sumikaが作り出した魔法のような祝祭空間 歓びを交わし合った『花鳥風月』ツアーファイナル
11月3日、sumikaの全国ツアー『sumika Live Tour 2021「花鳥風月」』のファイナル。この日のさいたまスーパーアリーナは、魔法のような空間だった。まず、メンバーが登場する前の演出からしてすごかった。観客との再会を祝すように響く壮大なSEをバックに、色とりどりの光が上空でクロスし、鮮やかな光景を描いていく。新型コロナウイルスが流行し始めてからおよそ2年弱。世界中の人々が前代未聞の事態に直面し、新しい生活様式を求められるようになり、外に出かける機会は格段に減った。五感が潤わないと心もやがて死んでしまうのだということを、嫌というほど実感した2年弱だった。そんななか、目の前で繰り広げられる光景のなんと美しいことか。危うくマスクの内側で感嘆の声を漏らしそうになる。やがてステージを覆っていた幕が落ち、大樹を中心とした大掛かりなステージセットが現れる。桃色の照明がつき、大樹に満開の桜が咲く。
「ライブにおかえりなさい。『花鳥風月』ツアーファイナル、sumika、始めます!」。片岡健太(Vo/Gt)の挨拶とともに溢れ出したカラフルなサウンドが「Jasmine」を鳴らし始めた。マイクチェックを思わせるフレーズを盛り込みつつ、弾む足取りで街へ繰り出していく様子を歌ったこの曲は、“四季折々の美しい景色を取り戻していこう”というコンセプトを持つ『花鳥風月』ツアーの1曲目にぴったりだ。
〈ワンツー・ワンツー/って踊り出す/街で一丁二丁三丁/繋ぎ始める輪〉、そして〈愛せ「ハロー」と/抱き合って/この街から始めよう〉という「Jasmine」のフレーズを受けて、2曲目「祝祭」が始まっていく。そうだ、ここから始まるのは“祝祭”以外の何物でもない。2020年に予定していたアリーナツアー『sumika Arena Tour 2020 -Daily's Lamp-』は振替を試みるも叶わず、最終的に全公演中止となった。それを受け、今年2月には、本来アリーナツアーで訪れる予定だったさいたまスーパーアリーナから無観客ライブを配信。“さいたまスーパーアリーナでの有観客ライブをなかなか実現できない”という状況が続くなか、ようやく実現したツアーファイナルは彼らにとって“当たり前”ではなく、感染症対策のために守らなければならないルールはあるものの、それでも、客席に人がいる状態でこの日を迎えられたことが何より一番の喜びだったことだろう。
片岡は、「普段とは違うルールがある」と前置きしつつ、「“ルールのなかで、あなたなりの楽しみ方を見つけてください”と言うのはちょっと無責任な気がしていて。ここに足を運ぶ選択をしてくれたからには、俺たちが何がなんでも楽しませるぞという気持ちでいます。だからここから先は心を全部預けてもらえたらと思います」と語る。この日の片岡はライブのことを“魔法”と言い表していたが、その言葉には、“この瞬間は自分たちにとっても奇跡みたいなものなのだ”という素直な実感だけではなく、まるで魔法のように感じられるほど、クオリティの高いエンターテインメントを観客に届けるのだというプロとしての矜持も含まれているようにも思える。sumikaの血というべきそんな哲学は、照明や音響、舞台セットなど演奏以外の全てを担うバックステージスタッフーーそして確かな腕前で素晴らしい演奏を提供するだけでなく、MCを振られればテーマパークのキャスト並みのテンションで挨拶するゲストメンバー=井嶋啓介(Ba)、三浦太郎(Gt/Cho/フレンズ)、矢澤壮太(Gt/Cho)、岩村乃菜(Cho/Per)にもしっかりと行き渡っている。ちなみに、この編成だとコーラスが非常に分厚く、「Traveling」でのアカペラなどハーモニーの美しさが印象に残る場面が多数あった。