Four Tet、Arca、Charles Webster、Slick Shoota、Eccy……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜10選
Four Tet『Parallel』『871』
フォー・テットが昨年のクリスマスに『Parallel』『871』という2枚のアルバムを同時リリース(いずれもText Recordsから)。これでキーラン・ヘブデンは2020年中にフォー・テット名義だけでアルバム3枚、単曲で20曲ほどリリースしたことになります。ほかにマッドリブとのコラボや別名義の作品もあり。その多作ぶりにはいつも驚かされます。
『Parallel』は、メロディアスなシンセサイザーの繊細な音色を前面に出したアンビエントハウス〜エレクトロニカ〜ブレイクビーツで、いわばフォー・テットの王道ともいうべき洗練された美しい作品。もう1枚の『871』は、内省的なアンビエント〜ドローン〜ノイズ〜コラージュで、キーランの内面や心情がより色濃く投影されている、個人的な作品と言えるかもしれません。それゆえか、『Parallel』は各サブスクリプション配信サービスではフォー・テット名義でリリースされていますが、『871』は00110100 01010100なる別名義で配信されています。
Arca『Riquiquí;Bronze-Instances(1-100)』
アルカの『Riquiquí;Bronze-Instances(1-100)』(XL Recordings)は、昨年のアルバム『KiCk i』に収録された楽曲「Riquiquí」のリミックス集ですが、機械学習音楽制作ソフトウェア“Bronze”によって作成された、なんと100個ものリミックスバージョンを収録したもの。これまでアルカは自分の曲のリミックスを一切許可してこなかったらしいですが、初の公式リミックスがソフトウェアによる自動生成集とは、いかにもアルカらしいぶっ飛んだ企画です。延々6時間近くにもわたって展開される100通りのバージョンを大音量で聴くうち、知覚が麻痺して自分がどこで何を聴いているのかわからなくなってくるような感覚に陥ってしまう。前代未聞の凄まじい聴取体験です。
Dadub『Hypersynchron』
2008年ごろからイタリアを拠点に活動するダニエレ・アンテッツァとマルコ・ドンナルマによるデュオ、ダダブ(Dadub)の7年ぶりの2ndアルバム『Hypersynchron』(Ohm Resistance)。暗黒の波動が地獄の底から地響きを伴って迫ってくるような、不吉で邪悪なダークアンビエント〜ドローン〜ノイズダブ〜インダストリアルが強烈です。英国の暗黒魔王ミック・ハリス率いるスコーン(SCORN)による重量級のリミックスを含む1時間の超絶体験。昨年あたりからアルバム単位で目立って増えてきた猫も杓子もアンビエント〜ドローンのブーム(?)にくさびを打ち込むような、決定的な作品です。
Slick Shoota『Function』
モントリオールを拠点とするDJ/プロデューサー、スリック・シュータ(Slick Shoota)の1stアルバム『Function』(TEKLIFE)。ジューク/フットワーク、レイヴ〜ドラムンベース、ダブステップ、トラップまでも包含したハイブリッドなミュータントディスコで、サブベースのアタックが強烈な重低音と、気の触れたようなアップテンポの変則ビート、耳障りな上モノがもつれあうように凄まじいスピードで疾走していく刺激的な作品です。コロナが明けたら、こういうダンスミュージックで踊りたいもの。
Israel Vines『And Now We Know Nothing』
LAのDJ/プロデューサー、イスラエル・ヴァインズ(Israel Vines)がデトロイトの名門レーベル<Interdimensional Transmissions>からリリースした1stアルバムが『And Now We Know Nothing』 。UKのベースミュージックからの照射を感じさせるダークでエクスペリメンタルなディープミニマルテクノ。ポリリズミックに展開される重いビートが重厚なサブベースを伴って心臓を直撃してきます。アメリカのアンダーグラウンドなテクノシーンの層の厚さを感じさせる力作。