シキドロップ、ネット世代中心に人気拡大 “はみ出し者”に寄り添った音楽性を解明
シキドロップから、旅するような3rdミニアルバム『イタンロマン』が届いた。
「喪失」がテーマの1作目『シキハメグル』、「再生」を描いた『ケモノアガリ』から続く、「自認」をテーマにした3部作の完結編となるこの作品について、ボーカルの宇野悠人と作詞作曲・ピアノを担当する平牧仁へのインタビューとともに、紐解いていきたい。
「喪失」から「再生」、そして自らを受け入れ、行動する「自認」へ。しっかりとしたストーリーが織り上げられているように感じるが、初めからこの3部作の構想があったわけではないという。
「「おぼろ桜」という曲でユニットを結成したのですが、当時は四季の曲を書こうとも考えていませんでした。ただその曲が好評で、「夏の曲も書いたら?」といったノリで四季の曲を書くことになり、1stミニアルバムを作る話になった時、僕がコンセプチュアルな音楽作品に魅力を感じていたこともあって「どうせ作るならギュギュっと一つのテーマを濃縮したような作品にしたい!」というところから全てが始まりました。苦労はありましたがとても達成感があって、「じゃあ二枚目も?」みたいな感じでその後もコンセプトを毎回決めていく流れになりました」(平牧)
「仁ちゃんと出会って遊び半分で作った「おぼろ桜」をきっかけに、僕らは沢山の人に揉まれ、2枚のアルバムを経て少しずつ成長したものが、今回リリースした『イタンロマン』だと僕は思ってます。なので、初めから3部作を想定していたわけではなく、流れでそうなっただけです。ただ、初めからストーリーを描きたいとは思ってました」(宇野)
四季になぞらえながらいくつもの別れを描いた『シキハメグル』は、人間のどろどろとした“情念”とも呼べる感情を描いており、シキドロップの退廃的で皮肉めいたまなざしのスタイルを確立した『ケモノアガリ』には、攻撃的なまでの社会風刺が込められていた。一方で、今回の『イタンロマン』を聴いてみると、1曲目の「イタンロマン」から「エラー彗星」、「新世界」と、どことなく未来的で軽やかなサウンドで紡がれていることに驚く。そこには、3つのアルバムを通じて、もだえ苦しんでいたところから一つ突き抜けたカタルシスが感じられる。
「喪失」からの始まりが、この「自認」に辿りつけた理由はなんだったのだろうか。
「シキドロップ結成ではないでしょうか。一度音楽を生業にすることを諦め、他の仕事をしていましたが、頑なに歌おうとしない頑固な僕を引っ張り出してくれたのは仁ちゃんでした」(宇野)
「「音楽に出会えたこと」、「悠人に出会えたこと」、「サポートしてくれるチームに出会えたこと」。自分を肯定してくれたり求めてくれたり、ありのまま表現できる場に出会えることは僕の人生の上で何よりも価値があって生きる意味になり、この上ないモチベーションです」(平牧)
2人揃って、お互いとの出会いを挙げているのが印象的だ。一度は音楽で挫折した経験を持つ宇野と平牧。そんな2人が出会い、シキドロップとして音楽を奏でるようになった道筋は、3作のストーリーと重なって見える。