松下洸平、自然体であり特別な魅力 俳優、歌手……表現者としてのリアリティ
12月17日、いよいよ最終回を迎えるドラマ『最愛』(TBS系)。2014年の『Nのために』、2017年のヒット作『リバース』(ともにTBS系)のスタッフ再集結という期待通り、人間の奥深くを丁寧に描きつつ、過去と現在が複雑に絡み合うサスペンスは、今クール大きな話題となった。
本稿でフォーカスするのは、宮崎大輝役の松下洸平。リアリティと理想像が共存する、絶妙に「いそうでいない人物」だ。俳優として、歌手として、表現者としてーー多くの人の心を掴んで離さない松下の魅力を、どうにか言語化してみたい。
「生きている人間」演じる松下洸平の表現力にある圧倒的なリアリティ
母親が画家ということもあり、幼少期から音楽と絵画に親しんできた松下。美術系の高校で油絵を専攻し、専門学校ではボーカルを学んだ。その経歴を活かし、絵を描きながら自作曲を歌うペインティング・シンガーソングライターとして洸平名義で活動を開始。2008年に<ビクターエンタテインメント>からCDデビューを果たす。
一方、2009年にBROADWAY MUSICAL『GLORY DAYS グローリー・デイズ』で初舞台に立ったことをきっかけに「芝居を続けたい」との想いを抱くようになる。2010年、音楽活動を一時休止し「松下洸平」と名を改め、俳優業に専念することを決めた。
以降、舞台・ドラマと数多く出演してきた松下だが、その名を一躍有名にしたのはやはり、2019年のNHK連続テレビ小説『スカーレット』だろう。戸田恵梨香演じるヒロイン・川原喜美子の相手役・十代田八郎として出演、ビジュアルも芝居も、誠実な役どころにピタリとハマった。じれったくもまっすぐに想いを伝え合った恋愛パート、夫として、父親としての優しい顔、いち芸術家としての葛藤、陶芸に没頭していく妻とのすれ違いを、説得力のある芝居で表現した。
『最愛』にて演じる大輝は、警察官という職業柄、少々堅物にも思える。けれど梨央(吉高由里子)や優(高橋文哉)など、心を開いた相手にだけ見せる顔ーーくだけた方言や大きな声で笑う姿は、15年前と変わらぬ“大ちゃん”だ。反面、自身の立場が危うくなろうとも梨央を守りたい、もう逃がさないと決めたときの男らしい顔つきには、15年のときを経て「大人の男性」になった頼りがいがある。それでいて、梨央がそばにいるときにはどこかぎこちない。この質朴さと実直さは、八郎にも通ずるところがある。
低く響く深みのある声は、役者としても魅力的だ。大輝の言葉、語尾は、岐阜弁も相まって、切ないほどに優しい響きを持つ。一方、矛盾するようだが、台詞のない表情芝居にも注目したい。大輝は、じっと考える。何を考えているのかと、視聴者に想像の余地を与えることができるのは、松下の手腕だ。
かつて想いを寄せていた梨央、家族同然に暮らしていた優を疑うことに苦悩する大輝だが、苦しみのなかでも梨央や優を慮り、慈しむように見つめる。その表情と、考え抜いて絞り出した声のつらさには、何度も胸を締め付けられた。
先述した『スカーレット』、今春にゲスト出演した『MIU404』(TBS系)、そして『最愛』にも通ずるが、人間的な優しさと、それゆえに生じる人間的な苦悩、多くを語らず抱え込む「語らぬ芝居」とその哀愁に、視聴者は惹き込まれる。俳優ならば当然と思うかもしれないが、「生きている人間」を演じる松下の表現力には、圧倒的なリアリティがある。