉曇:「ハルノ寂寞」や「ハローマリーナ」「ポストシェルター」のような優しめの曲をたくさんつくっていた時期だったので、速い曲がつくりたいと思ってできた曲でした。あと、同じく新曲の「レーダー」とも全然違う曲にしたいと思っていて。そのうえで、音自体は違っても、曲の中心にある雰囲気は変わらなければいいな、と思っていました。この曲は、サビに〈ずるやすみ〉というフレーズが出てきますけど、最初は「ずるやすみソング」という仮タイトルで(笑)。「ずるやすみ」をするのは何かを遅らせることになるので、不安が募ったりしますよね。でも、自分の場合は、そうやって遠回りしたからこそ今に繋がっているとも感じますし、大人になってから取り返せた部分もあるな、と思っていて。そんなふうに、「遠回りしてもゴールは一緒」というテーマが浮かんで、そこからタイトルの元となる「南回帰線」「北回帰線」に行きつきました。きみに回帰線の「線」は、乗り物の〇〇線的なニュアンスなんですけど、アルバムのタイトルも『ウェザーステーション』なので、このテーマしかないぞ、と思ったんです。最初はそんなつもりではなかったのに、自分のすべてが詰まった楽曲になりました。

――この曲をアルバムの最後にした理由はありますか?

稲葉曇:アルバムの最後ってしっとりした曲で終わることも多いと思うんですけど、自分の場合は、それだと寂しくて嫌だったりするんです。むしろ「続いてほしいな」と思うので。そこで、最後にこういう曲を持ってきました。繰り返しずっと聴いてほしいので、最後に区切ってしまうのではなくて、割と元気な曲を入れてみたというか。前回の『アンチサイクロン』も似たような雰囲気でしたし、これからの作品も最後はそうなるのかな、と思ったりしています。

――アルバムのアートワーク、前作の『アンチサイクロン』との関連性を感じますね。

稲葉曇:そうですね。それは前作と切り離したくなかったからです。そもそも、今回のアルバムには『アンチサイクロン』と同じ時期につくった曲も入っていますし、作り方は違っても目指しているものは当時と変わっていません。そのうえで、今振り返ってみると、『アンチサイクロン』のアートワークは、タイトルの「外側に広がっていく高気圧」という言葉から連想してキャラクターが外側を向いていただけではなくて、音楽的にも楽曲の外身の部分で勝負しようとしていた当時の自分の姿が重なるようでした。でも今回は、より自分の内側を表現したアルバムになっているので、ぬくぬくにぎりめしに「内側を向かせてほしい」とだけ伝えました。いつも自分から細かい指示を出したりはしないですけど、僕の作品にぴったしのイラストを描いてくれて、本当に感謝してます。

――『ウェザーステーション』は稲葉曇さんにとってどんな作品になったと思いますか。

稲葉曇:このアルバムは、最初からあるひとつのテーマを決めてつくったものではなくて、ずっと曲をつくっていく中で気づいたことや見えてきたものが反映されていますし、「これが稲葉曇なんだな」と自分でも理解できるような曲が収録されたアルバムだと思っています。稲葉曇のこれまでのすべてが詰まっている、名刺の代わりになるような作品になったと思います。

――「自分がつくりたい音楽」が分かってきた中でできた曲が詰まっているのですね。

稲葉曇:そうですね。自分の内側にある統一された雰囲気を表現するためには、どの音がいいか、どのボーカルがいいかを考えながらつくった曲ばかりですし、結果として、1stアルバムよりも稲葉曇の本質が出てきたように感じています。これからどんどん発展していくのか、もっと内側に潜っていくのかは分からないですけど、少なくとも、今の時点での自分のすべてを詰め込んだ作品になったのかな、と。このアルバムをつくったことで「どんな音を使っても、どんな作り方でも、自分らしさを表現できる」という自信が持てたような気がしています。

『ウェザーステーション』

■リリース情報
2nd Full Album『ウェザーステーション』
2022年3月23日(水)発売
CD:通常盤 3,000円(税込)UXCL-276
https://lnk.to/inabakumori_physical
配信:https://orcd.co/weatherstation

<収録曲>
1.     ひみつの小学生
2.     ハローマリーナ
3.     レイニーブーツ
4.     ラグトレイン
5.     ハルノ寂寞
6.     カゼマチグサ(album ver.)
7.     レーダー
8.     かたむすび
9.     天泣
10.   ポストシェルター
11.   きみに回帰線

作詞・作曲・編曲:稲葉曇
イラスト:ぬくぬくにぎりめし https://twitter.com/NKNK_NGRMS

<店舗別購入者特典>
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■稲葉曇関連リンク
YouTubeチャンネル :https://www.youtube.com/c/inabakumori/featured
ニコニコ動画 :https://www.nicovideo.jp/user/42833430
Twitter :https://twitter.com/inabakumori

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