AKB48の軌跡を辿る 第2回:商法問題、『選抜総選挙』による混乱……涙を流し駆け抜けたグループの変革期
総選挙、組閣祭り……高橋みなみの感情爆発「大人はいっつもウソをつく」
2009年の大きなトピックスとなったのは、同年初開催の『AKB48選抜総選挙』。メンバーのその後を大きく左右することになるこの『総選挙』は7月8日、赤坂BLITZでおこなわれた。『神様に誓ってガチです』と題された同イベントは、6月発売シングル『涙サプライズ!』に封入された投票権を用いたファン投票。13枚目シングル曲「言い訳Maybe」の歌唱メンバーやメディア出演の座をかけて、メンバーが争う。ただその内容以上に、グループ内での人気が順位として表れるとあって、「自分がどれだけ求められているのか」を問い直させるシビアなものに。速報順位、中間発表順位が発表されるたびに一喜一憂することとなり、メンバーは日々、計り知れないプレッシャーに襲われた。
書籍『AKB48ヒストリー 研究生公式教本』(集英社/2011年)に記述されている河西智美のコメントが特に印象深い。『JAPAN EXPO 2009』出演のためにパリを訪れたメンバーたちは現地で楽しい時間を過ごしていたが、『総選挙』のことが頭をよぎり「みんな『帰りたくないね』って言ってもいました。『帰ったら、いきなり現実だもんね』って」と口にしていたという。
総選挙で1位に輝いたのは前田敦子。4630票をあつめた。以下は大島優子、篠田麻里子、渡辺麻友、高橋みなみ、小嶋陽菜、板野友美が続いた。この上位7人が「神7」と呼ばれるようになったのは、よく知られる話だ。ちなみに柏木由紀は9位、松井珠理奈は19位、指原莉乃は27位にランクインし、大器の片鱗を見せた。前田は大粒の涙を流しながら「私はAKB48に自分の人生を捧げることを決めている。1位になったからには、AKB48を引っ張っていけるように頑張りたい」と決意表明。前田が、名実ともにAKB48を象徴する存在となった瞬間だった。
8月22日、23日には初めての日本武道館でのライブを開催。2005年12月の劇場公演初日は一般客7人だったグループが、3公演でのべ2万5千人をあつめた。ただこの晴れの舞台で発表されたのが「AKB48の現チーム解体」。『組閣祭り』と称され、各チームにキャプテン制を導入した上で、メンバーが別チームへ振り分けられることに。佐藤由加理、浦野一美らに至ってはSDN48への完全移籍が告げられた。仲間、ファンがゼロから一緒に築き上げてきた各チームが崩される事態となり、大混乱が生じた。高橋みなみは事前にこれを知らされたとき、「大人はいっつもウソをつく」と感情を爆発させた。
10月には14枚目シングル『RIVER』がオリコンウィークリーチャート1位を記録。11月『笑っていいとも!』(フジテレビ系)のテレフォンショッキングのコーナーに初出演(33人が登場して自己紹介だけで出番が終わる珍事!)。年末には2度目の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に出場(このときは単独枠での出演となり、「RIVER」と「涙サプライズ!」をメドレーで歌唱)。ハッピーなニュースも多数あったが、『総選挙』や『組閣祭り』などメンバーの感情を激しく揺さぶる、ある意味での残酷性が目立ち、グループのプロダクトが見えたような1年でもあった。
ベスト盤リリースを区切りに2010年代へ突入
2010年に入り、AKB48にとって伝説的なドラマ『マジすか学園』(テレビ東京系)が始まった。ドラマのエンディング曲にもなったシングル『桜の栞』は、女性アーティストとしては7年ぶりに初動売上30万枚を突破。これはモーニング娘。の『Mr.Moonlight 〜愛のビッグバンド〜』(2001年)以来である。またグループ初となるオリコンデイリーチャート1位を発売週1週間独占した。ミュージックビデオは、映画『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)などで知られる岩井俊二監督が担当。わずか約6分の映像のなかで、少女が大人への第一歩を踏み出していく貴重な瞬間がおさめられており、AKB48のクリップのなかでも最高傑作のひとつとなっている。
4月にはベストアルバム『神曲たち』をリリース。ただこのベスト盤はこれまでのAKB48のヒストリーを一区切りするようなものでもあった。前年に発表されて混乱を呼んだ「新組閣」が進んでいたからだ。
■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter:https://twitter.com/tanabe_yuuki/