『Face to Face』インタビュー

雨のパレード、新たな環境で挑んだ『Face to Face』の自由な音作り 「自分にしか歌えない曲じゃないとみんなに届かない」

「初期に書いてた情景に通じるものが出せた気がする」

ーー声の使い方という意味では、やはり1曲目の「scapegoat」も印象的でした。

福永:4~5年前にSOHNの曲を聴いて、1回ああいうことをやってみたいと思って。当時で言うとFKA twigsみたいにSPDのサンプリング音源を使って、ライブでできないかと思ったんですけど、当時はまだ同期もナシでクリックも使ってなかったので、やるのが難しくて。で、今年頭にマック・ミラーのアルバムが出て、その中にもこういう曲があったので、今だったらこれもできそうだと思って、挑戦してみました。コロナ禍でいいオーディオインターフェイスを買ったんですけど、これを録ったのはその前で、今までだったら録り直したい気持ちになってたと思うんです。でも今回はそれも許せたというか、いいローファイ感が出てるかもしれないし、これがいいんだろうなって。

ーー〈画面越しのやつは知らない/加減できる言葉 言えない〉という歌詞は、SNSを巡る状況に言及しているわけですよね。

福永:ちょうどSNSでの誹謗中傷の話題が上がっている中で思うことがあったので、この歌詞を書きました。サビはゴスペル風で14トラックくらい重ねて、それを全部一人の声でやっているから、一人で多くの人数を装ってるわけで、曲のテーマにも合ってるなって。そういういろんなミラクルがハマった曲ですね。

ーー先に声を使ったサウンドのアイデアがあって、そこに歌詞のテーマが紐づいた?

福永:完全に音からです。作り終えてから気づいたこともいろいろあって。この曲で書かれてることって、完全に解決することではないと思っていて。不条理という言葉が合ってるかどうかわからないですけど、そういうことをゴスペルで歌うことにも意味を感じています。

山﨑:今回の歌詞には浩平くんがもともと持ってる毒っ気みたいなものが色濃く出ていて、僕はそういうのすごく好きで。匿名での誹謗中傷は昔からあることだけど、それがより浮き彫りになった時期に、それについて端的に言ってくれるのは本当にその通りだなって、共感する部分が多々ありました。

福永:Twitterで昔の歌詞のbotとか流れてくると、「こういう曲を書けてたな」という感覚になるときがあって。同年代の曲を作る友達は「もう取り戻せない感覚だ」と言ってたけど、もうちょっとあがいてみようかなって思ったんです。例えば「partagas」とか「Flash Back」とかって詩的な言葉を並べてるだけなんですけど、初期に書いてた情景に通じるものが出せた気がして、“取り戻す”じゃないけど、改めて自分のそういう部分に気付けました。

大澤:一番ハッとしたのは「scapegoat」でした。SNSの誹謗中傷で亡くなった方のニュースを見て毎回グサッと来てて、それに対する怒りの気持ちもあったので、こうやってちょっと辛辣に皮肉も込めつつ書いてるのはいいなって。ただ、〈みんながみんな/幸せになれるならいいのに〉みたいにちょっと柔らかい部分もあって、この曲は誹謗中傷を受けてる人にも、誹謗中傷をしてる人にもどっちにも響くと思います。あと「Dear Friend」や「Child’s Heart」は、「自分と向き合った」って言ってましたけど、それをしたことによって書けた歌詞だと思うので、読んでてグッときましたね。

ーー僕も「Dear Friend」と「Child’s Heart」は印象的で。歌詞には今年の状況が反映されてると思うし、「Dear Friend」はアコギの弾き語りでも成り立つような曲で、サウンドの作り込みとはまた違う意味での“部屋感”が感じられたのも、2020年的だなと。

福永:「Dear Friend」に関しては、「自分にしか書けない曲」を考えたときに、僕は学校に行ってない時期があったので、そのときのことを歌った曲で、同じように学校に行けてない子たちに何か言ってあげられないかなと思って書いた曲なんです。それが結果的に、コロナともリンクしちゃったんですけど。

ーー〈「普通」ができなくなって/閉じこもった毎日〉という歌い出しは、やはり2020年の状況を歌ったものかと思いました。

福永:これまでのインタビューでも何人かの方がそういう受け取り方をされていて、逆に「なるほど」と思いましたね。でも、別のインタビュアーの方には「普遍的な名曲はどの時代のどういう状況でも響く」と言ってもらえて、ありがたかったです。

「近くにいる人たちに愛を伝えるきっかけになれば」

ーーサウンド的には「if」あたりが雨のパレードらしい80年代感なのに対して、この曲は90年代を感じさせます。

福永:そうですね。Suchmosが売れたときは、僕もああいう音楽が好きなので、そのカウンターとしてブリティッシュロックみたいなのを『Reason of Black Color』の「MARCH」でやってみたんです。そうしたら周りの方に「早すぎる」って笑われて(笑)。俺はまだシーンがどのくらいのペースで変わるかとかあんまりわかってなくて、実際その頃はオシャレなバンドがいっぱい出てきてたから、確かに早すぎたなって。でも、そこで学んだことはすごくあって。そのときはハイファイ寄りだったんですけど、音の質感をもっと90年代ブリティッシュロックに寄せたいと思って、声も歪んでる印象にしたり、今回より時代感を出せたんじゃないかなって。

ーー「Dear Friend」は90年代末の印象かも。アメリカではラウドロック勢が伸びてきて、イギリスのロックもちょっとヘヴィになってるくらいの時代というか。

福永:今回アルバムの推し曲をどれにするかをチームで話し合って、それぞれ違う曲を推してたりして、その中には「Dear Friend」も入っていたんですけど、正直リードで出すにはまだちょっとだけ早いかなと思って。「MARCH」のトラウマもあるし(笑)。かなりライブライクな曲だと思うので、少しずつライブで育てていって、みんなに広まっていけばいいなと思ってます。ライブでは珍しく僕がアコギを持つ予定です。結果リードになったのは「Child’s Heart」で、この曲はコロナ禍で感じた強い繋がりーー家族とか一緒に暮らしてる人もそうですし、リモートでも飲みたい人とか、自粛期間明けてすぐに会った人とか、そういう近くにいる人たちに愛を伝えるきっかけになればと思って、それを子供から両親に向けた目線で書きました。

ーー離れた場所から投げられる愛のない言葉について書いた「scapegoat」から始まり、すぐ近くにいる人への愛情のこもった言葉を歌う「Child’s Heart」で終わる構成は、今年のドキュメントのようで、このアルバムが2020年に出ることの意味を感じさせます。

大澤:音に関してはコロナだからとかは考えずに、純粋にいいものを作ろうと思ったんですけど、歌詞を読んだときは、絶対刺さるだろうなっていう確信がありました。「Child’s Heart」はアコースティックな音作りだからこそ、歌がすごく立っていて、歌詞も響くと思います。

山﨑:僕も作り始めはそこまでコロナを意識していたわけじゃなかったけど、でも結果的に今までといろいろ違うことがあって。その相互作用が働いて、この時代に出るべくして出るような形になっていったのかなって。

ーー時代感をさらに強めているのが、『Face to Face』というタイトルかなと。

福永:このタイトルは8月の配信ライブのときに発表していたんですけど、正直ギリギリまで悩んだんです。いろいろ案を挙げた中で、チームとして「これがいいんじゃないか」って。まだ曲が全部できる前に発表したんですけど(笑)。

ーー「Child’s Heart」のテーマである近くにいる人への愛情だったり、部屋で3人で顔を突き合わせて制作していたり、ライブでお客さんと直接会うことの尊さを再認識したり、2020年のいろんな出来事がこのタイトルに集約されているように思います。

福永:なるほど。8月の段階でどこまで曲ができてたかは曖昧なんですけど、無意識の中でこのタイトルに向かって曲を作っていたのかなって、今話をしながら思いました。曲順はいつも悩むんですけど、今回はすぐに全部決まって「これしかないな」って感じだったので、そういう意味でも珍しいアルバムになったと思いますね。

ーーでは最後に、12月25日の久々の有観客ライブに向けて一言もらえますか?

福永:今回はサポートメンバーを入れることにして、Sawagiでベースを弾いていた雲丹(亀卓人)さん、キーボードのAAAMYYYと5人でやってみます。去年はベースを流してライブをやったんですけど、<Rallye Label>の近越(文紀)さんが「浩平の歌はフィジカルのベースがいた方が合ってると思う」と言ってくださったのが印象に残っていて。何か変化が欲しいのは僕もチームも思っていたことだったし、このタイミングでサポートを入れるのがいいんじゃないかなって。これからライブがどういう感じになっていくかはまだわからないけど、3人でやるときもあれば、サポートを入れてやるときもある、みたいな感じになるかもしれないですね。

雨のパレード『Face to Face』

■リリース情報
雨のパレード『Face to Face』
12月23日(水)発売
初回盤/通常盤 ¥3,000+税

<収録曲>
1. scapegoat
2. Strange GUM
3. if
4. IDENTITY
5. Have a good night
6. resistance
7. Dear Friend
8. partagas
9. Flash Back
10. one frame
11. Child’s Heart

■ライブ情報
『ame_no_parade LIVE 2020“Face to Face”』
2020年12月25日(金)Zepp DiverCity(Tokyo) 
開場 / 開演:18:00 / 19:00(※全席指定)
来場ライブチケット:¥5,500(税込)

オンラインライブチケット(1/3までアーカイブ視聴可):¥3,000(税込)
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期間:11/7(土)10:00~1/3(日)21:00

■雨のパレード リンク
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Official Twitter(@amenoparade)

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