声優 櫻井孝宏、アニメ『岸辺露伴は動かない』での壮絶なる演技 2つのエピソードから考察
さらに作品内での表現に踏み込んでみよう。『懺悔室』では、ヴェネツィアの教会で懺悔室に関する取材を行っていた露伴が、ひょんなことから若い男の懺悔を聞くことになる。物語の構成上、実はこのエピソードで露伴は表立った活躍をするわけではない。だが、若い男が語る奇妙で恐ろしい懺悔、その話を聞いたあとに訪れる後味の悪い結末、それら入り組んだ感情の起伏を、櫻井は露伴になりきった上で見事に表現している。
また、配信中の4つのエピソードの中で特に櫻井の声を堪能できるのが『ザ・ラン』だ。冒頭、いきなり右手を骨折した露伴が登場すると、その怪我の理由を話り始める。このエピソードではナレーターとして、そして話の中の登場人物としての露伴が終始切り替わる。スポーツジムで俳優志望の橋本陽馬と出会った露伴は、トレッドミルを使用したゲームを持ちかける。一度目のゲームで勝利した露伴だが、再戦を挑まれると事態は思わぬ方向に向かっていく。
このエピソードでは、陽馬を演じる声優の内山昂輝と、危機に陥る露伴=櫻井のまさにデッドヒートと呼ぶにふさわしいセリフの応酬が見どころだ。ただのトレッドミルを使ったゲームが生死をかけた勝負にすり変わる展開、徐々に異常性を露わにする陽馬と追い込まれていく露伴ーー原作を読み結末を知っているかどうかに関わらず、息をもつかせぬ内山と櫻井の声の演技による駆け引きは、『岸辺露伴は動かない』シリーズ屈指の名場面と言えよう。ちなみに、内山は『ザ・ラン』について「途中、酸欠で台本が読めなくなって大変でした」と語り、櫻井も「後半のドレッドミルのシーンは僕も疲れましたね」と壮絶なアフレコであったことを伝えるコメントも残している。どれほど壮絶なのかは、ぜひ配信中の作品にて確認してもらいたい。
紹介した2つのエピソードに加え、『六壁坂』、そして2020年末にNHKにて実写ドラマ化もされた『富豪村』が配信中だ。記名性の高い櫻井の声を持った岸辺露伴が、一体どんな体験をしたのか。一度見始めたら動けないのでご注意を。