2ndアルバム『カルト・リーダー・タクティクス』インタビュー
ポール・ドレイパーが導き出した人生における結論とは? “物語仕立て”の新作に潜む日本との繋がり
イギリスと日本はお互いの鏡だと考えていた
今作のタイトル『カルト・リーダー・タクティクス』とは、カルト宗教団体のみならず、仕事から恋愛までを引っくるめた様々な集団や人間関係の中で、(時には卑劣な)手練手管を利用して周囲の者たちを自分の思い通りに操りながら上に立とうとする時の、策略や駆け引き(=タクティクス)のことを指している。「このアルバムコンセプトとタイトルは、前作を完成した後に思い付いた」と言うポールは、曲作りと並行して同じタイトルの本を執筆。全24章、60ページから成るその本は、今作の限定デラックス版の特典となっており、アルバム収録曲の歌詞の内容とも連動している。
「それは自己啓発マニュアル本のパロディで、ネガティブな戦術を使って人生を切り開き、成功を収めていくことをテーマとして解説しているんだ。こういったコンセプトアルバムに取り組んだのは『アタック〜』以来だよ。この2作は、ダークな風刺という全体のコンセプトとしては似ていると思う」
ただし大きな違いもある。『アタック〜』では、主に自分が生まれ育った英国の地方都市で遭遇した人々をデフォルメ化し登場人物として取り上げていたのに対し、今回はポール自身がこの数十年間に出会った、特に音楽業界を通じて接してきた人々を主なモチーフにしている点だ。
「今回は、僕が大人になってから経験した様々な考えが反映されているところが(前作と)異なっているね。例えばオープニングの表題曲『カルト・リーダー・タクティクス』は、イギリスの音楽業界にいる架空の人物を通した視点で描かれているんだけど、実際に僕が対峙した人たちがネタ元になっている。そういった、音楽業界におけるマキャヴェリズム的な(=目的達成のためには手段を選ばない)行動の一番の矢面に立たされた状況を描いているという意味で、このアルバムは自伝的なものだと言えるよ」
また、アルバムの先行第3弾の楽曲として、ユーモアが滲むMVが公開中の「ユーヴ・ゴット・ノー・ライフ・スキルズ、ベイビー!」は、ポールいわく「“女性優位の世界において無能な男であること”をテーマにした、ダークコメディソング」だそうだ。その他にも、友人のふりをした敵(=自分に嫉妬するライバル)に可愛がっていた魚を殺された挙句、シンセも壊されてしまう主人公が登場する「ユー・キルド・マイ・フィッシュ」や、裏工作で陰口を叩かれても反論できずに陥れられていく様子が描かれた「トーキング・ビハインド・マイ・バック」など、想像や共感を掻き立てられるストーリーが満載だ。
また「インターナショナル」では、英国のEU離脱を主導するボリス・ジョンソン首相を批判的に取り上げつつ、反ナショナリズムについて歌っている。
「世界中を旅していると、異文化に目が向くようになり、偏狭なナショナリズムに陥ってはならないという決意が一層固くなるんだ。歴史的に見ても、ナショナリズムは戦争や悲惨な結果を引き起こすだけだからね」
仕事のみならずプライベートでも海外をわたり歩いてきたポールは、持ち前の好奇心から、現地ならではの食べ物から街歩きまで、異文化体験にも積極的にチャレンジ。Mansun時代から現在まで幾度となく来日経験があり、日本の四季や習慣にも通じている彼は、前回の来日時には、マスク姿の人々を見て「もしかして花粉症?」と鋭く突いてきた。現在では日本でも広く知られていることだが、新型コロナが発生するまでイギリスの人々は生活上、マスクというものに全く馴染みがなかったため、筆者も日英を行き来する航空機内で乾燥防止のマスクを着用するたびに、英国の子供たちに怪訝な顔で覗き込まれていたものだった。
「ロックダウンが開始された当初は、イギリスでマスクを着ける人なんてきっとほとんどいないだろうな、と思っていたんだ。でもそれが今ではごく普通になっているんだよ。日本を何度も訪れていると、マスクをしている人を目にしても当たり前に思う。今ではそれがイギリスでも日常的な光景になっているんだ。僕は常々、イギリスと日本はお互いの鏡だと考えていた。僕ら、つまりイギリスと日本は、それぞれ巨大な大陸から離れた諸島と列島から成っていて、どちらにも独特の文化と体制があるよね。うち(イギリス)には女王がいて、君たち(日本)には天皇がいる。そしてどちらも、近隣の大陸とは反対方向に発展しているという点が共通しているし、お互い保守的な社会だってところも似ているだろう。日本の人たちは僕らイギリスの文化が好きで、僕らイギリス人は君たちの文化が好きだ。地理的には世界の反対側にいるけれど、自分たちのすぐ近くにある国々よりもずっとお互い似ているよ。今は皆マスクをしているからなおさら、道を歩いていても同じように見えるね(笑)!」
そんなマスク生活も徐々に終わりに近づき始めているイギリスだが、一時期は「生活必需品以外は店頭販売禁止」という強力な措置まで取られ、“食料品コーナーはOKだが、衣料品や電化製品売り場は立ち入り禁止”という、ちょっと日本からは想像がつかない制限までもが敷かれていた。そんなロックダウンが最も厳しかった時期に着想を得て書かれたのが、スティーヴン・ウィルソン(プログレッシヴバンド、Porcupine Treeの中心人物)との共作曲「オメガ・マン」だ。
これは前述の新曲3つのうちの1つで、一人暮らしをしているポールがロックダウン期間中、まるで自分がこの世に生き残った最後の一人の人間のように感じた心境や、思い切って外出した際に閑散とした町を歩きながら、周りの社会が消失してしまったような感覚を覚えた経験からインスピレーションを得たもの。同じ思いを共有していたミュージシャン仲間で友人のスティーヴンと気持ちを語り合い、オンラインによる遠隔作業で音源を交換しながら曲作りを行う形でのコラボレーションが実現した。
この「オメガ・マン」で最も痛切なメッセージとして伝わってくるのは、ロックダウンの期間中、ポールが何より心配していたこと、つまり大切な誰かに二度と会えないかもしれないという不安からくる苦しみだ。会いたくても会えない家族や愛する人。会えないうちにその相手を永遠に失ってしまうかもしれないという心の痛みが、切々と表現されている。
「家族の問題もあり、ロックダウンには大打撃を受けてしまって、一時は音楽制作を辞めてしまいたいとすら思ったこともあったんだ。でも、レコード会社や家族、ファンの皆に励まされながら自らを奮い立たせ、このアルバムを出すことができた。そういった支えがなかったら、本作はリリースされなかっただろうと思う」
暗い風刺に満ちたコンセプトアルバムではあるものの、最後が“人生における唯一の真の答えは『愛』である”というポジティブなメッセージを込めた「ライイン・バウト・フー・ユー・スリープ・ウィズ」で締めくくられているのは、意図的な配置だという。このサビの合唱部分を構成しているのは、公募から選ばれた288人のファンの歌声だ。ロックダウンで通常のレコーディングが行えない状況の中、各自がスマホに録音したコーラス音源をオンラインで送信する形で、この感動的なパートが完成。最終的な参加者のリストに日本の方々らしき名前が2名分あったことに、心温まる思いがした。
「『ただ愛よ、あれ』というそのサビの一節には、皮肉めいた風刺の意味は全くないんだ。それは僕が人生の中で出した結論であり、このアルバムもその結論に到達している。“目には目を”ばかりだと、最後には皆が盲目になって終わってしまうだろ? 復讐だの悪巧みだの悪行だのは、悲劇的な結末を招くだけ。だから人は誰しもポジティブになって、できるだけ良い人間になろうと日々努力すべきなんだ。僕は純粋にそう感じているよ」
そんな前向きな姿勢を込めて、最後に今年の抱負を語ってもらった。
「2〜3月にUKツアーを予定しているんだけど、イギリスではオミクロン株も沈静化してきたようだから、年内にはもっとライブができたらと思っているよ。そして状況が落ち着き次第、また日本に行ってライブをやりたいな。その時はこれを読んでいる皆さんとも会えたら嬉しいね」
■リリース情報
ポール・ドレイパー
『カルト・リーダー・タクティクス』
品番:OTCD-6848[CD]
定価:¥2,500+税
その他:世界同時発売、アーティスト本人による楽曲解説/歌詞/対訳付、日本盤ボーナス・トラック3曲収録
発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
<収録曲目>
1. Cult Leader Tactics
2. Internationalle
3. Dirty Trix
4. Cult Leader Tactics in E-Flat Minor
5. You’ve Got No Life Skills, Baby!
6. U Killed My Fish
7. Everyone Becomes A Problem Eventually
8. Annie
9. Talkin’ Behind My Back
10. Omega Man
11. Lyin’ ‘Bout Who U Sleep With
12. Annie (Acoustic)*
13. Cult Leader Tactics (Acoustic)*
14. Lyin’ ‘Bout Who U Sleep With (Acoustic)*
*日本盤ボーナス・トラック
ジャパン・オフィシャル・サイト:http://bignothing.net/pauldraper.html