『東京少女』インタビュー
リュックと添い寝ごはん 松本ユウが語る、忘れたくない原点 20歳の自分に宛てた手紙のような楽曲を読み解く
リュックと添い寝ごはん、2021年第2弾となる配信シングル『東京少女』。表題曲は、前作「くだらないまま」にも通じるテーマを感じさせつつ、彼らの原点の瑞々しいバンド感も思い出させてくれる、新鮮な楽曲だ。それもそのはず、実はこの曲、彼らが18歳のときに作った楽曲をリメイクしたものなのだという。当時の彼ら、特に松本ユウ(Vo/Gt)が感じていた焦燥感と、今年20歳を迎えて抱く「だからこそ今を大事にする」という思いの両方が入り混じる歌詞、そして丁寧さのなかにも前のめりな勢いを感じさせるサウンドメイクには、リュックと添い寝ごはんの表現の根源がしっかりと刻まれている。カップリングの「ふたり暮らし」に描かれる理想の幸福像と合わせ、まさに今の彼らの“取扱説明書”といえる今作について、松本にじっくり語ってもらった。(小川智宏)
「18歳の不安や願望を20歳になって俯瞰している」
ーー「東京少女」、素晴らしい曲だと思います。手応えはどうですか。
松本ユウ(以下、松本):作り終えて、『青春日記』(1stミニアルバム)の頃を思い出しました。これ、高校生の時に作った曲なんですよ。すごく大事な曲になったなと思います。本当はリード曲として「青春日記」を出すタイミングでリリースする予定で、レコーディングまでしていたんですけど、やっぱり「青春日記」をリードにしようとなって。それぐらいのリード感というか……リュックと添い寝ごはんの中心にある曲なのかなって思います。
ーー温めていた感じなんだ。
松本:そうですね。当時は「今じゃない」っていう感じでした。「東京少女」を出すなら絶対に20歳になってからだなと思っていたので、いいタイミングでしたね。
ーー今年20歳になりましたけど、その実感はありますか。
松本:誕生日を迎えたときは実感も全然なかったですけど、やっぱり後輩とかも増えてきて「そういや、もう20歳だ」って気づいたりとか、お酒も飲めるようになったりとか、そういうことで思いますね。でも嬉しい反面、やっぱりちょっと寂しくもあって。
ーーというのは?
松本:20歳になる前からそうなるんだろうなと思っていたんです。「もう20歳か」みたいな自分もいつつ、「まだ20歳か」っていう自分もいて。20歳の人はみんなそれを思うんじゃないかなって。
ーー20歳になって自分の中で新しいテーマが見つかったり、考えるテーマが増えたりすることはありますか。
松本:20歳とかは関係なく書きたいことはありますけど、その枝がどんどん広がっていく感じはします。そんな中でこういう「東京少女」みたいな曲を通して、ときどき振り返ったりしている感じですね。
ーーこの曲は歌詞も当初からあったものなんですか。
松本:当時書いていたものと、今書き直したものをミックスさせた感じです。
ーーまさにこの曲の中に〈20歳〉という言葉が出てきますが、この部分は?
松本:ここは18歳のときに、20歳への憧れを書きました。サビも当時のままですね。逆に今回書いたのは〈たらればだけ増えていくなら/今からでもいいよ/できることは少しだから/ゆっくりいこうよ〉っていうところと、サビのあとの〈ああこのままではダメじゃなくて/このままでも良いと言おう/言霊は 美しいから/そのまま/あの日の零れ日が 記憶照らし続ける〉っていうところです。
ーーじゃあ18歳の松本さんと、今の20歳の松本さんがせめぎ合っている感じもある、と。
松本:はい。本当にありのままの僕というか、今思ってることを書きました。それは18歳のときには絶対に出てこない言葉だし、ただただ不安とか願望だけだった当時に対して、20歳になって俯瞰的に見ている歌詞になったかなと思いますね。
少年ではなく少女を冠した理由
ーー〈ゆっくりいこうよ〉っていうのは、最近のリュックと添い寝ごはんの曲に通じるメッセージですよね。それに対して、曲全体としてはそれこそ「青春日記」にも通じる前に突き進むような感じもあって。その両面が1曲に入っているのが面白い。
松本:ああ、そうですね。そのどっちも僕で、「青春日記」も「東京少女」も結局は自分に言ってるんですよね。自分が焦ってるから〈ゆっくりいこうよ〉とか、そういうことを歌にするんです。
ーー〈ゆっくりいこうよ〉と言ってはいるけど、18歳のときと変わらず焦ってる感じはあるということ?
松本:生き急いでるというか。すぐ落ち込むし、不安だなっていう感じはずっとありますね。音楽についてもそうだけど、年齢を重ねる不安を20歳になってから徐々に感じるようになってきました。18歳のときは無敵な気がしていたんですけど、それが薄れるんじゃないかっていう怖さがあります。最近の曲で〈ゆっくりいこうよ〉みたいな歌詞が多いのは、そこにつながっているのかなと思います。自分の焦りを客観的に見ているというか。
ーーなるほど。「東京少女」というタイトルはどういうイメージでつけたんですか。
松本:語感が一番大きいかもしれないです。とりあえず「東京」っていう曲を作りたいなって思ったんですよ、当時。でも大事な曲にしたいとずっと思ってたから、やっぱり「東京」はまだ作りたくないと思って(笑)。それで何かつけようとして「東京少年」っていう候補もあったんですけど、語感的に「少女」の方がしっくりきたから。当時の自分が自分のことを「僕」とか男目線で書くんじゃなくて、「私」って書くのにハマっていたのもあると思います。
〈土砂降り雨でもさ 私らしく生きていくのさ〉っていうのは、「雨」っていうワードで病み期みたいなものを表現したいなと思ったからで。今のコロナ期間もそうですけど、土砂降りの雨みたいな困難が続いても、自分を忘れず、流されないで強く生きるっていうメッセージを込めました。〈私〉にしたのも、匿名性を大事にしたいと思ったんです。ちょっとフワッとさせたかったというか。
ーー書かれているのは自分のことだけど、少し距離を置いていろいろな人に届くようにしたかったということでしょうか。〈町は老けてゆく〉っていうフレーズも気になったんですが。
松本:年齢を重ねても自分の気持ちは少女のまま、若いままでいたいという感じですね。何か別の対象に年齢を背負わせることで、自分の「少女の心」みたいなものをより大切にできるのかなと思って書いた歌詞です。
ーーそれは今と歌っていることの根本は変わっていないですよね。18歳のときの無敵感が失われるんじゃないかっていう不安とも通じる感じがする。
松本:そうですね。この曲を掘り起こして作ろうと思ったのも、気持ちが変わってないからだと思うんです。高校の時に作った曲は他にもたくさんあるんですけど、それは今やりたくないっていう気持ちがあって。でもこれは自分の中の、それこそ取扱説明書みたいな曲になっているからこそ、スッと行けたのかなと。もちろんやりたい音楽とかは変わっているけど、根底にある「のんびりやりたい」っていう思いは変わらないんで、こういう曲を自分で書くことで自分を知れる感じもします。