ベストアルバム『Y』インタビュー
jon-YAKITORY、「シカバネーゼ」などに刻まれた妥協なき活動の記録 ベスト盤で確かめるボカロPとしての向上心
ボカロPのjon-YAKITORYがベストアルバム『Y』を7月28日にリリースする。そして、本作に収録される新曲「アンチシステム's」が、ベスト盤発売に先駆けて本日7月16日より配信がスタートした。
ベスト盤には、Adoが参加しjon-YAKITORYの名を一躍世に知らしめた「シカバネーゼ」のほか、「イート」「フェイキング・オブ・コメディ」といったその時々における最高値を更新してきた楽曲を収録。また、先行配信中の新曲「アンチシステム's」「ONI」からは、これまでの経験値をフル動員した上でのjon-YAKITORYの新たな一手を感じる。
ここまでの活動の集大成でもある本作を通じて、jon-YAKITORYの音楽に初めて触れるリスナーもいるはず。今後さらなる飛躍が期待されるjon-YAKITORY、その全貌に迫る。(編集部)
「シカバネーゼ」の歌詞はその時の心情みたいなものを書いた
ーーjon-YAKITORYという名前にしてからの活動を振り返って、どんな実感がありますか?
jon-YAKITORY:圧倒的に見てもらえる方の数が増えたので、すごく嬉しいなと思っています。それ以前は“jon”という名前でやっていたんですけれど、“jon”だとエゴサができなくて。その時その時で全力のものを出してたんですけど、そういう弊害もあって、作る音楽もフワフワしてたんじゃないかと思います。jon-YAKITORYにして明確なテーマが生まれたわけではないんですけど、知らず知らずのうちにより一層帯を引き締めるような感覚にはなったと思います。
ーーそれ以前からを振り返って、そもそものルーツ、音楽をやろうと思ったきっかけはどのあたりになるんでしょうか?
jon-YAKITORY:3歳くらいの時からしばらくピアノをやってたんです。でも、その時に感じていたのが、練習してピアノが上達するよりもっと自由に音楽をやりたいということで。そこからピアノをやめてしばらく経って、中3くらいでRIP SLYMEのDJ FUMIYAさんがスクラッチをするシーンをテレビで観たんです。それがめちゃくちゃかっこよくて、「スクラッチとかをガンガンやるようなDJいいな」と思い、お金を貯めてDJセットを買ったのが最初に音楽をやろうと思ったときですね。
ーーでは、ボカロ曲を聴き始めたのはいつ頃でしたか?
jon-YAKITORY:高専に入り、軽音楽部でドラムを始めたくらいの時だから、2008年くらいですね。ジミーサムPさんがとにかく好きで、ryoさんの「メルト」もよく聴いてました。こんなに自由度が高い曲があるんだと思って。19歳の頃にはソフトを買って、ボカロ曲も一人でちょこちょこ作っていました。
ーー今の作風につながるという意味で影響を受けたアーティストはいますか?
jon-YAKITORY:RADWIMPSは大きいですね。あとはBUMP OF CHICKEN、ASIAN KUNG-FU GENERATIONも。それと米津玄師さんも無視できない存在です。あんなにすごい曲を最初からニコニコ動画でアップされていて。
ーーでは、ベスト盤『Y』のについても聞いていきたいと思います。まず「以心伝心」はどんな風にできた曲ですか?
jon-YAKITORY:これはイラストありきの曲ですね。湯木間さんがpixivに投稿していた『東方Project』の同人イラストがすごくいいなと思って。それにあわせてミドルテンポのいい曲を書こうと思ったのが最初です。曲の設定としては、『E.T.』みたいな感じですね。『E.T.』の最後では、男の子だけ笑ってない。唯一の友達がもう会えない場所に行ってしまった悲しさもあるけど、でもそれは喜ばしいことでもあるからちゃんと喜ばないといけないという複雑な感情が表情に出ている、という評論を読んだんです。湯木間さんの絵を見たときにそのことを思い出して、そういう複雑な感情みたいなものを書いた曲です。
ーーでは、「ザンネンショーマン」「ぼくらは」はどうでしょうか?
jon-YAKITORY:「ザンネンショーマン」に関しては、このタイトルは映画『グレイテスト・ショーマン』からですね。タイトルを先に決めちゃって、サビに〈残念賞〉という言葉を入れました。キックが4つ打ちで、ミドルから少し早いくらいのテンポのギターロックで、わかりやすくかっこいいものを作ろうと思った曲です。「ぼくらは」はまさにブラックミュージックっぽいものを作りたかったんです。ディアンジェロとか、ファンクの黒いノリを持った音楽ですね。それまでは自分でミックスをやっていたんですけれど、この曲では別の方にお願いして。それも含めて新しい試みをした曲でした。
ーーそして「シカバネーゼ」ですが、やはりこの曲はjon-YAKITORYさんにとって一つのターニングポイントになった楽曲だと思います。
jon-YAKITORY:そうですね。「ぼくらは」を作って、自分の中でブラックミュージック的な曲のコツがつかめてきて、ここで勝負の曲を作ろうと思ったんです。歌詞はその時の自分の心情みたいなものを重ねて書きました。自分が思うパンチのあるものばかりを詰め込んで、これでウケようがウケなかろうがいいや、自分が納得するものだけ作ろうと思って作ったのが「シカバネーゼ」だったんです。
ーーこういうダークな曲が自分にとっての勝負作になったというのは?
jon-YAKITORY:ポジティブな方よりかネガティブな人間ではあるので、そこをちゃんとさらけ出して勝負をしないとダメだと思っていました。ウケようがウケまいが納得するものを作ると決めたので、本音を語ろうとしたらこういう言葉が出てきたんです。サビで〈殺して〉と出てくるのも、あまり直接的な表現って僕は好きじゃないんですけど、10年後くらいに自分が見た時、遠回しな表現で納得できるのかということを考えたら、ウケようがウケまいが自分が満足するために書いたからいいやと思って。結果的に本音で書くって大事なんだなと思いました。