吉乃、菅原圭、sekai、ミテイノハナシ……Adoやyamaに続く、2021年下半期 注目の歌い手たち

sekai

 素顔を明かすことなく、ミステリアスなオーラを纏い活動するスタイルが歌い手のスタンダードであるのと同様に、ジェンダーレスな歌声も評価されてきたボカロシーン。歌声に天使と悪魔を共存させ、遊び心を存分にシェアしている歌い手が、sekaiだ。今回紹介する4人のなかでは最もダウナーな曲調に似合う尖った性質の歌い手のため、筆者は「これは化ける」と予測している。ボカロP・結音の「洒落枯れ坊主と花一匁」カバーでは、Aメロ、Bメロともに可憐な声を聴かせる一方で、サビにはダークな声を投じ、大サビで敵を粉砕するような力強い声を覗かせる。神秘的な歌声は、歌い手の極致を語るには十分すぎるくらいだ。

洒落枯れ坊主と花一匁 - Cover

ミテイノハナシ

ミテイノハナシ「夜を越える足音」

 ラストには、2021年7月9日、TVアニメ『ピーチボーイリバーサイド』(TOKYO MX)EDテーマ「夜を越える足音」でメジャーデビューしたミテイノハナシを語らずにして終われないだろう。2018年3月から歌い手としての活動をスタートしたAru.が、自身によるオリジナル楽曲のセルフカバーを投稿する際の名義として2019年9月7日、初のオリジナル楽曲「再会の終わり」を起点にスタートしたのが、ミテイノハナシ。カオスな世の中で渦巻く葛藤や不安に立ち向かうヒントを与えようとする歌詞が、親しみやすいバンドサウンドに乗り、スッと心に届く。柔らかなギターと歌声が調和する「憂鬱、日々」のフレーズ〈ありもしないことに惑わされ/全てが上手くいかなくなって/何もせずただ上を向いたら/どうでもいいことだって思えるから〉から骨身に沁みるのは、そっと隣に寄り添っていてくれるような温かみ。忙しない日々を全力で生きる努力の結晶と、木漏れ日のようなピュアな優しさを内包する歌声に、聴く者は救われるのだ。

ミテイノハナシ - 憂鬱、日々(Music Video)

 歌い手自身が選曲したカバーであっても、提供されたオリジナル曲であっても、歌声の深奥に眠っている妙味を引き出せる作品であればあるほど、歌い手はより高い次元への扉を開くことができる。とりわけ、今後新しい波を起こすのは、セルフプロデュース力に優れている歌い手になってくる可能性は大いにある。まずは、ここに紹介した次世代ブレイク株の急上昇を心待ちにしたい。

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