“いつものBRAHMAN”が再び解体される時ーー新たな手段で一夜限りを燃やし尽くした『Tour 2021 -Slow Dance-』
しかし、本当のクライマックスは最後に用意されていた。新曲「SLOW DANCE」。静と動でパーツを切り分ける必要のない、メロディを中心に全体が静かに熱を帯びていくやや激しめのナンバー。紗幕に映る歌詞は〈静粛の世界に声を殺して 静かに踊れ〉である。2020年コロナ禍の歌、ではなく、今ある窮屈な時代をどう独立独歩していくか、明らかにアフターコロナを見据えた2021年の歌だ。こんなふうにライブのかたちを変え、お誂え向きの新曲まで掴み取ってみせるのか。最後に〈SLOW DANCE!〉と叫びながら両手を高々と開放するTOSHI-LOWを見ながら、感動というより、唖然とする驚きも込みで考えてしまう。このキャリアで今、こんなに伸びしろって出てくるものかよ。
思い出すのは、昨年夏に出たILL-BOSSTINOとのコラボ「CLUSTER BLASTER/BACK TO LIFE」の取材だ。主題を離れた雑談はライブの話になり、「三密禁止ならTOSHI-LOWがフロアに飛び込んでいくの絶対無理じゃん」と笑うBOSSに対して、TOSHI-LOWは「もはやアレ待ち、みたいになってるところがあるし」と爆笑していた。そのうえで彼は続けたものだ。でも別にそれがメインじゃないじゃん? 他にどんなやり方があるのか、今それを考えてるところ。
結果論でいえば見事な転機なのだ。観客の上に仁王立ちになることや、飛びかかってくる客をタコ殴りにしていくパフォーマンスが表現の核であるはずはない。ただ、続けるうちにそれが「やれば盛り上がる、ないとつまらない見せ場」になっていた。であれば、潔く捨てる。本当の目的のためなら一気に手段を変える。そういうことを彼らはその都度やってきた。今まさに何度目かのそれが起きている。戸惑いは何ひとつ感じられなかった。バンドにも、観客にも。
新曲以外は元々あったもので、特別なリアレンジも特にないのに、新鮮極まりないことばかりの1時間。静と動を両輪に全力疾走するBRAHMANではなく、愛と怒りをブチ上げる苛烈な鬼でもなかった。椅子席で聴かせ、黙らせ、圧倒する。そして確実なハイライトに向かって一夜限りを燃やし尽くす。ロックバンドの舞台の最後には、鮮烈なこの時代のダンスがあった。見たことがないほど美しいダンス。残された大阪公演を今すぐにでも見たいと思う。
■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。
■セットリスト
『Tour 2021 -Slow Dance-』
6月28日(月)東京Zepp Haneda
1.KAMUY-PIRMA
2.FIBS IN THE HAND
3.空谷の跫音
4.終夜
5.霹靂
6.FROM MY WINDOW
7.BYWAY
8.PLASTIC SMILE
9.新曲
10.ONENESS
11.ナミノウタゲ
12.今夜
13.PLACEBO
14.満月の夕
15.鼎の問
16.SLOW DANCE