折坂悠太、表現への問いかけが宿った新作『心理』 柴那典が感じた音楽家としての凄み

 10月6日にリリースされる折坂悠太の新作アルバム『心理』を、いち早く聴かせてもらった。

 前作『平成』から3年。全13曲を一聴して感じるのは、折坂悠太の音楽家としての“凄み”に対峙しているような感覚だ。決して難解なことをやっているわけではない。激しい音を鳴らしてるわけでもない。むしろその逆で、アコースティックを主体に、ふくよかな鳴りをした音と、味わい深い歌が収録されている。彼の歌声には、身体にじんわりと染み通ってくるような響きが宿っている。聴き心地はとてもいい。それでも、ゾクリと鳥肌が立つような瞬間が所々にある。

 これは、一体、なんだろうか――。

 ふと思ったのは、この作品は大きな余白を持った“問いかけ”なのではないか、という直感だ。

 9月19日、20日には、アルバムのリリースに先駆けてオンライン先行試聴会が開催される。アルバムの全曲をVIDEOTAPEMUSICの映像演出と共に聴くことができるほか、試聴後には、折坂に加えてbutaji、イ・ランをゲストに迎えたトークイベントの生配信も行われる。アルバムのリリース前にこうした催しが行われることも異例だが、目を引いたのは、その参加条件だ。

 参加は無料。ただし、申込みにあたっては、特設サイト内の応募フォームから“あなたにとって、今の「心理」はどのようなものでしょうか”という質問に応えることが必須になっている。

 やはり“問いかけ”なのである。

 アルバム発売の告知に際して、折坂悠太はこうコメントしている。

「何かに例えることができない。このアルバムは、簡単な物語に消化される事を拒んでいます。それでも私は表現者なので、表現できなければ終わりです。悩んだ末、『心理』と名をつけました」

 こう語る彼の言葉通り、彼の音楽においては、インスタントな共感へと聴き手を導くような言葉遣いやメロディは注意深く避けられている。そのかわり、胸の深い部分でのざわつきをもたらすような響きが巧みに練り上げられている。演奏はここ最近のライブ編成でもある「折坂悠太(重奏)」のメンバーによるものだ。レコーディングは基本的に全員が同時に録音するやり方で、曲によってはセッションを重ねたものを折坂が編集したという。サム・ゲンデルがサックスとして参加した「炎」など、隙間のあるリズムと包み込むようなアンビエントが織りなす多層的なサウンドが聴き所になっている。

関連記事