草なぎ剛『ミッドナイトスワン』で見せた“映し出す”演技 『日本アカデミー賞』受賞を機に振り返る、必然だった役との出会い
憑依型俳優に“経験”や“心情”が重なったときの爆発力
便宜上「トランスジェンダー役に挑戦」という言葉を使ってしまうが、凪沙という役が俳優・草なぎ剛の新境地となったのは、「初のトランスジェンダー役」ということよりも、もっと本質的に感情がシンクロした役だったからのように思える。
「人生のターニングポイントとかそういう時に自分の気持ちにあった役が舞い降りてくるものだと思っていて、この役が『もっとより自由に個人が生きていいんだよ、剛!』って言ってくれたような気がしました」とは、先のインタビューで語っていた言葉。
一果との生活から、誰かを愛し守るために、今の自分をまるごと受け入れる。そんな自分の人生を生き直すきっかけを掴む凪沙に、不思議な縁を感じているようだ。それは、彼がこの数年で経験してきたことを踏まえれば納得せざるを得ない。
一果と凪沙の出会いは、愛犬・クルミちゃんと草なぎのラブストーリーと重なって見える。草なぎは、新しい地図を広げて、まったくのゼロから「自分とは何者なのか」を改めて見つめてきた。そんな必死な日々を経て生まれた代表作が『ミッドナイトスワン』なのだ。
役作りをせずとも取り組めたのは、彼と凪沙の人間性が大きく重なったからかもしれない。憑依型と呼ばれる俳優・草なぎ剛にとって、これほど大きく自分と重なる役柄というのもレアなケースだったのではないか。そう考えたら、もはや代表作になるのも必然だったのだろう。
この先、草なぎが経験するあらゆる時間と新たな物語がリンクする可能性を感じてワクワクしてくる。年齢を重ねるごとに傑作が生まれる予感がする、そんな俳優と同じ時代を生きる喜びを抱かずにはいられない。