Official髭男dism「Universe」レビュー:自らと向き合い前を向くまでの物語 ヒゲダンの曲作りにおける“誠実さと執念”

 Official髭男dismの2021年第1弾シングル『Universe』が2月24日にリリースされる。

[Behind The Scenes]Official髭男dism - Universe

 表題曲はすでに1月1日0時からラジオOAが解禁され、1月9日には先行配信がスタート。軒並み各種サブスクリプションサービスのチャートで首位を獲得している。残念なことに主題歌に起用されている『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』の公開が延期になり、現状では曲が一人歩きしている状態と言えるだろう。

 さりとて、曲そのものからヒゲダンの曲作りの本質である“誠実さと執念”が伝わってくることに変わりない。誠実だからこそ執念深くコード進行やアレンジを詰めるのか、音楽表現への執念があるからこそ妥協なく誠実に作品に向かうのか、それはどちらが先とも言えない。それはバンド、特にソングライターである藤原聡の資質だろう。加えて、メジャーデビュー曲「ノーダウト」以降の全てのシングルにタイアップがついているが、昨年からテーマに対する距離感や、バンドがそれぞれの時期に体現したい音像が、次第にニュートラルになってきた印象が強い。

 特にこの「Universe」。筆者が一聴した際に抱いたのは演奏のダイナミズム。イントロのピアノフレーズの少しオールドなラグタイム・ジャズ的なラフさ、いい意味でいなたさすらあるワウカッティングのギターやデッドな鳴りのドラム、曲を牽引する勢いと音像を支える弾力性のあるベースラインの生感が際立って聴こえた。もちろん、パッと聴き生に聴こえる音もカットアップされていたり、シンバルの残響がなかったり、生音とエレクトロニックな処理は巧妙に仕掛けられている。そのことがまるで自分自身が宇宙船に乗り込んで時空を駆けるようなフィジカルな体感をも生んでいるのだ。これは昨年の「Laughter」、「HELLO」以降、顕著なバランス感だが、現行の海外のサウンドメイクが再び有機的なものへと新たな進化を遂げていることとリンクする。というか、音数を減らし、メリハリの効いた音像も、モロに有機的な音像もどちらも面白い新味を出してきたフェーズではある。ヒゲダンも広がるトレンドを意識しながら、今回、重要視したのは曲が求める生感と打ち込みのバランスだろう。

 彼らは“歌詞とメロディ”といういわば情緒に訴える軸と、“リズムやグルーヴ”と言ったフィジカルを動かす軸、さらに“ヴァース~サビ”というストーリーを駆動する軸の掛け算でカタルシスを生む試行錯誤を何度も行なってきた。劇的なシナプスのつながりは今回も維持されつつ、より有機的で聴くほどに味わいを増す音選びがなされていることが、曲が描こうとしているテーマにもつながってくる。

 そこでリリックとメロディの関係を聴いていくと、勢いよく高音の〈未来がどうとか理想がどうとか〉という、必然的な押韻がまず現れる。このAメロは1番では自問自答だが、2番では〈未来はこうとか理想はこうとか〉という他者からの決め付けに転化し、〈心に土足で来た侵略者〉が、身勝手な正義を武器を片手に掲げているといった、SNS上のディスコミュニケーションや、世界を分断する問題すらイメージさせる。

 押韻でいうとBメロの〈嬉しい悲しいどっち?正しい間違いどっち?〉の跳ねるメロディはかなり日本語をはめるのが難しかったはず。しかも〈どっち〉以外に〈(公園にひとり)ぼっち〉〈(砂場の解答)用紙〉と踏んでいくことで、一気にサビの〈0点のままの心で暮らして〉という、“何も答えが出ていない自分”、あまりにも本音すぎる言葉に不意を突かれ、安堵の涙が溢れる感覚に陥る。また、サビでも〈笑って泣いて〉と、押韻することでセンチメンタルな気分でありつつ、弾みもつけていく。そして公園で一人、満天の星を眺めていた主人公はここが世界=ユニバースなんだといううっすらした感覚を獲得する。0点と満天も何気なく踏んでいるのがいい。

Official髭男dism - Universe[Official Video]

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