ずっと真夜中でいいのに。はなぜこんなにも我々を魅了するのか? 『少年ジャンプ』編集部・高野健が独自の視点で徹底解説

 YouTubeでの「秒針を噛む」MV公開以降、破竹の勢いで進化し続けているずっと真夜中でいいのに。2021年になってもトピックは増え続けており、2ndアルバム『ぐされ』のリリース、幕張メッセでのワンマンライブ『CLEANING LABO「温れ落ち度」』の成功に加えて、ACAね×Rin音 Prod by Yaffleによる映画『キャラクター』主題歌や、「あいつら全員同窓会」「ばかじゃないのに」といった新曲のリリースなど、加速度的に活動幅を広げている。

 そんな“ずとまよの現在地”について、初期から活動を追い続け、ファンを公言している『週刊少年ジャンプ』編集部の高野健氏がリアルサウンドに特別寄稿。『鬼滅の刃』『ONE PIECE』など人気漫画の編集に携わりながら、とあるきっかけでずとまよの魅力に取りつかれていったという高野氏だが、今回はそんな出会いを振り返りながら、『ジャンプ』編集者ならではの視点で、ずとまよの面白さを解説する。ここでしか読めないエピソードが満載な上に、これからずとまよを聴く人には入門ガイドにもなりうる記事である。楽曲を聴いたり、MVを見たりしながら楽しんで読んで欲しい。(編集部)

「知りたい」という原動力に導かれた、ずとまよへの傾倒

ずっと真夜中でいいのに。『秒針を噛む』MV

 あれは確か2018年、夏ごろ。

 僕がまだ『鬼滅の刃』の編集担当をしていて、原稿を取りに向かうタクシーの中だったと思う。「秒針を噛む」のMVが誰かのツイートで流れてきて、その時初めて、ずっと真夜中でいいのに。に触れた。

 アップテンポな曲調に、少女性のある声、フュージョンサウンドのバックバンド。現代的で前衛的な歌詞、メインフレーズもメロディも、すべての第一印象は「カッコいい」。歌い出しは〈生活の偽造〜〉ってどんな歌詞? ずっと真夜中でいいのに。って変なバンド名! MV描いてる人はインディーズ? 一人でやっているとしたらヤバすぎる.......! ボーカルは顔も出してない? 「どういうこと」の連続である。

 そんなことを思いながらいつの間にかタクシーが目的地へ到着していた。いつもなら少し車酔いする道のりだが、その時ばかりは音楽に心酔していた。帰り道、もう一度聴いた。やっぱりすごい。このバンドの存在を何度も確認してしまったのを覚えている。

 ずっと真夜中でいいのに。はその後もコンスタントにミニアルバムやフルアルバムを出し続けて、素晴らしい音楽を世に届けてくれた。時代が変わる音がしていた。ボカロ界隈の音楽性に近い感覚だが、音像はどちらかというとフュージョンやソウル、R&Bに近い。けど、ちゃんと歌謡曲になっている。メロディアスでリズムが気持ちよくて、トラックが超絶技巧でミックスも最高に綺麗。馴染めるけど前衛的な部分が真新しい、聴いたことあるけど聴いたことのない、そんなアンビバレントな感覚にさせてくれる。

 アルバムを買ってみた。最初に買ったのは『潜潜話』(2019年10月発売)。全曲通してフルスロットルなアルバムで、休みなしに言葉が波のように押し寄せる。ボーカル・ACAねさんの描く歌詞は独特で、例えば「勘冴えて悔しいわ」では〈ATP上手に受け渡す〉という歌詞がある。そんな言葉どこで覚えたのだろう。あまり使わない言葉回しが毎回面白い。〈優先順位がカポ1ばっかで〉(「脳裏上のクラッカー」)、〈地下の階段TAMURO 嫌いの共感会議〉(「居眠り遠征隊」)など、歌詞を理解するのは難しいけれど、言い回しが独特で強くて、体に残った。

ずっと真夜中でいいのに。『勘冴えて悔しいわ』MV (ZUTOMAYO - Kansaete Kuyashiiwa)

 漫画家も吹き出しという制約のある中、短いフレーズで読者の心を惹きつける才能を持つが、ACAねさんも同じだった。言葉への洗練された感覚は、一つひとつのワードに対する覚悟にすら感じられた。

 ある時、担当している『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎氏の家に行った時、『潜潜話』に収録されている「正義」が流れていた。「尾田さんも好きなんですか?」という僕の問いかけに、「この曲好きでプレイリストに入れてるよ」と答えてくれた。尾田さんも独特なメロディとリズムを好いていたようだった。

ずっと真夜中でいいのに。『正義』MV

 いろいろ買ったし、調べたが、それでもACAねさんの謎はずっと残った。どんな人生を歩んだ人なんだろう、どんな音楽を聴いて育ったんだろう、どんな顔をしているんだろう......でも、教えてくれなくて、教えてくれないからこそ気になって、僕はずっと真夜中でいいのに。にもっと傾倒していくことになった。

 ずっと真夜中でいいのに。がすごいのはリリースされた音源だけではない。MVでは、漫画やイラスト・アニメの世界に近い僕でさえ全く知らなかった気鋭のアーティストを起用する。どこで見つけ出してるのか、教えて欲しいくらいだった。最新曲「ばかじゃないのに」では、SNS上のハッシュタグ「#ずとまよファンアート」で見つけたスイス在住のベトナム人イラストレーター・TV♡CHANY氏(@tvchany_)を起用し、レトロポップで彼らには珍しい「LOVE」全面のアニメMVを展開していた。目のつけどころがいいし、才能が才能を呼んでいる美しい姿だった。プロモーションも斬新だ。情報で溢れ返る時代に、むしろ情報を出しすぎず探させるという強気の宣伝戦略。「知りたい」という原動力は、宣伝においては最も強い感情だ。

 魔術書みたいな豪華版のCDや、ストリートスタイルのハイエンドなグッズもその気持ちを加速させた。聴けるもの、見えるもの全てが尖っていてポップで新しくて、いち音楽アーティストという言葉では収まらない総合エンタテインメントになっていた。

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